表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
三章 ザータイレン大陸
71/355

第七十話 親愛

バエンが牢城を制圧した後。

捕らえられたカンホは、自分の身の潔白を訴え、逆に、攻め込んできたバエンを逆賊として訴えた。

しかし、カンホの行った悪事の数々はバエンによって、他の町役人達のみならず、国王にも知らされていたため、カンホの言うことを信じるものはいなかった。

これにより、カンホは町役人の任を解かれ、罪人として牢城に収容されることとなった。

イアン達は事が済んだ後、バエンの屋敷にて一夜を過ごした。

そして夜が明けた次の日――


「旦那さま、船長殿からの使いから伝言です。どうやら、船の修理が完了したそうで、乗客の準備ができしだい出港するようでございます」


召し使いが、バエンに告げた。

バエンがいる場所は、人が大勢集まれる部屋で、バエンの他にイアン、ロロット、キキョウ、ハンケン、ネリーミアがそこにいた。


「そうか、聞いたな皆の者」


バエンが召し使いを下がらせ、その場にいる者の顔を見回す。


「ハンケンよ、こちらの準備は出来ている。いつでもいいぞ」


イアンが、ハンケンにの顔を見る。


「ま、そうだな。船に乗るとするか。バエン、俺たちゃもうここを出るぜ」


「そうか…また会おう友よ」


「ああ、いつか…な」


ハンケンはバエンにそう言った後、部屋を出て行く。

ネリーミアもハンケンに続いて部屋を出て行った。


「俺たちも行くとするか。バエン、世話になった」


イアンは席を立ち、バエンに向かい礼をした。


「いや、気にするな。むしろ、君のおかげでようやくカンホを征伐する決意ができたのだ」


「……むう、その言い方では、利用された気がするのだが…」


「はっはっは! 気に障ったか? しかし、本当に助けられたよ、君たちには」


バエンは、イアンに続いてロロットとキキョウを見た。

バエンと目が合うとキキョウは礼をし、ロロットもキキョウの姿を見て慌てて礼をした。


「おっと、話すぎたかな。行くといい、ハンケン達が待っているぞ」


「ああ…行くぞ、ロロット、キキョウ」


「うん! 」


「承知! 」


イアン達も部屋を後にした。



 イアン達とハンケン、ネリーミアが最後の乗客だったらしく、彼等が乗ると船は沖を目指して進みだした。

イアンが、ふと港の方へ振り返るとある光景を目にし、ハンケン達へ声を掛ける。


「ハンケン、それに皆、港の方を見るといい」


ハンケン達が何事かと港の方へ顔を向けると、バエンとその兵達がこちらに向かって手を振っていた。


「あっ…シチンもいる」


ロロットは、こちらに向かって単体棍棒を振っているシチンに気がついた。


「キョウもいるわ。あいつ、バエンさまの兵にでもなったのかしら」


キキョウは、兵の中にキョウの姿があるに気がつき、目を見開いた。


「ハンケン」


ネリーミアは、傍らにいるハンケンに声を掛けた。


「おう、わかってるさ。あいつめ、さっき挨拶したってのに…」


ハンケンは、ネリーミアに返事をした後、船の転落防止策の上に上り――


「またなああああ! バエエエエン!! 」


と大声を出しながら、大きく手を振った。

その時、港の方から大きな歓声がこちらに響き渡ってきたのであった。





――船がシコウを出てから五日後。


船は何事もなく進み、ようやくザータイレン大陸の西側に位置する国、ユンプイヤに辿り着いた。

イアン達の乗る船は、その国のカヤフォという町に停泊した。


