1名確保
「友永さんのおかげで思いがけない情報を得ましたよ」
真面目に聞き込みをしていたかどうか疑わしい相棒は、喫煙所で煙草をふかしていた。
「西崎隆弘がつるんでいたと思われる少年グループを見たことがあるという証言が得られました。紙屋町に向かいます」和泉は言った。
「忙しいことだな」
友永は顔をしかめて煙草を灰皿に押し付けた。
車のハンドルを操作しながら、和泉はさっき出会った少年のことをふと思い出した。
なんというのか少年らしくない。顔立ちそのものはどこかのアイドルグループにでもいそうなのに。周はいかにも17歳の少年らしく、幼さが残る可愛らしさに溢れている。
が、その友人はひどく大人びて見えた。
それに隠しているつもりのようだったが、和泉に対して、いや警察全体に敵愾心を抱いているようだ。だからと言って警察を撹乱するために嘘の証言をしたとも思えない。
今はとにかく動き回るしかない。
西崎が何を考えているのかわからない以上は。
駐車場に車を止めて、適当に昼食を済ませる。
周の友人から聞いた塾の場所を確かめ、そのすぐ隣のビルに入っているゲームセンターを訪ねる。
店員を捕まえて似顔絵を見せる。すぐに反応があった。
「あぁ、この子達ならよく来ますよ」
「名前はわかりますか?」
「さすがにそこまでは……あ、けどリーダー格の男の子は『ショウ』って呼ばれていましたね」
それから和泉はいったんゲームセンターを出て聡介に電話をかける。
父の指示は、少年達が現れるまで張り込めということだった。電話を切るか切らないかのタイミングで、該当少年の集団がゲームセンターにやってきた。合計4人。
間違いない、似顔絵の連中だ。
西崎が来ていないだろうか?
急いで辺りを見回す。今のところは見当たらない。少年達は真っ直ぐにメダルゲームに向かい、スロットマシンを始めた。
和泉が少年達に近付こうとすると、友永に制止される。
「ここは俺にまかせとけ」
元少年課の刑事はゆっくりと少年達に近付いていく。
和泉は西崎があらわれないかと気にしつつ、友永の様子を見守った。
「ショウってのはどいつだ?」
少年達が一斉に振り返る。彼らは皆一様に胡散臭そうな目をしている。
「なんだよ? おっさん」
髪を金色に染めて、手首に刺青をした少年は友永と和泉を睨む。
「ちょっと話を聞きたいことがあるんだが」
彼らは二人が警官であることを本能で察したようだ。
蜘蛛の子を散らすように一斉に走り出す。
「待て!!」
和泉は予め調べておいた店の通用口から外に出た。
金色の髪の少年がきっとリーダー格で『ショウ』なのだろう。
そして曲がり角でショウと出くわす。
「どけ!!」
「やだね」
いつも持ち歩いているだろうナイフを取り出し、ショウが襲いかかって来る。
和泉は最初の一撃をかわすと背後に回り込んで蹴りを喰らわす。
ショウはバランスを崩して地面に倒れた。
細く頼りない腕を背中に回し手錠をかける。他の少年達はどうなったろうか。友永も1人ぐらいは捕まえてくれただろう。
聡介から電話がかかってきた。
該当少年を確保したと伝えると、ねぎらいの言葉と共に、捜査1課に戻って来るようにとの指示があった。




