再会
約15年ぶりに出会う西崎充は、さすがに歳をとったものの、ほとんど外見に変わりはなかった。
聡介もそうだが、彼もまた刑事にしては優男でほっそりしている。
しかし聡介と大きく異なるところは、彼は鬼刑事の異名をとるほどに自分にも他人にも厳しい。
何度も犯罪を繰り返し、刑務所を出たり入ったりしている人間達の間では恐れられているそうだ。
鋭い観察力と洞察力が備わっている、敏腕刑事である。
初任科での慣れない仕事に悪戦苦闘している中で、聡介にとって西崎はいつも励まし鼓舞してくれる良き友人でありライバルだった。
警察学校を卒業してから同じ部署で働いたことは一度もないが、時々は連絡を取り合って近況を話し合ったりする。
幸いなことにその日は大きな事件も起きず、約束の時間に落ち合うことができた。
「久しぶりだな、元気だったか?」
「本当に、何年ぶりだろうな」
できればゆっくり話がしたかったので個室を予約しておいた。聡介はおしぼりを運んできた店員に、あらかじめ何品かまとめて料理を注文しておく。
「それで、どうなんだ捜査1課の班長職は?」
西崎はおしぼりで顔を拭きながら訊ねた。
「どうもこうも、扱いづらいのがいてな……毎日苦労している。って、すまん。会っていきなり愚痴るなんて」
飲めない聡介は、ジョッキに注がれた水を一口飲む。
「かまわんさ。俺も少し愚痴を言いたい気分なんだ」西崎は笑った。
「……何かあったのか?」
「何かあったのはそっちだろう? 急に会おうなんて連絡寄越してきて」
それはそうだ。聡介も苦笑した。
店員が聡介にウーロン茶、西崎に生ビールを運んできてくれた。少し沈黙が落ちた。
何から話していいのか迷ってしまう。
「そういえば息子さんはいくつになる? 隆弘君だったよな」聡介が先に口を開いた。
西崎には息子が1人だけいる。比較的遅くに出来た子供だけに、さぞ溺愛していることだろう。聡介が言うと、
「……17だよ」
「そうか、となると高校生ぐらいか?」
「高校2年生だ」
ぐいっと中ジョッキを一気に飲み干して西崎は息を吐いた。
「2年生か。もう、進路は決めてるのか?」
すると同期の刑事は片頬を歪めるような笑い方をし「サツ官以外なら何でもいいんだってよ」
胸が痛んだ。聡介もそうだが、彼もまた仕事のために家庭をないがしろにしてきた1人なのだ。
「あいつは物心着いた頃から、父親みたいにだけはなりたくないって思ってたみたいだな」
「すまん……」失敗したかもしれない。
「別に。それよりお前のとこは、娘さんが二人だったよな? 元気なのか」
「ああ、元気みたいだ」
あまり返すことができないが、娘達は携帯電話を持つようになってから降る雨のようにメールを送って来る。
「お嬢さん達は子供の頃、婦警になりたいと言わなかったのか?」
西崎は店員を呼ぶボタンを押した。
「一度もなかったな。特に長女は、母親が婦警だったから……」
「どうも、今夜はお互いに失言が多いようだな」
二人は顔を見合わせてお互いに苦笑した。
店員がやってくる。西崎は日本酒を注文すると訊いた。
「子供と言えば、あいつは元気なのか? ほら、尾道東署で一緒だった……和泉だ、そう和泉彰彦」
「あいつは殺しても死なないよ」
聡介がさらりと答えた時、枝豆と冷ややっこが運ばれてきた。




