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反対尋問

 その隙を狙って、市ノ瀬が拳銃を奪おうとした。しかし、低い呻き声と共に彼は地面に膝をつく。

 西崎の方が一枚上手だった。拳銃の台尻で市ノ瀬を殴りつけたのだ。

「甘く見るな。何年一緒に働いてきたと思っているんだ? お前の行動パターンぐらい簡単に読めるんだ」

 ぞっとするほど冷たい声。

「西崎……さん……」

 市ノ瀬の額から血が流れ出ている。

 美咲は急いで懐からハンカチを取り出し、傷口に当てる。

「ツメが甘いんだよ、お前は。いつも言ってるだろう? 最後に油断して気を抜くから痛い目に遭うんだ。あのことも、そうだった……」

 

 それから西崎は再び銃口を翔に向けた。

「おい、貴様。説明してみろ。隆弘がどうして、お前達みたいなクズ野郎の仲間になったのか……」

「あいつが自分から仲間にしてくれって言ってきたんだよ!」と、彼は叫んだ。

「ホームレスを襲ったのはどういう理由だ?」

「……ムシャクシャしてたんだ。誰かに八つ当たりしたくて」

 勝手な言い分だ、と美咲は思った。

「彼らなら許されると思ったのか?」

 彼女の思いを代弁するように西崎が言う。

「だって、あいつらなんか、社会のゴミだろ? 税金も払わない、健康保険だって……あんた達は税金で飯食ってんだろ? それなのに、そんなやつらの為にも働くのか?」

「ずいぶん難しいことを知っているんだな」

 その言い種に美咲でさえ憤りを覚えたが、西崎はもっと苛立ったようだ。銃口はそのまま、彼は翔の頬を殴り付けた。

「おまえらが税金を払って俺たちを養ってくれているのか? 違うよな、払っているのは親だ。一人じゃ何もできないガキが、集団になると強くなった気になる。少年だから何をしても許される、親が尻をぬぐってくれる……ふざけるな。本当のクズはおまえらのような人間だ。隆弘はどうして、お前達なんかと……」

 すると翔はいきなり、勢いづいたかのように答える。

「教えてやるよ。あいつ……タカヒロは父親が大嫌いだって言ってた。外面が良くていつも偉そうで、自分のことしか考えてない。母親のことを召使いみたいに扱ってる。家族よりも仕事が大事で、自分や母親が病気で苦しんでいる時だって、傍にいてはくれなかった……もし自分が犯罪者になったら、あいつはどんな顔をするんだろう?」

「隆弘が、そんな……」

 それは西崎の息子の言葉というより、翔の本心ではないだろうか? 美咲はそう思った。


「西崎さん、もうやめましょう」市ノ瀬が言った。「こんなことがいったい何になるんですか?」

 不意に美咲は目の前が暗くなり、何が覆い被さるのを感じた。

 そして耳をつんざく音。銃声だ。

「どうだっていいんだ、そんなことは。俺は、俺の気が済むようにしたい」


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