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救出作戦:2

「さぁ、最期に言っておきたいことはあるか?」

 西崎は翔に向かって言った。

「お……俺は悪くない!」と、彼は叫んだ。「あんたが勝手に逆恨みしてるだけだ!! 俺は何も悪くないんだよ!!」

 この期に及んでこのクソガキが。和泉は内心で舌打ちした。

「悪いのは全部他人か。親が可愛がってくれなかったから、学校が面倒見てくれなかったから、教師が注意してくれなかったから……そうやって何もかも人のせいにするのか?」

 表立って賛同はできないものの、和泉も西崎の言葉に頷いていた。

「お前もか? 市ノ瀬」

 何を言いだすのだろう?

「俺が悪いと言うのか? いつも仕事ばかりで、美貴子をほったらかした俺のせいか。だから美貴子はお前の子供を、隆弘を産んだのか?」

 西崎の銃口が、今度は市ノ瀬の方を向いた。


 その隙に気付いた翔が下山する方向へ向かって走り出す。

「駄目だ!!」

 聡介が叫ぶ。しかし、少年は止まらない。

 止まる訳がないのだ。

 和泉は何も考えず、反射的に美咲の元に駆け寄り、彼女を抱きかかえて地面に伏せた。


 パン、と鋭い発砲音。土の上に鮮血が飛び散る。

 彼の放った銃弾は翔の肩を撃ち抜いていた。

 聡介がポケットからハンカチを取り出して急いで止血を開始する。

 無線で救急車を呼んだが、何しろ車の入れない場所である。

 到着まで時間がかかるだろう。


「西崎!! こんなことをして何になるって言うんだ?!」聡介が叫んだ。

「見せしめさ」西崎は言った。

「……見せしめ?」

「俺が隆弘の父親だっていうことだ。本当の父親ならきっとこうする」

 この男はいったい何を考えている?

 和泉は思わず息を詰め、西崎を見つめた。

「なぁ高岡、お前なら俺の気持ちをわかってくれると思う。お前も女房に裏切られたクチだろう? 娘が二人だったか……本当に自分の子だと信じているのか?」

 元刑事は淡々と、まるで他人事のように言った。

 市ノ瀬と呼ばれた男がびくっと全身を震わせる。

「当たり前だ!」

 聡介は答える。

「そこにいる彰彦も、二人の娘も、間違いなく俺の子供だ!!」

 ああ、疑うことを知らないこの人は……どうして刑事になんかなったのだろう。


 つまりこの男は、自分の息子だと信じていた子供が、実は他の男の子だと疑っているのだ。

 そして妻とその愛人に対するパフォーマンスとして、こんなバカげた茶番を展開している。

 その間男とは間違いなくこの市ノ瀬という刑事だろう。

 

 痴情のもつれに他人を巻き込むな。和泉は腹の中で毒づいた。


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