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別れたら、ただの他人

 六甲山での西崎の捜索は兵庫県警に任せることにしよう。

 それは言ってみれば聡介の勘だが、そこに彼はいないような気がした。

 息子と一緒に山に登った記念に撮った写真というなら県内ではないだろうか。

 何かあった時にすぐ臨場できるよう、刑事はプライベートであまり遠くへ出かけないものだ。


 西崎を目撃したという情報は今のところまだ入っていない。

 西崎美貴子の入院している病院を辞して、聡介と駿河はいったん捜査1課の部屋に戻ることにした。

 運転している若くて無口な刑事は先ほどから何かずっと考えているようだ。

 

 元々無駄口は一切きかない男だが、今彼の頭の中でどんな推論が展開されているのか、聡介には非常に興味があった。

「葵、今何を考えている? 少し話してみないか」

「……あの、西崎さんの机の上にあった百人一首です」

 確か、切ない恋心を読んだ歌だ。

「それと、市ノ瀬さんの態度……」

 西崎の相棒。聡介は知らない刑事だが、駿河はかつて一緒に働いた仲だ。

「高岡警部は、もし和泉さんが何らかの理由で失踪したとしたら、一人残された奥さんにどう接しますか?」

 あいつはバツイチだ。などと余計なことは言わなくても良い。

 もしそんな状況になったら……と想像を働かせてみる。

 

 別れた和泉の妻のことを思い出してみた。名前は確か静香だった。

 今思えば、彼女は自分のことを快く思っていなかったのではないだろうか。

 その理由はよくわかる。和泉は、あのバカ息子はいつも自分の妻より父親である聡介との時間を優先させていたような気がする。

 

 本来妻に向けるべき関心を、職場の同僚で、実の父親のように慕う聡介にばかり向けていれば愛想も尽きるだろう。

 もし和泉がいきなり失踪したとしても、そのせいで具合が悪くなったとしても、彼女は聡介に頼ったりしないだろう。そもそも彼女の両親はまだ健在なのだし。

「そうだな……できる限りのことはしたいと思うが、俺は向こうに良く思われていないようだしな。この通り、仕事に忙殺されてる訳だから……」

 たいした面倒は見られない。

 そう言いかけて聡介は気付いた。

 もしかしたら見舞いに来ることさえままならないかもしれない。

「西崎の奥さんは、ご両親や兄弟は……?」

「詳しいことはわかりません」

「まさかお前、市ノ瀬っていう刑事と西崎の奥さんは……」

「あくまで推測に過ぎません」

 確かに彼は、あの百人一首のメモを二人が見つけた時、様子がおかしかった。

 

 もしかしてあれは、西崎の奥さんが市ノ瀬に送った歌なのではないか。そう考えることもできる。

 あるいは。

 西崎がお前達の関係を知ってるぞ、という警告を暗に匂わせていたか。

 

 しかし確証がない。

「仮に、お前の推測が当たっていたとして……今回の件にどう関係してくるんだ?」

 わかりません、と駿河は答えた。

 そして車は県警本部の駐車場に到着する。

 捜査1課強行犯係の部屋に戻ると、和泉が深刻な顔で近付いてきた。

「聡さん、たった今安芸中央署から連絡がありました。緒方翔が姿を消したそうです」

 緒方翔が先日逮捕、釈放された『ショウ』だということに気付くまで、聡介には数秒かかってしまった。

「姿を消したって……?」

「奴にはずっと監視がついていました。しかし、急に姿を消した……もしかしたら手引きをした人間がいるかもしれません」

「そのショウっていうクソガキのことだけどな」

 友永がイヤホンを耳から外して言う。「ネットで知り合った『Rain』とかいう奴と頻繁に遣り取りしていたそうだ。実際に会ったことはないそうだが、タカヒロをショウに紹介したのもそいつらしい」

「何者だ? その『Rain』とかいうのは」

「さぁ。そいつは、なんだっけ? サイバー犯罪対策室とやらに任せた方がいいんじゃないですか」

 元少年課の刑事は再び耳にイヤホンを挿し込み、スポーツ新聞を広げた。


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