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精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
三章 ザータイレン大陸
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六十五話 シソウ国 港町シコウ

今回はイアンの出番なし!

 イアンとネリーミアがザータイレン大陸の中央部に位置する国――シソウへ入ってから、半月ほど時間を遡る。

場所は港町ノールドから北北西の海の上、そこに大きいとも小さいとも言えない中くらいの帆船が北西を目指して進んでいた。

航海の途中で、船底の一部が破損し、浸水するトラブルが発生したが、乗客の中の白い獣人が浸水する海水を凍らせた。

船が沈没することはなかったが、その日二人の乗客が船から姿を消した。

浸水が発生した次の日、船長の説明を受けたハンケンは、室内から甲板へ出た。


「……あっ! いたいた、おーいロロット、キキョウ」


ハンケンは、探していた二人の少女の名を呼び、その二人の元へ歩いていく。


「「……」」


名を呼ばれた二人だが、ハンケンに返事をすることなく――


「とぉー! 、うぉー! 」


「……」


ロロットは槍を振り回して鍛錬、キキョウは読書をしていた。


「…なんとまぁ、大したもんだぜ…」


ハンケンは二人の様子を見て、苦笑いを浮かべた。

二人が兄と慕う人物が消えたというのに、取り乱すことなく平然しているのである。

それどころか、ネリーミアが消えたこと知らされたとき、取り乱す寸前であったハンケンを二人は、落ち着かせたのである。

そんな二人に感服の念を抱きながら、再び声を掛けた。


「ロロット、キキョウ、今後の方針が決まったぜ」


「おりゃー! ふぅ…方針? 」


「…進路を変更するのかしら? 」


ようやく、二人が反応を示した。


「ああ、キキョウのおかげで船はまだ動いちゃいるが、このままってのもいけねぇ。そこで、シソウ国にシコウっていう港町で、船の修理してからユンプイヤを目指すってよ」


「シソウ国ってどこにあるの? 」


ロロットがハンケンに訊ねた。


「ザータイレン大陸の中央だな」


「だって、キキョウ」


「……大陸の東側に砂漠地帯があると聞いたのだけど、そこには泊めれないの? 」


キキョウが考え込んだ後、ハンケンに提案した。

ハンケンは、キキョウの問いに首を捻りながら答える。


「うーん…サナザーンか。港があるって聞いたこともねぇから、泊めれないと思うが……なんでぇ? 」


ハンケンは、何故キキョウがこんなことを聞いてきたかわからないため、聞き返した。


「砂漠地帯、そこに兄様とネリーミアがいるかもしれないからよ」


キキョウが、閉じた扇で東を指しながら答えた。


「なんだって!? 」


ハンケンは飛び上がってしまいそうなくらい驚いた。

ロロットは、キキョウからそのことを聞かされていたようで、うんうんと頷いている。


「私には、人の気配を感知することができるの。浸水したときに、二人が海へ投げ出されたのも気づいたいたわ」


「はぁ…二人がいないってことをわかったうえで、浸水した海水を凍らせたのか…」


ハンケンは、浸水時のキキョウの行動の速さに合点がいった。

それと同時に、ハンケンはもう一つの可能性に気がついた。


「ま、待てよ! 気配がわかるんなら、海に投げ出されたときに、どこにいるかわかったんじゃ…」


「ええ…けれど、二人の救出をロロットに頼もうとしたとき、気配が消えたのよ」


キキョウが眉をひそませる。

彼女にとって不可解なことが起こったのだ。


「消えたって……どういうことだい? 」


「…正確には、とてつもない速度で、私が気配を感知できる範囲から抜け出してしまったの。そして、二人が向かった先が……」


「サナザーン……の方ってわけか…」


ハンケンがそう呟いた後、その場に沈黙が訪れた。

しばらく、その沈黙が続いた後、ハンケンは踵を返した。


「え? ハンケン、どこへいくの? 」


ロロットがハンケンに訊ねる。


「どこって、船長室だよ。船長にいってサナザーンに船を泊めてもらうのさ! 」


「さっき、あなたは泊めれる場所がないといったでしょ。まあ、落ち着きなさい」


「ぐっ……ううむ…」


少女であるキキョウに宥められ、立ち止まる。


「気持ちはわかるけれど、他の乗客もいるのよ」


「わかってるよ……だがよぉ…」


ハンケンの拳がギュっと握り締められる。


パンッ!


