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タヌキとキツネ

 実際その後は『Rain』の言う通りだった。

 ただ、想定外だったのはタカヒロが逮捕されて、留置場で自殺したことだ。

 あいつはきっと俺達のことを警察にベラベラしゃべったに違いない。

 だから、いつものゲーセンで警察に捕まった。

 

 でも、それで終わりだった。父親が雇った弁護士は本当に優秀だったから。

 これでもう何の心配もなく、明日からはいつも通りの生活だ。

 そう思ったのは一瞬のことだ。

 そのすぐ後に『Rain』から連絡があった。

「タカヒロのお父さんが、君を探しているよ。息子をこんなことに巻き込んだ上に自殺に追い込んだってね。拳銃を持っているらしい。このままだと殺されるよ」

 ヤバい。逃げなければ。

 でも、どこへ?

 

 協力してくれるかと思った『Rain』はしかし、案に相違して冷たかった。

 逃走資金もくれなければ、助けようともしてくれない。

 ただ。彼は言った。


「宮島に渡ってごらん。そこで『ミサキ』っていう人物を探すといい」

 男なのか女なのか名字か名前かもわからない。けれど『ミサキ』は本当のことを話さないで、同情を引くような作り話をすればきっと助けてくれる。

 翔はその言葉を信じて宮島へ単身渡った。


 しかし、宮島は思った以上に人が多く、歩き回るにも時間がかかった。

 表参道沿いの店で数件『ミサキ』について尋ねてみたが反応はない。その内、不審者だと思われて警察に通報された。

 翔は仕方なく島内で時間が過ぎるのを待った。

 山の上の展望台で一夜を過ごし、そうして次の日も『ミサキ』を探すことにした。

 しかしその内、だんだん騙されているのではないかという気分になってきた。

 

 でも、もしかしてタカヒロの父親が自分を探しているのだとしたら?

『ミサキ』を探して歩き回っていることを知ったら?

 翔はその日一日、島内のあちこちに身を潜めた。

 

 空腹を満たすためにコンビニで食べ物を買い、所持金はたった一日で尽きてしまった。遊ぶ金はいつも親が口座に振り込んでくれた。けれど、この狭い島のどこに銀行のATMがあるのかわからない。探し回ろうにも疲れていて面倒くさい。

 それに、もしもタカヒロの父親に見つかったら?

 

 そうしている内に二晩を野宿で過ごすことになった。二日目の夜、このままではマズいと思い、翔は家に帰ろうと考えた。しかし思ったよりも身体が弱っていた。

 歩いているうちに民家を見つけた。

 この際、脅してでも泊めてもらおう。

 

 そこで偶然出会ったのが『ミサキ』だった。

 てっきりハンドルネームかと思ったら本当に美咲という名前だった。

 旅館の従業員のような格好をしている。

 それから孝ちゃんと呼ばれる男も出てきた。

 

 翔は二人に『Rain』から言われた通り、でっちあげの話をきかせた。

 二人とも本気にしたようだ。その上、こっちの想像以上に親切にしてくれた。

 食べるものと寝るところに苦労はしない。

 

 ただ、表に出られないのが辛い。

 まぁでも、少しの辛抱だろう。

 これからどうするか、どうなるかなんていう先の事を考える頭は、この少年にはまったく備わっていない。


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