「ひー、ようやく着いたぜ」


船から降りたハンケンが体を伸ばしながら言った。


「寺院とやらはどこにある? 」


イアンが、ハンケンの背中に向かって問いかける。


「ここからそんなに距離はないぜ。てことで、依頼もここまででいいか…」


「うん。後は僕一人でもなんとかなるよ」


ハンケンの隣に立つネリーミアは、イアンに向かって微笑む。


「そうか……ん? ハンケンよ、報酬はなんだったか? 」


イアンが首を傾げた後、ハンケンに訊ねた。


「そいつは……なんだっけ? 」


「なんだろうな? 」


ハンケンとイアンは、二人して首を傾げた。

その二人の様子を見て、ロロット、キキョウ、ネリーミアは足を躓きかけた。


「もしかして、私達は、報酬の約束もせずに依頼を受けていたのでは? 」


キキョウが、イアンに言った。


「…そうかもしれないな。ハンケン、どうする? 」


「うーん…イアンよぅ、何か欲しいものはあるか? 」


ハンケンは、困り顔でイアンに訊ねた。


「欲しいもの……欲しいというか知りたいものがあるのだが…」


「おおっ! そいつを聞かせてくれ! 力になれることかもしれん…たぶん! 」


「力にならなきゃダメだよ、ハンケン…」


ネリーミアは、ため息をついた。


「金の斧…というのに何か心当たりはないか? 」


「金の斧…か……」


ハンケンは腕を組んで考え出した。

その後、手をポンと叩いてイアンに言う。


「ああ! もしかしたら、あれのことかもしれん! イアン、悪いが寺院まで一緒に来てくれ」


「ああ」


イアンは、ハンケンに連れられて寺院に繋がる道を歩き出した。


カーリマン寺院――


義と癒しを司るカーリマンを象った像に対し、様々な儀式を行っている。

教会とは異なり、その寺院に属する者以外は立ち入りを禁じられていた。

この寺院があるのは、カヤフォの町から北に進んだ辺りで、ハンケンが言うようにすぐ辿り着くことができた。


「イアン、ここで待っててくれ」


ハンケンはそう言うと、寺院の中に入っていく。

ネリーミアもその背中を見ていた。


「ネリィは、寺院の中に入れないのか? 」


イアンは、ネリーミアに訊ねた。


「うん。僕は、ハンケンの弟子って言ったけど、まだ法師でもなんでもないからね」


「そうなのか…」


とイアンとネリーミアが話している間にハンケンが戻ってきた。

その両腕に抱えられているのは、金色に輝く斧であった。


「はぁ…はぁ…こいつで…いいか? 」


息を切らせながら、イアンに聞いてくる。


「あ、ああ、オレはいいが…これは持って行ってもいいものなのか? 」


イアンは不安になり、思わず聞き返してしまう。


「いいぜ! 気にすんな! 」


「……そうか」


イアンは、ますます不安になりながらも、金色の斧を受け取る。


「……思ったより軽いな」


金色の斧は、その重厚そうな形状にも関わらず、軽いものだった。


「イアンの探しいた斧と違った時は、売ったらいい」


ハンケンは、イアンの肩をポンと叩く。


「いいのか、本当に…」


イアンは、何度目かの不安の声を口にした。


「よし! 報酬も渡したことだし、これで依頼完了だな! 」


「ああ……さて、カジアルに戻るとするか。ハンケン、ネリィまたな」


「またね! 二人共」


「また会いましょう」


イアン、ロロット、キキョウは、寺院に背中を向け、カヤフォに向かって歩き出した。

その後ろ姿をハンケンとネリーミアが見つめる。


「ネリィ」


ふと、ハンケンがネリーミアを呼んだ。


