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精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
三章 ザータイレン大陸
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五十七話 ゴシ村

 北西の村を目指して、歩いていたイアンとネリーミアは、岩影にて休息をとることにした。

岩は、一戸建ての家ほどの大きさであり、二人が岩影に入るのは容易であった。

そこでイアンは、ネリーミアへ右手を差し出していた。

イアンの右手首の辺りに、黒い四つの痣のようなものがあり、それを治せまいか調べているのだ。


「……ダメ、何度やっても解呪できない」


「そうか…奴が、死に際に放った呪いだからな。そう簡単にはいかないか…」


イアンが、かけられた呪いは砂漠(サナザーン)から出られないというものだった。

砂漠を出ると何が起こるかわからないが、その呪いの解呪方法はガイコウによって告げられている。

その方法というのが、ガイコウと同等かそれ以上の力を持つ妖魔、五御大を全て倒すというものである。

つまり、強制的に強敵を相手に戦わなくてはいけない呪いなのだ。


「ハンケン達と合流できても、砂漠から出られないのではな…」


イアンは、差し出した手を掲げ、忌々しげに呪いの痣を見る。


「うーん…もし、ハンケン達が無事で、僕達を探しに来るなら、サナザーンに停泊することはないよ」


「何故だ? 」


「恐らく、サナザーンに船を停泊できる港はないよ。ザータイレン大陸で、サナザーンに行く時に停泊する場所は、シソウにあるかな」


「シソウ…? 」


「ユンプイヤとサナザーンの間にある国の名前さ。そこの港町に停泊するかもしれないから、五御大を倒したらそこに行こう」


「 わかった。では、行くとしよう。残りの五御大は、後四体だ。道のりは、まだ長い」


イアンは、立ち上がると尻に付いた砂を払う。

二人は再び、村を目指して歩き出した。






ゴシ村――


サナザーン砂漠地帯の中央の南西部に位置する村。

ホレ村に近く、環境もほぼ同じであるため、似たような村の作りをしていた。

しかし、ホレ村とは異なる部分を、着いたばかりのイアンとネリーミアは目の当たりにする。


「……壊れた壁が沢山あるな」


「うん。なんで、そのままにしているんだろうね? 」


村に、転々と壊れた壁のようなものが建っていた。

損傷が激しく、壁というより何かの残骸のように見える。


「……」


その壁の影から、マントで体を覆った人物がぬうっと現れた。

イアンは、その人物に話しかけることにした。


「オレ達は、ホレ村から来た旅人なのだが……」


「やはり、旅人か。悪いことは言わん、この村から立ち去るんだな」


その人物はそう言うと、イアンに背を向けて歩き出した。

どうやら彼は、ゴシ村の村人であり、声から男性ということがわかる。


「待て…どういうことだ? 」


イアンが、村人に問い詰めようとしたとき、村人は壊れた壁に指を差した。


「あそこは元々、俺の家があった所だ。妖魔の言うことを聞かない者は、家を壊される。それでも、妖魔に反抗した者は――」


村人は、体を覆っていたマントを外し、その姿をイアン達に晒した。


「「……!? 」」


村人の姿を見て、イアンとネリーミアは絶句する。


「こうなるぞ。お前達は目立つから、因縁を吹っ掛けられるだろう。早く立ち去るがいい」


村人の全身の皮膚は、真っ赤に(ただ)れていた。

そして、マントを再び羽織ると、踵を返して立ち去ろうとする。


「ネリィ」


「う、うん! あの…」


ネリーミアは、イアンの言わんとすることを察し、村人に近づき、錫杖を手にする。


「なんだ? 何をするつもりだ? 」


村人は、何事かと振り返る。


「じっとして。すぐには良くならないけど、多少はマシになるはず」


ネリーミアの右手が光だす。

それを村人の体に当てると、村人の全身を光が覆った。


「おお! なんと心地よい…」


村人は感嘆の声を上げる。

ネリーミアが、右手を離した後、村人の肌は赤いままであったが、その色が薄くなっていた。

イアンは、ネリーミアが何をしたか聞いてみることにした。


「ネリィ、今のは? 」


「人の体を治す力を活性させたんだ。これで、だんだん傷が良くなっていくよ」


