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精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
二章 対決! マヌーワ第二信仰教団
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四十七話 イアン 対 拳の司教

 イアン達は、石レンガで覆われた通路を走っていた。

走っているのは、イアン、ロロット、キキョウ、ニッカ、ルエリアの五人で、ガゼルの姿はそこにはない。

彼は、イアン達の後方で、ファラトの成りそこないと化した髭の司祭と戦っているのだ。

しばらく、走っていると通路が十字に分かれている所へ着いた。

イアン達は、どの道へ行くか決めるため、その足を止めた。


「分かれ道か…どうする? 」


イアンが、ルエリアに聞いた。


「イアンくん達で正面に進んで! 私とニッカくんで右の通路に行ってみる! 」


「ああ、二手に分かれるのね。イアンさん、しばしのわか――」


「わかった。ロロット、キキョウ、ついてこい」


「うん」


「承知」


イアン、ロロット、キキョウは正面の通路に向かった。


「ああっ! また、おれを無視して…」


「ほら、私達も行くよ! 」


「ぐえっ!? 」


ルエリアもニッカの襟を引っ張りながら右の通路へ走っていった。

正面の通路を走るイアンに、キキョウが声を掛けた。


「兄様、ここは敵地…罠か何かが仕掛けられているはず、慎重に進みましょう」


「…ふむ」


キキョウは、通路に罠が仕掛けられていると睨んだ。

そして、走りながらでは罠の対応に遅れが生じるため、歩いて進もうを提案したのだ。


「いや、早く行かないと逃げられるかも。このまま走っていこう! 」


しかし、ロロットがキキョウの提案を否定する。

ロロットは、奥にいるという司教及び大司教は、自分達の存在に気づき、逃亡を企てているのだと考えた。

ガゼルもロロットと同じ考えで、イアン達を先に行かせたのである。

故に、イアンはどちらも正しいと思った。

そのため、イアンはどちらの方法を取るかで迷い、結局、現状維持を保つことにした。

つまり、通路を走って進むこと。


ガコン!


「なっ! 」


走っていた床が開き、イアン達は宙に漂った。

イアンは選択を誤ってしまったのだ。

しかし、誤ちを悔やんでいるイアンではなかった。


ブゥン!


「え? 」


「う? 」


イアンは、後ろで一緒に落下していたロロットとキキョウの襟を掴んで、思いっきり上へ投げた。

投げられた二人は、無事通路の床へ着地した。

落とし穴を越えた先の通路に辿り着いたのである。


「アニキ! 」


「兄様! 」


「先に行け! オレは必ずここから出る! 」


イアンは、二人へ先に進むよう促すと、落とし穴の暗闇の中へ消えていった。





 イアンは、落下しながら腰に手を伸ばし、戦斧を取り出した。

手を伸ばし、戦斧を壁に当て、落下の速度を弱めようと試みた。


ガガガガ…


戦斧が火花を散らしながら震える。

壁は頑丈に作られていた。

しかし、そのおかげで落下の速度は弱まり、イアンは落とし穴の底へ辿り着いた。


「ここも通路…」


イアンが落ちてきた場所は、上の階と同じような通路であった。

イアンは、戦斧をホルダーに戻して上を見る。

落とし穴は、転落死を狙って仕掛けられたもので、落下先は下の階へ繋がっていた。


「とにかく、元の通路へ戻らないと…」


イアンは、上に続く階段を探すため、歩き出そうとした時――


「おや? 侵入者が罠に掛かって転落したと思い、来てみれば」


男の声が後ろの方から聞こえてきた。


「あなたでしたか…さて、今度は死んでもらいましょうか」


イアンが後ろを振り向くと、そこにいたのは赤いローブの人物だった。


「…!? 」


パチッ!


その存在に気づいた瞬間、イアンは両側面のホルダーから、二丁のショートホークを取り出した。


「ほう、小ぶりの斧ですか。斧にしては頼りなさげに見えますが、従来の斧にはない敏速さが厄介ですねぇ。しかし――」


イアンは、二丁のショートホークを構える。

その手に持つショートホークがゆらゆらと揺れていた。


「構え方がわからない…ように見えますが? 」


「……」


そう、イアンは、本格的に斧を二丁使うのが初めてであるため、構え方がわからなかった。

二本の武器に集中しなくてはいけないが、どうしても片方に偏ってしまうため、ショートホークが揺れてしまうのだ。


「ふふ、図星ですか? 付け焼刃で武器を用意したようですが――」


スッ…


「甘いですよ」


一瞬、瞬きも間に合わない間で、赤いローブはイアンの目の前で腰を落として、右の拳を引いていた。


「…!? 」


ガッ!


イアンは慌てて、ショートホークを交差させて、赤いローブの右から放たれた拳を受け止めた。

勢いは止めきれず、後ろへ下がるイアン。

そこへ、今度は赤いローブの左から拳が放たれる。


ゴッ!


イアンは、交差していた左のショートホークの背でそれを弾き、右のショートホークの背を振り下ろす。


ガンッ!


赤ローブが右拳を振り上げて、イアンの攻撃を防いだ。


ドッ! ガッ! ゴッ! ガンッ!


イアンのショートホークの背と赤ローブの拳がぶつかり続ける。

イアンは、赤ローブの速度と同等の速さでショートホークを振ることが出来てきたのだ。

故に、お互い拮抗状態であった。


「…驚きましたよ。まさか、司教の速度についてこられるとは」


「ついでにこいつを喰らうがいい。さっき思いついた」


ガァン!


