呑気な捜査1課
男性というのは年齢に関わらず、本質的に子供の頃とまったく変わっていないのだ。
和泉はそう思った。
可愛い子、気になる子にはついちょっかいを出したくなってしまう。
ちなみにこの場合の『可愛い』や『気になる』は必ずしも異性に当てはまる訳ではない。
「なぁ、お前もたまには付き合えよ」
いつも通り真面目に仕事をしている駿河の隣で、日下部が熱心に何か言っている。
「先輩の言うことは絶対だって、前に言ってなかったか?」
相変わらず眉一つ動かすことなく、若い刑事はパソコンに向かって忙しそうに手を動かしている。返事はなし。
「何ですか? 僕も仲間に入れてくださいよ」
本気ではないが、和泉は二人の間に割り込んだ。
日下部が駿河をいったい何に誘っていたのかと思えば、市内一の繁華街である流川に今度新しくオープンするキャバクラのようだ。割引チケットを手にしている。
「うるせぇファザコン。お前は大好きなパパの心配でもしてろ」
確かに聡介はさっき刑事部長に呼ばれた。良い話ではないことぐらいわかる。
それにしても思った以上に長いようだ。
「……悪いことは言いませんよ、日下部さん。キャバ嬢にモテたかったら葵ちゃんだけは一緒に連れて行かない方がいいと思います」
「なんでだ?」
「この子真面目だから。しっかり許可を取って営業しているのかとか、まさか未成年がいるんじゃないだろうとか、いかがわしい接客をしたりしないだろうかって、そんなことばかり気にしちゃいますよ? そんなんじゃ白けるでしょ」
日下部は目を点にして、確かにな……と呟いた。
同期で何かと和泉をライバル視している永遠の巡査長日下部は、駿河のことが良い意味で気になるらしい。だから何かと絡んでくるのだが、当の本人はあまりというか、ほとんど相手にしてくれない。
「だから言ったろうが、お前は」と、向かいのデスクから友永が口を挟んだ。相変わらずスポーツ新聞を片手に脚を机の上に乗せている。
「そちらのお坊ちゃまはキャバクラなんて低俗な場所には出入りなさらないのさ」
どの単語に反応したのか、駿河が一瞬だけぴくっと震えた。
「日下部さん、葵ちゃんのことがそんなに気になるんですか?」和泉が訊ねると、
「別にそんなんじゃ……」
「もっとスマートな誘い方があるでしょう。ごく普通の飲み屋さんでもいいじゃないですか、たまには皆で飲みに行こうとか」
図星だったらしい。日下部は目を逸らして居心地悪そうに椅子を軋ませる。
「何しろ聡さんが、班長さんが飲めない人だから、皆で飲みに行こうとか音頭を取る人がいないんですよね。日下部さんも宴会部長にはなれるかもしれませんよ、巡査部長にはなれな……」
「普通の店ならご一緒します」
和泉が余計なことを全部言い終わらない内に、駿河が口を挟んだ。
「よし、決まり。じゃあ今夜だな!」
「お前の奢りだよな? 日下部」
「なんで俺が友永さんに奢らないといけないんですか?」
「こういう時は言いだした人が奢る決まりですよね?」
しかしその計画はすぐに頓挫することとなる。
聡介が戻ってきた。ひどく顔色が悪い。
「仕事だ。全員、しばらく帰宅はできないと思ってくれ」
不真面目なメンバーは顔をしかめる。
「いいか? 極秘裏にことを進める必要がある。マスコミとの接触は一切禁止、今さらだが敢えて言っておく。家族にも捜査情報を漏らすな」
何か大変なことがあったのだな。和泉はそう思った。
「駿河、お前は俺と組んでくれ。彰彦、お前は友永と。それから日下部と三枝……」
「班長、いったい何の捜査なんです?」
友永が言った。聡介は端的に答える。
「人捜しだ」