「そうか。おい、周りを見た限りでは、お前だけがそうなっているわけではないだろう? 」


家の残骸は他にも見える。


「いや、家を壊されただけで済んだ奴が大半だ。俺のように、妖魔に剣を向けた少数は、俺を残して死んじまったよ…」


村人は、自分を嘲笑するかのように答えた。


「聞きたいことがある。オレの名は、イアン。こっちがネリーミアだ」


ネリーミアは、村人に向けて少し頭を下げた。


「……俺の名前はカカ。このゴシ村の…元戦士だ。ついてこい、この村について聞きたいのだろう? 」


イアンとネリーミアは、カカに連れられて村の中を歩いて行った。

その途中、他の村人が大勢集まって、何かをしているのが見えた。


「あれは? 」


「砂金を集めているのだ。とある場所へ着いたら詳しく教えてやる」


どうやら、村の意思で行っていることではないようだ。

カカはその後、一言も喋らず、イアンとネリーミアを目的の場所まで案内した。

そこは、村を抜けて、少し歩いたところにある砂丘の上だった。

カカは、奥の砂漠へ指をさす。

イアンが、目を凝らして指を差した方向を見ると、金色に光る建物が見えた。


「見えるか? あそこに、ゴシ村を苦しめる妖魔がいるのだ」





――数年前。


ゴシ村に、ビヒュウキと名乗る女性がやってきた。

ビヒュウキは、村人達に砂金を集めて金を作るよう命令してきた。

金で作られた殿堂を作りたいらしい。

当然、村人達は首を縦には振らず、ビヒュウキを無視し、各々の仕事を再開しだした。

しかし、ビヒュウキは大きく息を吸い込み、一気にそれを吐き出した。

息は、強風となって村人の建物を襲い、砂岩で作られた家を吹き飛ばしてしまった。

その光景を見た村人達は、ビヒュウキに従わざる負えなかった。

それから、ビヒュウキの命令通り、金を作る日々が始まったのだが、四六時中、金を作り続ける作業は辛いものだった。

そこで、村の若い男達で、ビヒュウキを倒そうと蜂起した。

村人達は、ビヒュウキの住処に攻め入り、配下の妖魔を相手に奮闘していたが、一瞬で村人達は壊滅状態となった。

その一人であったカカは、意識を取り戻すとビヒュウキの住処の外に、黒焦げになった仲間と共に、砂の上で横たわっていた。



「それ以来、俺は奴に逆らうことを止めた。一瞬で、皆焼かれたのだ。勝てるわけがない」


一通り、ゴシ村のあらましを伝え終わると、カカは傍らに立つ、数十の方塊状の砂岩を見た。

恐らく、ビヒュウキの力によって、散っていった村人達の墓であろう。


「……さあ、この村の状況がわかっただろ? さっさと、立ち去れよ」


「いや、まだ聞きたいことを聞いていない」


イアンは、立ち去ろうとせず、奥の建物を見据えている。


「なんだ? 聞いてやるから、早く帰れよ」


「ああ、ビヒュウキという妖魔…自分のことを五御大と呼んでなかったか? 」


その言葉を聞いて、カカは頭を傾げた。


「……たしか…言っていたな…それがどうした? 」


「イアン! 」


ネリーミアは、思わすイアンに顔を合わせる。

イアンもネリーミアに向けて頷いた。


「カカ、俺達はそいつを倒しにこの村に来たんだ」


カカ、目を見開く。


「何だと!? 皆を一瞬で黒焦げにするような奴だぞ!? お前らみたいな子供に勝てるわけがないだろう! 」


カカは、声を荒らげてまくし立てた。


「そう見えるかもしれんが…これでも、そいつの仲間を倒した実績はある。行くぞ、ネリィ」


「うん。カカさん、行ってきます。イアンは強いから大丈夫だよ 」


イアンとネリーミアは、ビヒュウキがいるでろう金色の建物に向けて歩き出した。


「……ちっ! 勝手にしろ」


カカは、二人に背を向けて村の方へ体を向ける。

彼が、焼けただれた拳を強く握っているのは、二人を止めれなかったからだろうか。

それとも、二人の子供に期待をしてしまったからだろうか。




2016年8月13日 誤字修正

村人は、体を大ていたマントを外し、その姿をイアン達に晒した

          ↓

村人は、体を覆っていたマントを外し、その姿をイアン達に晒した


2019年3月6日 誤字修正

当然、村人達は首を縦には降らず、ビヒュウキを無視し、各々の仕事を再開しだした。

               ↓

当然、村人達は首を縦には振らず、ビヒュウキを無視し、各々の仕事を再開しだした。


◇ご報告ありがとうございました◇

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