捜索開始:3
振り返ると、おそらく30代後半から40代前半ぐらいの刑事が目をギラギラさせて聡介と駿河を睨んでいる。
「市ノ瀬さん」
「なんだ。お前か、駿河……」
市ノ瀬と言えば確か西崎とコンビを組んでいた刑事だ。
「どうしてここに?」
「西崎さんを探しています」
「それで行き先の手掛かりになりそうなものを探しに、か?」
駿河はうなずき、今聡介が見つけたメモを市ノ瀬に見せた。
「西崎さんは百人一首か、競技かるたにでも興味があったんですか? 少なくとも自分がここにいた頃には聞いたことがありませんが」
市ノ瀬はメモを受け取って読んだ。
そして一瞬だが、息を呑んだのがわかった。
「……さぁな、俺も知らない。だいたいこんなものが何かのヒントになるとも思えないだろう」
彼はメモを手の中で丸めてゴミ箱に捨ててしまった。
「市ノ瀬さんはどうお考えですか? 西崎さんが姿を消した理由」
駿河が市ノ瀬に訊ねる。
彼は西崎隆弘が自殺したことを知っているのだろうか。
「……まず、自分の意見を言ってみろ」
「自分がまだここにいる頃から、時折西崎さんの様子がおかしかったのには気付いていました。何か重大な悩みを抱えておられたように思えます」
市ノ瀬は椅子にどかっと腰を下ろし、はっと笑った。
「たいした心理学者だな。西崎さんがお前に悩みの相談でも持ちかけたか? 定年後の再就職先についてだとか」
ほとんど顔に出なかったが、駿河がムッとしたのに聡介は気付いた。
「あの人は武士なんだよ。生き恥を晒すぐらいなら、死んだ方がマシってな」
「つまり、市ノ瀬さんは西崎さんが自殺する可能性があると考えているんですね」
聡介が言った。彼はいくら相手が自分より年下だろうと、部下以外の人間には丁寧語で話すことにしている。
「他に何かありますか?」
「西崎が拳銃を持ち出したことはご存知でしたか?」
市ノ瀬の表情が凍りつく。どうやら聞いていなかったようだ。
「もしかしたら息子さんを、隆弘君を犯罪に巻き込んだ不良少年達を探し出して、復讐するつもりかもしれません」
「それはありません!!」
ガタっと立ち上がって彼は叫んだ。
「……なぜ、断定できるんです?」
少しの沈黙があった。そして、
「先ほども申しましたが西崎さんは、現代の武士なんです。私情に流されて行動する人では決してありません。それに……県警……いえ、全国の警察組織に迷惑をかけるようなことをする人ではありません!!」
彼はきっと西崎と長い間ずっと一緒に働いてきたのだろう。
説得力のあるその意見には確信がこもっていた。
市ノ瀬はフラフラと刑事部屋を出て行こうとする。
「市ノ瀬さん、どちらへ?」
「もちろん、西崎さんを探しにですよ」
「心当たりがあるんですか?!」
「……自殺の名所を巡ってみます……」




