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勉強しなさい

 和泉にほぼ無理矢理病院に連れて行ってもらってから、二日後の朝。

 今日は土曜日なので学校は休みだ。

 周は目が覚めてからもベッドの中でしばらくごろごろしていた。


 義姉は昨日も実家の仕事を手伝っていた。

 無理しなくてもいいのに、周が風邪をひいているから心配だと、仕事を終えて深夜に戻ってきた。

 

 実を言うと病院でもらった薬がよく効いた。多少身体のだるさは残るものの、熱はすっかり引いており、鼻も通るようになった。

 時々咳がつくがだいぶ元気だ。

 

 部屋のドアの外でニャーニャー、猫の鳴き声がする。それも二匹分。

 開けろと言っているようだ。

 餌は義姉がちゃんと与えてくれているだろうから、そろそろ起きて遊んでくれと言いに来たのだろう。二匹いるんだから、二匹で遊べばいいじゃねぇか。

 俺はまだ寝ていたいんだよ……。

 

 と、思ったら突然にドアが開く。

 二匹の子猫はたたっと駆けよって来ると、ベッドの上に飛び上がり、周の頭のまわりを走り回る。

 もちろん遠慮なしに顔面を踏みつけてくる。

 

 眉間に皺を寄せて周が半身を起こすと、

「周君、起きてた?」と、義姉の美咲が顔をのぞかせた。

「……なんでドア開けるんだよ……」

「ごめんなさい。それが……」

「おはよー、風邪は治った?」と、美咲の後ろに和泉が立っている。

 なんでだ?

「今なら入会金無料の家庭教師だよー。ほら、起きて顔洗って」

 今日は仕事が休みなのだろうか。

 いつもはスーツにネクタイなのに、シャツにジーパンというラフな格好をしている。

 訳がわからないまま、周は起き上がって顔を洗いに行った。



 家庭教師って何の話だ?

 そういえば数学も日本史も得意だと言っていたような気がする。

 

 顔を洗ってから部屋に戻ると、和泉は猫二匹を相手に遊んでいた。

「着替え終わったら、数学から始めようか?」

「まだ朝ご飯食べてないのに……」

「何言ってるの、勉強するなら朝ご飯を食べる前がいいんだよ」

 そうなんだろうか?

「それはいいんですけど……服を着替えるから、少し出ててもらえます?」

「えー? いいじゃない、男同士なんだし」

「嫌です」

 はいはい、と言って和泉は子猫たちを抱えて部屋を出た。


 先日の遣り取りは社交辞令というか、どうせ冗談だろうと思っていた。パジャマを脱ぎながら周は、和泉が本当に来てくれたことに驚いていた。


 服を着てからお待たせしました、とドアを開ける。

 正直たいして期待していなかった。

 わからなくなったらどうせ、インターネットで解答を調べるのだろう。そう思っていたのに、和泉は本当にちゃんと内容を理解した上で教えてくれた。

 学校の数学教師よりも説明が上手いのではないだろうか。

 

 そういえば昔、父もこんなふうに勉強を教えてくれたものだ。

 兄の賢司も幼い頃には同じようにしてくれた。昔の兄は優しかった。

 いつからだろう、なんだか様子がおかしくなったのは。


 周が休んでしまった日に扱われた範囲は終わった。

「周君は理解力があるね」

 和泉は微笑んでそう言ってくれた。

 いつも見るようなヘラヘラしたふざけた笑い方ではなく、優しい眼差しである。

 この人、こんな顔もできるんだ。

「じゃ、次は日本史だね」

 周のクラスを受け持ってくれる日本史の教師は、教科書に書いていない、それでいてあまり時代劇でも扱われないマニアックなネタを披露してくれる。

 話が上手で生徒達からの人気も高い。あの先生ほど楽しい授業は期待できないだろう。

 そう思っていたが……。

「和泉さんて、本当は学校の先生なんでしょ?」周は訊ねた。

 分かり易いのは言うまでもないが、説明の仕方が上手い。

 特に日本史は好きだから熟知しているという感じがした。

「違うって」

「じゃあ、何の仕事してるんですか?」

「興味ある?」

「……いや、別に」

 本当は興味津々だが、このまま乗せられるのは癪に障る。

 その時ドアをカリカリと引っかく音がした。

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