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捜索開始:2

 確かにその通りだ。だけど、目の前にいる仲間を助けられないで、どうして居場所もわからない仲間を助けられるだろう。

 今の駿河は若い頃の、出会ったばかりの頃の和泉を思い出させる。


 当時の彼は今からは想像できないほど自分の殻に閉じこもり、誰にも心を開こうとはしなかった。

 もちろん職場はサークルや趣味の集まりではない。まして犯罪者を追いかける猛者達が集まっている刑事課なのだ。

 他人にかまっている場合ではないし、誰かと親しくなったところで昇進や希望の部署に異動できる訳じゃない。

 

 古くから体育会系の精神が染み着いた警察組織の中では、先輩の命令が絶対で、理屈の通らないこともままある。

 けれど聡介はそういうのが好きじゃなかった。

 それに何より和泉は聡介の大恩人である尾道東署刑事課長から託された人物だった。

 今年から入る新人の面倒を見てくれと言われ、初めて会った時に何となくピンときた。こいつは将来、絶対にいいデカになる。

 

 今は駿河にも同じことを感じている。

 何しろまわりの仲間が微妙なので、真面目で一生懸命な彼を高く評価してしまうのは無理もないかもしれない。

 が、聡介は自分の勘が外れていないと確信している。

 

 ところで大抵のドライバーが黄色信号は状況を見て『進め』だと思っている中、とくに広島県は全国的に運転マナーが悪いことで有名だが、自動車教習所のお手本になりそうな運転をする駿河は、きっちりと法定速度を守っている。

 見込み発進、急ブレーキ、急発進とはまるで縁のない、真面目そのものの運転で廿日市南署に到着する。

 駐車場に車を停め、シートベルトを外す前に聡介は駿河に話しかけた。

「葵……って呼んでもかまわないか?」

 一瞬だけ駿河の手が止まる。

 もしかして驚いたのだろうか。はい、とだけ短い返事。

「俺は自分の部下を、息子だと思うようにしている。だから……何かあったらいつでも話してくれ。遠慮だけはするな」

「……ありがとうございます」

 喜んでいるのか、ありがた迷惑だと思われているのだろか。

 いずれにしろ駿河の表情からは何も読み取ることができなかった。

 

 車を降りると駿河は勝手知ったる古巣だけに迷わず刑事部屋に向かって歩いて行く。

 初めて足を踏み入れる聡介はその後ろをついて行った。まだマスコミは嗅ぎつけていないようで、署内はいつも通りの雰囲気だった。

 刑事課の部屋に入ると、事務員の女性と刑事課長が自分のデスクに座っている。

「お久しぶりです、小沢課長」

 駿河に声をかけられた刑事課長ははっと顔を上げ、それから何故かすっと目を逸らす。

「……西崎のことか?」

「失礼ですが、西崎さんの机を確認させていただきます。場所は変わっていませんね?」

 ああ、とだけ返事がある。

 

 どこの刑事部屋もそうかもしれないが、机の上は書類や領収書、資料などが雑多に積まれている。聡介の見る限りでも同じ班のメンバーの机はだいたい似たようなものだ。駿河を除いて。

 ちなみに和泉の机は中途半端に散らかっている。

 

 ちょっとでも肘が当たろうものなら崩れてしまいそうな資料ファイルのタワーを上から少しずつ崩し、なんだか掃除に来たみたいだと少し思ってしまう。

 二人で協力してようやく机の上が片付くとノートパソコンが姿をあらわす。

 モニターを開くと付箋がびっしりと貼り付いている。そのほとんどが失踪直前まで扱っていた事件に関するメモのようだ。どこかにヒントはないかといちいち目を通す。

 そんな中で聡介はふと、妙なメモを見つけた。どう見ても何かの事件に関係しているとは思えない。

「なんだ? これは……百人一首か?」

 その呟きに反応して駿河も顔を寄せる。

『あふことの 絶えてしなくば なかなかに 人をも身をも うらみざらまし』

 意味わかるか? と目で問いかける。

すると若い刑事はポケットからスマートフォンを取り出して、何やら調べ始める。今どき調べると言ったらネットだ。

 ついていけないな、と内心で溜め息をついていると、

「もしあの人と愛し合うことがなかったら、かえってあの人のつれなさや、我が身の辛さを恨んだりする事もなかっただろうに……という意味だそうです」

「なんでそんなものを?」

 その時だった。背後で「誰だ?!」と鋭い声がした。


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