「なに? 」


「おれは、これから寺院の法師として、祈りや儀式を執り行うことになる」


「うん」


ネリーミアとハンケンは顔を合わせず、前を向いて会話する。


「これからずっと、おれはここに縛られ続けることになる。それもわかっているか? 」


「うん……」


ハンケンの言葉を受け、ネリーミアの表情が曇る。


「そうか…なら、そんな男の傍にいる愚かさもわかっているな」


「…! …でも! 」


ネリーミアは遂に、ハンケンへ顔を向けた。

ネリーミアの見るハンケンの顔を決意に満ちた表情をしており、真っ直ぐネリーミアの目に視線を合わせて顔を向けてきた。


「おまえが聖法術を習おうと思った理由はなんだ? 」


ハンケンがネリーミアに問いかけた。


「……人を助けたいと思ったから」


「そうだろうよ。こんなところで、わけの分からんことをしながら引きこもって、人を助けられると思うか? 」


「……」


ネリーミアは、答えられなかった。


「正直、おれは寺院の命令を断ろうと思ったが、年には勝てねぇ…旅を続けるのが辛いのさ」


ハンケンは顔に手を当て、刻まれた皺を撫でる。


「でも、おまえはまだ若い! そんで、こんな老いぼれに付き合う必要も無い! これからは――」


ハンケンは、ネリーミアの両肩に手を乗せた。


「自分が思う尊きものを守りなさい」


ハンケンは優しい声音でそう言った。

ネリーミアは、キョトンとハンケンの顔を見る。


「へっ! もういるくせに…」


ハンケンは、ネリーミアの顔を見て、呆れたように呟き、懐から紙を取り出した。


「こいつをおれ以外の…自分が信用できる奴に渡しに行け。それ以降は、そいつについて行け! 」


ネリーミアは、ハンケンの差し出した紙を受け取った。

ネリーミアはようやくハンケンの言わんとすることに気づき、顔を上げる。


「ハンケン! …………」


ネリーミアは、何かを言おうとしたが言葉が見つからなかった。

どうしていいかわからず、表情を曇らせるネリーミアを見て、ハンケンは仕方なさそうに笑い――


「……あっ! 」


ネリーミアを抱きしめた。


「今までありがとう、ネリィ……おれはもう大丈夫だ」


そして、ハンケンは、ネリーミアは抱きしめたままそう言った。


「…うっ……」


ネリーミアもハンケンに腕を回し――


「ありがとう、ハンケン…僕を拾って…色々教えてくれて……」


と涙ながらにハンケンに言った。

しばし抱きしめあった二人は、やがて体を離す。

そして、ハンケンは思い出したかのように、懐から紙を丸めた物をネリーミアに渡した。


「こいつは、餞別だ」


ネリーミアは、それを受け取ると驚愕で目が見開かれる。


「こ、これは、聖法術が記された教典…ハンケン、これを僕が持っていてもいいのかい? 」


「ああ、いいさ。おれにはもう必要ねぇし、おまえに教えきれなかった術はそこに全て記してある」


「……ありがとう、ハンケン」


ネリーミアは、ハンケンに向かって頭を下げた。


「へっ! さあ、行け! イアンに置いて行かれちまうぞ! 」


「う、うん! 」


ネリーミアは、教典をしまうとカヤフォに向かって走り出した。


「ネリィを頼んだぜ…」


ハンケンは、娘同然の存在である少女の背中を見送りながら、誰に言うこともなくそう呟いた。





 イアン、ロロット、キキョウの三人は、カヤフォに停泊する船の上にいた。

はるばるユンプイヤに来たイアン達であったが、バイリア大陸に着くまでの時間が膨大であるため、すぐに帰ることにしたのだ。


ジャーン! ジャーン!


