ファザコンの理由
「実はな、西崎。今日呼んだのは駿河のことなんだ。駿河葵」
「駿河? あいつがどうかしたのか」
聡介は西崎に駿河のことでいろいろと気がかりなことを話した。
いつも真面目で寡黙な彼だが、あまり周囲に馴染んでいないように思える。
あの無表情ぶりは何か理由があるのだろうか。
それとも何か過去に辛いことがあったのだろうか。
時折だが注意して彼を見ていると、ふと思い詰めたような顔をすることがある。
もっとも一瞬のことで、すぐに普段通りに戻るのだが。
「相変わらずだな、お前も。腹に何か抱えてる人間がいるとついちょっかい出したくなる訳だ」と、西崎は笑った。
少しムッとしたが黙っておくことにする。
料理が次々運ばれてくる。箸をつけながらしばらくは二人とも黙っていた。
「『広静建設』って知ってるだろ? あいつの父親が会長で県警の公安委員なんだよ。兄貴の方はサッチョウ勤務のキャリアでな」
西崎が急に話し出した。
「だからってあいつが、お決まりのパターンみたいに出来の悪い次男坊って訳じゃないんだ。頭も良いし努力家だ。ただ、産まれた環境が悪かった……」
「どういう意味だ?」
「一応嫡出子となっているが、実は愛人の子らしい」
よくある話だ。
「あいつは自分のことはほとんど、まったく話さないから俺も知らないが、あまり恵まれた子供時代を過ごした訳ではなさそうだ。それに……」
「それに?」
「大人になったらなったでまわりの人間は皆、それなりに気を遣うのさ。父親のことがあるからな。定年後の再就職を考えて媚を売る奴もいた」
そうだったのか。
だから彼は心を閉ざし、顔色を読ませないようにしてきたのか。
「けど、良かったな駿河も」
西崎は刺身をつまみながら言った。「お前が上司なら、これからはもっと仕事もやりやすいだろう」
聡介はなんと答えていいのかわからず、ウーロン茶を一口飲んだ。
「父親の愛情に飢えた子供だからな、あいつも。可愛がってやれ」
ふと和泉の顔が浮かんだ。
駿河のことも実の息子のように思って接すると、あの何を考えているのかイマイチよく理解できない男は、弟ができたと思って喜んでくれるのか、それとも本気で嫉妬するのか。
バカバカしい。聡介は首を横に振った。
もう立派な大人の男なのだ。
いや、案外自分の方がいつまでも和泉のことを子供扱いしているのかもしれない。
ふと聡介は気付いて言った。
「すまんな、俺ばっかり話してしまった。そっちの近況はどうだ?」
さっき『少し愚痴りたい気分』だと言っていたのを思い出す。
すると西崎は一瞬虚を突かれたような顔し、それから思い詰めたような表情をした。
「……高岡……俺を、俺達を助けて欲しい……」