キキョウが扇を開き、それを北西の方角に向ける。


「シソウという国の港へ寄るのでしょう? ネリーミア…彼女が、サナザーンに港がない事と、シソウに港町があることを知っていれば、そこを目指すのではなくって? 」


「そうか! ネリーミアはそのことを知っているぞ! うおおおお! 良かったあああ!! 」


ハンケンは、海に向かって叫び出す。

キキョウは扇を口元に当て、呟く。


「兄様達がそこへ辿り着くことも、砂漠地帯に漂流できたこともわかっていないというのに……ああ言ったけど、私は、兄様が無事だと素直に思えないわ…」


「アニキはきっと生きてるよ。あたしは、どんなことがあってもアニキを信じるって決めたんだ」


キキョウの隣に並び立ち、ロロットがそう言い放った。

キキョウが横目に、ロロットの表情を覗くと、その顔色に不安の色など微塵も無かった。


「単純…けれど、おまえのおかげで私は可能性を導き出すことができた」


「キキョウはあれこれ考えすぎ……だけど、あたしじゃあ、どうすればアニキと合流できるかなんて考えれなかった」


二人はそう言った後、サナザーンのある方向へ体を向けた。


「兄様と合流できるよう二人で協力していきましょう」


「うん」






――船の浸水が起きた日から、おおよそ半月後。


ハンケン達が乗る船は、シソウ国のシコウへ辿り着いた。

シコウの町には、大きな港があり、その港を管理するものは、船を停泊することを快く受け入れた。

陸へ降り立ったハンケンは、腕を頭上に上げ、大きく伸びをする。


「うーん…やっと着いたぜ。キキョウ、これからどうするよ? 」


「あれからだいぶ時間も経つことだし、船の修理が終わるまでこの町に留まるのがいいでしょう」


船から桟橋へと渡るために置かれた幅の広い木の板の上を、キキョウは歩きながらハンケンへ言葉を返した。


「そうか…なら泊まるところが必要になるな」


「おーい、船長が泊まる所を手配してくれるって」


ハンケンの元へロロットが駆け寄る。

船長が乗客に向けて、知らせた情報を聞きに行っていたのだ。


「そっか…悪いが俺達は他の所へ泊まろうぜ。船長には、バエンの屋敷に行くと言っといてくれ」


「わかった」


ロロットは、来た道を再び走り出す。


「ハンケンさま、この町に知り合いが? 」


「ああ、旧友がいるんだ。奴は屋敷を持っているし、俺達を泊めてくれるだろう。ロロットが戻ってきたら案内するぜ」


キキョウの問いに、ハンケンは答えた。




 ロロットが戻ってきた後、ハンケンはロロットとキキョウの二人を連れて町を歩いていた。

町を歩く人々の服装は、身体にかけた着物を腰の帯で着付けた衣類を身につけていた。


「ロロットって、この大陸出身なの」


キキョウがロロットに訊ねる。

ロロットは首を横に振った後、キキョウの問いに答えた。


「服は似てるし、私と同じ猿人もチラホラいるけど違うよ」


「ふーん…あまり、おまえのことを知らないのよね。兄様と会う前は、何をしていたの? 」


「母さんと旅をしていた…けど……」


ロロットの表情が暗くなる。

ロロットの脳裏に襲いかかる魔物と母の死体、そしてイアンとの出会いの場面が過ぎった。


「くっ…ふふふ」


俯いたロロットの体が震えだし、キキョウの耳にロロットの含み笑いが聞こえた。


「なに? なんなの? 」


「二人共、着いたぜ。ここがバエンの屋敷だ」


ハンケンが声を出したため、ロロットとキキョウの会話は中断されてしまう。

ハンケンが指を指す先には、塀に囲まれてた建物に向いていた。

ハンケンは、門の目の前に立ち、バエンの名を口に出しながら、門の扉を叩いた。


「おーい、バエン! 俺だ、ハンケンだよーっ! 」


すると、門が開かれ、若い男が顔を出す。


「旦那さまに何か御用で? 」


「おおっ! バエンの召し使いか! ハンケンが来たとバエンに伝えてくれ」


「わかりました。少々おまちください」


そう言うと、召し使いの男は、塀の中へ戻っていった。


「バエンの奴、驚くだろうな…」


ハンケンはニコニコしながら呟いた。


「ハンケンさま、お待たせしました。どうぞ中へ、旦那さまがお待ちです」


「よし! 行くぜ、二人共! 」


ロロットとキキョウは、意気揚々と進むハンケンの後ろを歩いて行った。

中へ入り、屋敷の中の一室へ案内されると、そこにはテーブルがあり、奥の椅子に中年の男が座っていた。

