遠足気分:1
その時、電話が鳴った。
和泉が応答する。
「……ミサキ……?」
確か隣室の女性の名前は『美咲』じゃなかっただろうか。
聡介がぼんやり考えている傍を、駿河がものすごい勢いで傍を通り過ぎた。
「ミサキという人物に……ですか?」
何を思ったか駿河は、和泉の手から受話器を取り上げた。
「『ミサキ』というのは男性ですか、女性ですか?!」
大抵のことには動じない和泉もびっくりしている。聡介も然りだ。
「わからない……ただ名前だけ……そうですか」
通話は終わったようだ。
受話器を置いた駿河は、全員の視線を集めていることに気付いたようだが、相変わらず無表情で何事もなかったかのように自分の席に戻った。
「彰彦、葵。お前達二人で今の内容を報告しろ」
聡介が言うと二人は揃って彼の前に立った。
「今、廿日市南署管内の宮島駐在所から連絡がありました」と、和泉。「ショウらしき人物が宮島に姿を見せたそうです。なんでも『ミサキ』なる人物を探していると」
聡介は駿河の方を見た。
「『ミサキ』というのが名字なのか名前なのか、男性か女性か、その点を確認しましたのですがはっきりしません」
そうか、とだけ答えてそれ以上は問わないことにした。
明らかに彼は『ミサキ』の名前に強く反応した。和泉にも余計なことは言わないよう目で指示を送る。
「和泉警部補、申し訳ありません」
駿河は和泉に頭を下げた。すると彼は、
「何が?」と、言ってからにっこりと聡介を見た。
「それより聡さん。そうなると早速、宮島行き決定ですよね~。久しぶりだなぁ、小学校の遠足以来だ」
こいつは本当に半分遠足気分なんじゃないだろうか。
しかし、ショウが宮島にいるのなら西崎もそこへいる可能性が高い。
それにしても『ミサキ』とはいったい?
「よし、宮島に向かうぞ。そうだな、彰彦と葵、それから……三枝。あと、日下部は連絡係にのこっておいてくれ。それから、友永」
聡介は少年の相手が得意な部下に向かって言った。
「ショウの仲間からもう少し『ミサキ』なる人物のことを聞いておいてくれないか」
「へいへいっと。宮島に行くんなら、土産忘れんといてくださいよ?」
友永は椅子に引っ掛けておいたジャケットを肩に引っ掛けて、部屋を出て行った。




