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明日、お嫁さんがくるから:2

 学校が終わってからも図書館やファストフード店でギリギリまで粘って時間を潰し、本を読んだり自習したりした。

 しかし一緒に暮らすことになる以上、まったく顔を合わせない訳にもいかない。

 その上、向こうは向こうで、無理をして微笑んでいるのが明らかで時々苛立ったりもした。

 

 それでも、かなり気を遣われているのはよくわかった。

 賢司はと言えば、まるで独身時代と変わらない生活を送っていた。

 むしろひどくなったような気がする。ほぼ毎晩のように職場へ泊まり込み、帰宅しない日の方が多い。

 

 彼女は仕事ばかりでまったく家庭を顧みない兄に、文句を言ったことは一度もなかった。

 いろいろと不満もあるだろうにネガティブな発言をしたこともない。

 少し無理をしても微笑んで、周にとっては貞淑な妻の見本のように見えた。

 

 学校が始まると彼女は毎日のようにお弁当を用意してくれた。

 食べ物を粗末にするのは気が進まない、かといって手をつけるほどに彼女に対してまだ心を開いていなかった周は、学校に持っては行くが、いつもクラスメートに食べさせていた。

 ところがある日のことだ。

『お前、これヤバいよ……』

『何が?』

『今までずっと黙ってたんだけど、いつも弁当袋の中にさ、これ入ってたんだ』

 クラスメートが差し出したそれはメッセージカードだった。


 彼女の直筆で「昨日はなんだか元気がなかったけど、どこか具合悪いの?」とか「いつも綺麗に食べてくれてありがとう」とか「今日もお勉強頑張ってね」と書かれていた。

 全然知らなかった。

 ますます兄から聞いていた話と違うような気がしてきた。


 それである日、周は思い切って彼女が持たせてくれたお弁当を食べてみた。冷凍食品は一つもなく、すべてが手づくりだった。

 そしてその日、周はメッセージカードに返事を書いてそっと台所に置いておいた。


 ありがとう、ごちそうさま、と。

 これぐらいはいいよな、というのが続いて、それからは少しずつお互いの距離が縮まって行ったのがわかった。


 最初に義姉の笑顔を見たのはメイを拾ってきた時だ。

 やせ細って弱々しい声で鳴く子猫が元気を取り戻し、大きな声で鳴いた時。

 子猫がきっかけで共通の話題が産まれ、少しずつ話をするようになってからは、もっと少し距離が近くなった。

 一緒に買い物に行ったり、家事の手伝いをしたり、そうしているうちにいつしか馴染んでいた。

 

 そうして周は不思議な感覚を覚えていた。

 もしも血のつながった姉がいればきっとこんな感じだろうな。

 昔、一度だけ父親から聞いたことがある。お前には父親の違うお姉さんがいるんだよ、と。

 その話を周は本気にしなかった。その時の父は酒も入っていたし、いろいろと落ち込むことがあって沈んでいたから、きっと息子を励まそうと適当なことを言ったのだと思っていたからだ。

 もし美咲が本当の姉なら……そうなると、兄とは近親結婚になるのか?


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