五話 トカク村炎上
村が爆発したのを目撃したイアンは、何が起こったのかを確認するため、村に向かうことにした。
念のため、父の戦斧を腰に下げ、夜の街道を走り抜ける。
ようやく村に近づいたイアンは愕然とする。
村が燃えていたからだ。
村に入り、家々に生存者がいないか声をかけるが、声が返ってくることはなかった。
村長の家にたどり着き、室内を見渡す。
天井には大きな穴が空いており、辛うじて残った壁には、黒い何かの塊があちこちにこびり付いていた。
「うっ!?」
室内を歩いていると、何かに躓いた。
確認しようと、目を向けたイアンとそれの視線が合う。
イアンが躓いたものは、村長の頭だった。
「うわああああ!」
イアンは、村長の家を飛び出した。
直後、足をもつれさせ、転倒する。
村長が死んだ。
人が死んだ。
それを確認したイアンは絶望に打ちひしがれる。
そして、希望である生存者を捜すため立ち上がろうとしたとき、目の前の光景に息が止まる。
テッドが瓦礫に埋もれていた。
「テッド!」
イアンは、瓦礫からテッドを引っ張り出す。
テッドの五体に欠損はなく、ひとまず安心する。
すると、テッドが目を開ける。
「うぅ…イ……ちゃん…」
「どうした!何が起こった! 」
「しん…が……を…かん…た」
テッドは、満身創痍ながら答えてくれるが、所々が聞き取れなかった。
「わかった。わかったから、もうしゃべるな」
テッドに安静にするよう、促すイアン。
しかし、テッドは最後の力を振り絞り―
「魔物から逃げて、イアン兄ちゃん!」
そう叫ぶとテッドは、力尽きた。
テッドの叫びを受け、イアンは辺りを見渡す。
炎える家々が目に映るばかりで、魔物らしきものが見当たらない。
村長の家に来る前に村中を走り回ったが、その時にも魔物を目撃することは無かった。
イアンの背筋に寒気が走る。
村にいないとすれば、外にいるということだ。
そして、この村に一番近い民家はイアンの家だ。
「ロロット!」
自分の家に置いてきた少女の名前を口にすると、イアンは村を飛び出した。