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電話帳掲載名

 なんだか気まずい。

 隣に座っているこの男は元々無口なのだろうが、その上無表情だし、少しでも動きを見せようものなら、妙に鋭い目で見つめられる。

 なんとなく取り残された格好で、周は和泉に『葵ちゃん』と呼ばれていた男と二人、旅館のロビーに腰掛けていた。


 義姉のストーカーだと思っていたこの男が実は和泉の知り合いで、それも職場の同僚ということは、こいつも警察官ということか。

 けど、だからといってストーカーじゃないとは絶対に言い切れない。

 周は胸の内でこの男を何て呼ぶか考えていた。

 

 喉が渇いた。お茶でも買ってこよう。周が立ち上がると、

「どこへ行く?」と声をかけられる。

 抑揚がなくて、なんだか自動音声が話しているみたいだ。

 決めた、こいつは『銀行ATM』だ。

「お茶買ってくるんだよ」

 周は自動販売機のところへ行って、お茶と缶コーヒーを買った。自分の分だけ買おうかと思ったがそれも忍びない。

 ソファーに戻ってお茶とコーヒーを『銀行ATM』に差し出す。

「どっちか飲めば?」

「……ありがとう」

『銀行ATM』は缶コーヒーを受け取り、胸ポケットから小銭入れを取り出す。

「別にいらねぇよ」

「そういう訳にはいかない」

 ふん、と周は200円を受け取った。缶コーヒーは150円。お釣りを十円玉4枚と五円玉1枚、一円玉5枚できっちりと返す。

「なぁ……うちの義姉とどういう関係なんだよ?」

 返事がない。

 シカトかよ、と周は気分を害した。

「……目上の人間に対する口の聞き方ではないな」

 ムカっ。基本的に周は年上の相手に対しては敬語で話すことにしている。

 しかし頭からこいつは義姉のストーカーだと信じて疑っていないので、ついぞんざいな話し方をしてしまう。

 もっとも理由はそれだけではない。なんとなく、だが……気に入らない。


 要するにムシが好かないということだ。

 あまり推理小説を読んだことはないが、言わば刑事と探偵のような感情だろうか?


 周がいろいろと考えを巡らしている間にも旅館には次々と新しい客が入って来る。

 こうしていると、確かに義姉は忙しいのだろうなと思う。彼女はこの仕事が好きなのだろうか?


 そこへ、板前と思われる白衣を着た若い男性がフラフラとやってきた。

「……お巡りさん……」

「石岡さん?」

 彼は真っ直ぐに『銀行ATM』へ向かって歩いて来る。

 どうやら二人は知り合い同士のようだ。

 ということは、このストーカーと思われる男はこの宮島が地元なのだろうか?

「頼む、サキちゃんを……助けてくれ!!」

 

 さっ、と彼は顔色を変えて立ち上がる。

 もはや『銀行ATM』ではない。

「どうしたんですか? 美咲に何かあったんですか?!」

 こいつ、人ん家の義姉を名前で呼び捨てしやがった!!

 なんてことを気にしている場合じゃないことぐらい、何が起きているのかよくわかっていない周にも理解できた。


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