表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/71

下手すれば犯罪

 コンコン、と窓ガラスをノックする音。

 いきなりメイの興奮が収まり、彼女はニャ~んと甘えた声を出して何故かベランダの方へ走り寄って行く。

 

 なんだ? と、思ってカーテンを開けた周は驚きで腰を抜かしそうになってしまった。

「い、和泉さん?!」

 窓の外に和泉がいた。

 急いで窓を開ける。もう雨はやんでいた。

「何やってるんですか?!!」

「だって、本当にベランダに放り出されたんだよ。ひどいと思わない? こっちなら中に入れてもらえるかと思って」

「ど、どうやってこっちに来たんですか?! ここ、5階ですよ!!」

 防火扉を蹴破ったのだろうか? いや、そんな大きな音はしなかった。

「そんなのたいしたことじゃないよ。僕、HRTにいたことあるから」

 和泉は笑ってそう答えた。

「HR……?」

 なんだ、それ。地元の消防団か?

「中に入っていい?」

 ダメなんて言う訳がない。周は黙ってこくこく頷いた。


 和泉はにこっと笑って中に入ると、じゃれついてくるメイを抱いて、暖房の風が吹いてくる場所に移動した。

「周君、今日は一人?」

「ええ。義姉は実家に帰ってます」

「旦那さんとケンカでもしたの?」

「……仕事です」

 ケンカできるほど接触がない。

 義姉の夫、つまり周の兄は結婚してからこっち、この家にやってきたことは片手に余るほどしかない。

 彼の寝る場所も食事をする場所も、いつだって職場なのだ。


 和泉はそれ以上余計なことは聞かず、メイの遊び相手をしてくれている。

 拾ってきた子猫はすやすやと周の腕の中で眠りについている。

「そういえば和泉さん、夕飯食べました?」

「それが、ベランダに放り出された上、ご飯も食べさせてもらえないんだよ? これって立派な虐待じゃない?」

 あんたが怒らせるようなことを言うからだろ、と周は内心で思ったが黙っていた。

「良かったら一緒に食べます? 義姉がいろいろ作り置きしてくれてるので」

「わぁい、ありがとう。周君って本当に優しいんだね」

 と、その時。インターホンが鳴った。


 誰だろう? 受話器を取りかけた周の手を和泉が止めた。

「お願い、居留守使って」

 たぶん和泉のお父さんだろう。

 そんなこと言われても……と逡巡していると、今度は携帯電話が鳴りだした。が、自分のではない。

 腕の中の子猫が目を覚ます。が、すぐにまた目を閉じた。

「うぅ……昔は携帯電話なんてなかったのに……」

 和泉は携帯電話を耳に当ててぼやいた。


「はい……わかりました、戻りますよ。戻ればいいんでしょう? ちゃんと晩ご飯食べさせてくれますよね?」

 和泉はメイを床に降ろして、仕方なさそうに玄関に向かう。

「ごめんね、せっかく言ってくれたのに。パパが戻って来いってうるさいんだ」

「いえ……あ、そうだ。和泉さん、申し訳ないんですが……」


 周は先住猫のメイが、今日拾ってきた子猫に対して敵対的であることを説明し、せめて今夜一晩預かってくれないかと頼んだ。

 二つ返事で引き受けてくれた和泉は、自分の家に戻って行った。

 その後周は子猫を寝かせ、自分も風呂に入り、夕食の支度を始めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