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痩せぎすでまったく肉がついていないのかと思えば案外そうでもない。
ちゃんとつくべきところには筋肉がついている。
和泉はつい、興味本位で周の身体をまさぐってしまった。これでは真の変態である。
「ちなみにスリの線も薄いよ。この子、お金持ちの家に産まれてるから」
すると女性は舌打ちを残して、どこかへ走り去ってしまった。
「あ、ほらどこかへ行っちゃった。良かったね、周君」
そして周はと言えば、顔面蒼白で固まっていた。
しばらくは妙な空気が交番中を支配した。
「……で、周君はどうしてここに?」
返事までに間があった。
「とりあえず、離してもらえませんか……」
言われて和泉は、思ったよりも周の抱き心地が良かったことに気付いた。
しぶしぶ離すと彼は大きく息をつく。
「義姉を迎えに来たんです」
「美咲さんを? どうして」
「どうしてって、そんなの別に俺の勝手でしょう」
ぷい、とそっぽを向いて周はさっさと交番を出て行こうとする。
「ストップ! どうせなら僕らと行動を共にした方がいいよ」
和泉は彼の手をつかんだ。
「……なんでです?」
「なんとなく。なんか嫌な予感がしてならないんだよね」
「そうだな、一緒の方が安心だ」
聡介が言うと、周はすんなりと頷いた。
実際、もしかしたらショウや、彼の命を狙っているかもしれない西崎が拳銃を持って歩き回っているかもしれない。何の関係もないだろうが、万が一にも巻き添えをくわせるわけにはいかない。
それに、ショウが探していた『ミサキ』という人物が彼の義姉である可能性もあるのだ。
「じゃ、腕を組んで歩こうか? 周君」
「冗談じゃありません」
周は冷たく言い放って、それから聡介の後ろに隠れるようにして歩き出した。
「ところで、お義姉さんが働いている旅館はなんていうんだ?」
「御柳亭、です」どういう訳か周は聡介の質問には素直に答えるようである。
「お義姉さんから、迎えに来て欲しいって頼まれたのか?」
周はそうじゃない、と答えた。そして、
「……ストーカー?」
彼が義姉を迎えに来たのは、彼女をストーキングしている男の存在がちらついて心配だからだということだった。
「確かにね、お義姉さん美人だもんねぇ……」和泉は言った。
「今の世の中、訳のわからない行動に出る人間は少なくないですからね」
そうして周は和泉と聡介を等分に見つめた。「警察がもっとしっかりしてくれないと、俺達一般市民は安心できませんよ」
父と子は顔を見合わせて苦笑するしかなかった。




