六話 一寸先は闇
街道を駆けるイアンは、その足を止め、茂みの中に隠れる。
イアンの家は、間近に迫っていたが、家から3m離れたあたりに、蠢く何かを発見したからだ。
「こいつがテッドの言っていた魔物か…」
イアンは目を凝らし、魔物を観察する。
魔物は、猪のような風貌で、背はイアンのふたまわり大きく、突き出した牙は大木のように太かった。
その魔物は、鼻を鳴らしながらイアンの家に近づいていく。
イアンは、魔物との距離を一気に詰め、戦斧を両手で持ち、振りかぶる。
魔物は気づき、イアンの方に顔を向けるが、その横っ腹にイアンの戦斧が振り下ろされる。
「ぎっ―!? 」
戦斧は、魔物の肉に食い込むことなく弾かれた。
魔物はイアンを跳ね飛ばそうと、首を振る。
イアンは体勢を立て直し、魔物の攻撃をしゃがんで躱す。
「魔物め、こっちだ! 」
イアンは、魔物を回り込み、戦斧を腰に下げると森林の奥へ走り込む。
魔物は、イアンの誘いに答え、森林に足を向ける。
イアンは森林に入る瞬間、家の窓に目を向けると、ロロットが今にも泣き出しそうな顔でこちらを見ていた。
森林を全力疾走するイアンは、泉が広がる開けた場所に辿り着く。
グリン森林の中心には、泉がある。
そして、この先には道はなく、行き止まりであった。
イアンは泉の手前まで来ると、呼吸を整えて戦斧を取り出し両手で構える。
構えた先に、魔物が姿を現す。
そして、魔物は後ろ足で何回か地面を蹴った後、大砲の球のように突進してきた。
魔物がイアンに迫り、目と鼻の先の距離に近づいた瞬間――
イアンは思いっきり横に飛んだ。
イアンは待っていたのだ。魔物を倒すチャンスを。
イアンは森林を走る最中、戦斧で戦うことを愚策と考え、別の策を探すことにした。
そして、泉があるのを思い出し、魔物を倒す策を思いついたイアンは、この泉に魔物を誘き出したのだ。
「その泉は深いぞ」
イアンは、泉に向かって走る魔物にそう吐き捨てる。
イアンの横を走り抜ける魔物はその直後――
身体を丸め、後ろ足を前に突き出した。
急激に突進のスピードが弱まる。
前足が泉に入る直前で後ろ足に力をいれ、鼻先を夜空に向けて後ろ足二本で立ち上がった。
そのまま、横に倒れこむように身体を傾け、後ろ足を捻り、身体をイアンの方向へ90度方向転換させた。
魔物の前足が地面に着地し、その反動を利用してイアンに向けて牙を振り上げた。
「ぐっ― 」
間一髪のところで、イアンは戦斧を盾のように前に出す。
しかし、魔物の牙を受け止めきれず、戦斧は弾き飛び、イアンは衝撃により吹き飛ばさる。
大木に叩きつけられ、身体が徐々に冷たくなるのを感じながら、イアンの視界は黒に染まった。
―ポチャン――
最後に聞こえたのは、水の中に何かが落ちる音だった。