男の姿は、町人の服よりも立派な衣類を身につけていた。

その男は、ハンケンの存在に気づくと席を立つ。


「久しぶりだな、ハンケン! 」


「おおっ、バエン! 変わらんな、はははは! 」


ハンケンとバエンが握手を交わす。

空いた手で、互いの背中をバシバシと叩きあっていた。


「おまえと再び再開できたことを祝おうじゃないか。さあ、席に」


「悪いな、バエン。積もる話もあるし、そうさせてもらうぜ。二人も座りな! 」


ハンケンに促され、ロロットとキキョウも席に座る。

その後、ハンケンは思い出話を話し、今の旅の目的とこの町に来た理由をバエンに話した。


「なるほど、道中で災難にあったのだな。よろしい、船の修理が終わるまで、私の屋敷を自由に使うといい」


「流石バエンだ! 来て正解だったぜ」


「助かります、バエンさま」


「ありがとう…ございます」


泊まる場所を提供してくれたバエンに、キキョウとロロットが礼を言う。

その時、召し使いの男がバエンの元へ歩寄り、耳打ちをした。

ニコニコとしていたバエンの表情が神妙になっていく。

召し使いを下げさせ、バエンは額に手を当てて、ため息をついた。

そんなバエンにハンケンが声を掛ける。


「どうした、バエン? 」


「ん…なに、この町の近くにある山に、凶暴な魔物が現れたらしい。国からの要請で私が討伐することになった。兵に伝えねばな」


「何だって!? この辺りに魔物なんて滅多にでねぇはずだぜ? 」


ハンケンが勢いよくテーブルに手をついて、立ち上がった。


「落ち着け、ハンケン……国からの命令だ、確かなことだろう」


「…力になりてぇが、俺には……」


「その魔物退治、あたし達に任せて……? 」


丁寧に喋ろうとしたロロットだが、うまくいかず、キキョウの方に顔を向け、助けを求める。


「…任せてください」


ロロットの代わりにキキョウが言った。

そのまま、キキョウが話を続ける。


「せっかく、旧友と再開したことですし、仕事は私達に任せて、ゆっくりなさってください」


「しかし、国からの命であるし…」


バエンは腕を組んで答えた。

バエンは煮え切らない様子であった。


「では、どうでしょう? 私とロロットに宿を提供することを報酬に、依頼をするというのは」


「ううむ…」


バエンの組んでいた片方の腕を上げ、自分の顎をさする。

そこへ、ハンケンもバエンに声を掛ける。


「いいじゃねぇか、バエン! 二人の好意を無下にはできんぜ? 」


「わかった……ここは、お二人に任せるとしよう」


ようやく、折れたバエンは、キキョウとロロットに頭を下げた。


「それで、その魔物が現れたというのは? 」


「この町より南東にあるサイタイ山という山らしい。近い位置にあるから、すぐに着くと思う」


キキョウの問に、バエンが答える。


「わかりました。では、明日の朝に出発致します」


「よろしくお願いします」


「へへっ! ありがとうな、二人共」


ハンケンが、ロロットとキキョウの後ろに立ち、二人の背中をポンポン叩く。


「少しの間、世話になるし、これくらいはしないと。今日は、町の様子を見てまわろうと思うので、私達はこれで」


「ああ、暗くなる前に帰るんだぞ」


「じゃあ、行こっかキキョウ」


ロロットとキキョウは、バエンの屋敷を後にした。





 ロロットとキキョウは、シコウの町を歩き回っていた。

二人の目的は、イアンとネリーミアがこの町に来ていないかを確かめることである。

結果をいうと、二人はまだこの町に来ていないことがわかった。

それがわかるまで、時間を費やすことはなかった。

何しろ、イアンとネリーミアの容姿は目立つため、町に来れば噂が残るはずなのである。

それが町の人から聞けなかったため、キキョウとロロットはそう判断したのであった。


「兄様とネリーミアが来ていないことが分かったわね」


キキョウが扇を口元に当て、ロロットに呟いた。


「うん。じゃあ、帰ろっか」


「用は済んだけれど、せっかく町に来たのよ。私はこの町の本屋に寄っていくわ」


キキョウは、ロロットに背を向けて本屋の方へ足を向けた。


「ふーん…じゃあ、あたしもブラブラしてから帰ろうかな」


ロロットは、再び町中を歩き回ることにした。

町中を歩き回ったが、通っていない道もまだまだあったため、ロロットはそういう道を選んで歩いていた。

その最中、ある民家の塀の崩れた部分から、中の様子がチラッと目に入った。