船の出港する合図だろうか、銅鑼を叩きつける音が響き渡る。


「やぁーっ! とぉーっ! 」


ロロットは、弧炎裂斬刀を振り回して鍛錬を行っていた。


「……」


イアンは、カヤフォの町をぼんやりと眺めていた。


「兄様…」


そこへ、キキョウがやってきた。


「キキョウか…どうした? 」


「それはこっちのセリフよ……さっきからどうしたの? 」


キキョウは、イアンを心配そうな顔で見ていた。


「いや、なに…ここに来るまで色々あったな…とな」


イアンは、キキョウに顔を向けることなく、カヤフォを見続けながら答えた。


「…そうね……兄様はあの娘…ネリーミアとずっと一緒だったわね。あの娘がどんな人だったか聞かせてくれないかしら? 」


キキョウは、イアンに訊ねた。

イアンはフッと笑い、キキョウに答える。


「おまえが感じたように、優しい奴だったよ。顔を晒すことに耐え切れなくて、少々いざこざがあったが、なんとか乗り越えた」


「ふふ…まだ、君と一緒じゃないと辛い時があるけどね」


「……ん? なに? 」


イアンは、この場にいないはずの声を聞き、疑問を口にした。

顔を振り向かせると、そこにはキキョウがいるだけで、その声音を持つネリーミアの姿は見えなかった。


「……? 」


イアンは、首を傾げる。


「やったね、キキョウ。イアンは気づいてないよ」


イアンの目の前にいたキキョウが、横を向いてキキョウの名を呼んだ。

イアンもその方向へ顔を向けると、キキョウがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。


「……ああ、やってくれたな、お前たち」


イアンは、何が起きているかを理解し、二人のキキョウに向かってそう言った。


「ふふふ、ごめんなさい兄様。この方法なら兄様を欺けるかと思ったので」


こちらに向かってくるキキョウが、扇を振るう。

すると、イアンの目の前にいたキキョウの姿が歪み――


「ついやっちゃったんだ」


ネリーミアの姿に変化した。


「はぁーああああ!? 」


鍛錬していたロロットは、いきなりネリーミアが現れて、驚きの声を出す。


「真似鏡像をネリーミアに被せたのか。気づかんというより、予想できんぞ」


イアン体をネリーミアの方に向ける。


「あはは…イアン、忘れ物だよ」


ネリーミアは、イアン


「ん? この紙は……ああ、依頼達成証明書か。忘れてた」


イアンは、依頼達成証明書を受け取り、それをしまう。

すると、ネリーミアがイアンに向かって頭を下げた。


「お願い! 僕もイアンの仲間に入れて! 君の力になりたいんだ」


「なに? 」


突然、ネリーミアにそう言われたイアンは驚いた。


「ええ!? 」


「ん? なんですって? 」


ロロットとキキョウもネリーミアのその言葉を聞い、驚いた。


「あなたは、その依頼達成証明書を渡しに来ただけではなかったの? 」


キキョウが、ネリーミアに訊ねた。


「ううん、僕は、イアンと共に旅に出るためにこの船に乗ったんだ」


「ふぅん。まぁ、あなたにも色々と思うところがあったのね。兄様、どうするの? 」


キキョウが、イアンに答えを伺った。


「うん? もちろん、構わないが…むしろ、大歓迎だ。ネリィがいれば、回復薬代がうく」


「……それ、ここで言うこと? 」


そう答えたイアンにロロットが口を出した。


「…! やった…これで僕も…」


それでも、ネリーミアには十分な答えだったらしく、顔を輝かせてイアンを見る。


「ああ、これからオレ達が傷ついたら治してくれ。よろしくな、ネリィ」


イアンは、ネリーミアに手を差し伸べる。

ネリーミアは、差し伸べられた手を両手で包み込み――


「うん、任せて! イ……兄さん! 」


と言った。


「「「兄さん? 」」」


イアン、ロロット、キキョウの三人が思わす聞き返してしまった。


「…え? イアンの仲間になったら、そう呼ぶルールじゃないの? 」


ネリーミアが、キョトンとした顔で言ってきた。


「そんなものは無い。こいつらが勝手に、俺を兄と呼んでるだけだ」


イアンは、自分がそう言わせていると勘違いされ、少しムッとした。


「うん」


「私達は、好きで兄様とお呼びしていたのよ」


ロロットとキキョウも自分達が言ったことだと強調する。

それらを聞いたネリーミアは――


「……そう、なら僕も兄さんって呼ぶよ。よろしくね、兄さん! 」


やはり、イアンを兄と呼ぶのだった。


「……好きにしろ」


イアンは、肯定も否定もせず、ただそう言った。


「うん! それで、君達のことは、姉さんと呼べばいいのかな? 」


「「えっ!? 」」


まさか、自分達の呼び方も変えにくるとは思わず、ロロットとキキョウの二人は、驚愕した。


「いや、いいよ、ロロットで! 」


「私もキキョウでいいわ! あなたに姉と呼ばれると…」


二人は、全力で否定した。

年上であるネリーミアに姉と呼ばせるのに気が引けたからだろう。


「…? そう? じゃあ、ロロット、キキョウって呼ぶね。僕のことはネリィって呼んでくれると嬉しいかな」


「「よろしく、ネリィ」」


「見事に被ったね、君達……あっ! ということは、二人にどっちが姉とか無いんだ」


「あたしが姉よ! 」


「私が姉よ! 」


再び、ロロットとキキョウの声が重なり、二人は互いににらみ合う。


「……あれ? 」


ネリーミアの顔が凍りつく。


「「ふん! 」」


ロロットとキキョウが取っ組み合いを始めたからだ。


「…しばらく、この話を置いてたけど…決着を着ける時が来たみたい」


「ふん! ネリィはともかく、おまえが私の姉とか……」


二人はグイグイ押し合いながらそんなことを言っている。


「ちょ…二人共! やめて」


ネリーミアが二人の止めに入る。


「ふむ……ネリィという止める役が増え、再び衝突するようになったか……」


イアンは、冷静に今の状況を分析した。


「に、兄さん! そんなこと言ってないで手伝って! 」


「いや、オレを兄と呼ぶことはおまえ達の勝手であると言った。この問題は、おまえ達で解決するのだな」


イアンは、そう言うと踵を返して、奥に行ってしまった。


「そ、そんな~」


港を離れる船に、ロロットとキキョウの喧嘩を止める役を押し付けられたネリーミアの絶叫が木霊した。




三章終了。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