民家の庭で、男が棒を振り回していたのだ。

しばらく、塀の崩れた部分から男の様子を見ていたロロット。


「えっ! 」


棒を扱う男の動きに驚き、ロロットは声を出してしまった。


「むっ…」


棒を扱っていた男は、ロロットの存在に気づき、近づいてゆく。


「お嬢さん、オレに何か用があるのかな? 」


「い、いや…えと…さっきの動きは? 」


ロロットがしどろもどろになりながらも、男の棒の扱い方について訊ねた。

そのロロットの問いかけに、男の顔は明るくなる。


「おお! オレの棒術に興味があるのかい? 」


「え? …ま、まあ」


「そういうことなら、中に入りな。もっと近くで見るといい」


ロロットは、男の言われるままに、庭へと足を踏み入れた。


「オレの名は、シチン。棒術を極めんとする者だ」


「ロロット… 」


「へぇ…ロロット、君は槍を使うのか…あと、猿人だったのか」


ロロットの背中に背負われた槍と、ゆらゆらと揺れる尻尾を見て、シチンが言った。


「オレの棒術が猿人に興味を持たれるなんて…」


シチンは、感動しているのか目を閉じて、拳をギュッと握っていた。


「よし! 君にオレの棒術の一部を教えてあげよう! 」


「本当!? でも、出来るかな…? 」


ロロットの顔がパァと明るくなった後、暗い表情になった。


「できるさ! 猿人は棒術に長けた種族だし、オレもちゃんと教えるから! じゃあ、まずは……」


シチンによる、棒術の手解きが始まった。




――数時間後。


「短時間でここまで扱えるようになるとは……」


シチンが、棒を扱うロロットを見て、そう呟いた。

ロロットは、シチンの教えをしっかり聞き、シチンが思っていたよりも早く上達していた。

シチンは、生唾をゴクリと飲み込み、ロロットに声をけようとする。


「ロロット…実を言うと、君が見たあの技を教えるつもりはなかった…」


「えっ? 」


棒を振り回すロロットの動きが止まる。

ロロットはその技に惹かれたため、シチンの教えに従っていたのだ。


「君には才能がある。それは、塀の向こうにいる君の目を見た時から分かっていた。だけど、あの技は才能だけでは実現できない」


「…なっ……」


「それでも君がやりたいというなら、教えるけど……どうする? 」


「……お願いします」





――夕方。


本屋で数冊の本を買ったキキョウは、バエンの屋敷に足を向けて歩いていた。

見たことも無い本から厳選して選んだ数冊の本を眺め、キキョウはご満悦だった。


「ん? 」


キキョウは視界に入った村人が皆、ある方向に顔を向けているのに気がついた。

そちらへ、目を向けるとボロボロの姿になった子供が、槍を杖の代わりにして歩いていた。

キキョウは、しばらく子供を見つめた後、目を見開き、その子供の元へ駆け寄った。


「ロロット! 」


キキョウがその子供の名を呼ぶ。

ボロボロの子供はロロットであった。

編み込んだ三つ編みが解けていたため、一目でロロットと分からなかったキキョウだが、気配でロロットだと気がついたのだ。

体のあちこちに傷ができており、階段にでも転げ落ちたような怪我の状態であった。


「ああ、キキョウ。今から帰るの? じゃあ、一緒に行こうか」


ロロットは、大怪我をしているはずであったが、普通に言葉を返した。

その様子にキキョウは、目をパチクリと瞬かせる。

数秒後キキョウは我に返り、ロロットに肩を貸す。


「大丈夫なの? 」


「うん……あっ! 誰かに付けられた傷じゃないから」


「えっ……ああ、そうなの。じゃあ、一体何があったのよ? 」


「それは、明日わかるかな」


そう言って、ロロットは不敵な笑みを浮かべた。

キキョウは結局、それがどういうことなのかわからなかった。




11月11日 誤字修正

私たしはこれで → 私達はこれで

11月13日 誤字修正

ゆっくりなさてください → ゆっくりなさってください

2016年 4月7日 誤字修正

国からの討伐で私が討伐することになった。 → 国からの要請で私が討伐することになった。


2019年3月6日 誤字修正

シチンよる、棒術の手解きが始まった。 → シチンによる、棒術の手解きが始まった。


◇ご報告ありがとうございました◇



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