イアンは、両のショートホークを振り上げ、赤ローブの拳を振り上げさせるのと同時に、間合いを広げた。

すると、イアンは右の手を振り上げ、左手を右へ水平に振りかぶりながら、赤ローブに接近する。

赤ローブに体の左側面を向けながら、左手を水平に振り、右手を斜め上から振り下ろした。


ゴッ! ドカッ!


「ぐっ! うっ! 」


イアンの二丁のショートホークが、赤ローブの空いた腹に打ち込まれた。

イアンは、そのまま右のショートホークで腹を抑えながら、赤ローブの側面へ回り込み、振り切った左のショートホークを赤ローブの背中目掛けて、水平に打ち込んだ。


「ぐっは! 」


赤ローブは背中を打ち付けられた方向へ吹き飛び、暗がりへと消えていった。


「…ふぅ」


一連の流れの攻撃を終えたイアンは一息ついた。

すると、男の声が暗がりから聞こえてくる。


「…なるほど、戦い慣れない戦闘スタイルを別の技能で補いましたね? 」


「…ほう」


男の言葉に、イアンは敵ながら感心した。

今、イアンの行った一連の動きは、木こりが木を伐採する際の作業手順であった。

イアンは、最初のニ連撃を受け口と言われる木が倒れる方向へ付ける30°程の切り込みを作る作業、最後の一撃が追い口と言われる切り込みを入れる作業をイメージして撃ち下ろした。

つまり、型の確立していない双斧(そうふ)の戦い方を木こりの技で補ったのだ。


「名づけて…倒木一連…三連撃」


まだまだ、荒いところは多々あるが、初めて流れを組んだ技であったため、イアンは満足していた。


「…やれやれ、とんだ大物に目を付けられたようですね…ですが、ここからが本番ですよ」


赤いローブが近づき、その姿を暗がりから現した。


「なっ!? お前は…」


今まで赤ローブの顔を覆っていたフードが取れ、その顔が明らかになった。

赤ローブの顔が明らかになったことで、イアンは混乱する。

なぜなら――


「お前は…男なのか? 女なのか? 」


赤ローブの顔は男ではなく、女の顔をしていたからだ。





 イアンは頭を振り、混乱する脳を落ち着かせようとする。

しかし、不可解なものは不可解である。

女の姿なのに男の声を出すのだ。

女に似ている男、男のような声を出す女というのではなく、噛み合わないのだ。


「…ふふ、気づかれましたかな? 」


「なっ!? 」


男の声が聞こえた。

しかし、橙色の髪をした女の口は動いていなかった。

それどころか、女の目は濁っていて、どこを見ているかわからなかった。


「口が動かない…なんだ? お前は一体なんなのだ? 」


「おや? まだ気づいてない…まぁ、気にしなくていいですよ。あなたはここで死んでもらいますから」


スッ!


「…ぐ! また」


ガッ! ブシュ!


女が放った拳を右のショートホークで受け止めたが、右腕に傷を負ってしまった。


「これは…あのときの…」


イアンの首に傷をつけた現象と似たようなことが起こったのだ。

イアンは、後ろに飛んで間合いを開け、女の手を観察した。


「…むっ! 」


女の両手に、橙色の炎のようなものがまとわりついているのが微かに見えた。


「そのモヤモヤが原因か? 」


「さぁ? どうでしょう」


女がイアンに接近してくる。

避けるのは愚策と踏んだイアンは、攻撃に備えてショートホークを交差させる。

女が広げた右手を突き出し、イアンの交差させたショートホークの手前でピタリと止めた。

その瞬間――


パァン!


「がっ―ふ!? 」


イアンは衝撃を受け、宙へ舞い上がるが――


ガッ!


「うっ! 」


ゴトト!


イアンの首を女は、右手だけで掴み上げた。

その時、二丁のショートホークを地面に落としてしまう。

そして、微かだった橙色のものは、ギラギラと輝き始めていた。

イアンは、首を掴まれながらも、女の顔に目を向ける。

やはり、女の顔は虚ろのままであった。

イアンは、このような顔をどこかで見たような気がした。


「終わりですね」


そこへ、男の声が聞こえた。

その声が聞こえた方向は、女の口ではなく、女の胸元。


「ぐ…うぅ! 」


イアンは、歯を食いしばりながら、女の胸元を確認した。

そこには、黒く輝く宝石のペンダントがかけられていた。


「そういう…ことか! 」


イアンは、力を振り絞り、首を掴んでいる女の右腕に自分の右手のひらを当てた。


「弱めの…リュリュスパーク! 」


ピリ!


「…!? 」


バッ!


女がリュリュの電撃を浴びて、右手を引っ込めた。


「な、なんですかその魔法は!? 」


動揺した男の声が聞こえる。

イアンはその声を無視し、二丁のショートホークを拾うと、未だにひるんでいる女の両肩目掛けて、ショートホークの背を振り下ろした。


両腕(りょうわん) 枝払い」


ゴッ!


「…っぁああ!? 」


虚ろな女は呻き声を上げた。

そして、右手のショートホークを手放し、右手で女のペンダントを引きちぎる。


「おお!? やっと気づかれましたか! しかし、ペンダントを壊したところで――」


バキッ!


イアンは、左手に持ったショートホークで、黒いペンダントを粉々にした。

しかし、女はゆらりと体勢を立て直し、再びイアン目掛けて右手を突き出してきた。


「ああ、アナーグアラーとかいうやつと同じようなやつなんだろ? それなら――」


イアンは、女が迫っているにも関わらず、何の構えもせずに腕を下ろして立っていた。

そんな、イアンの首は、再び女の手によって掴まれた。


「……う、うん? 洗脳が解けた…だと? 」


「ああ、持っているアクセサリーのおかげでな。オレの体に触れるとそれ系の魔法が解けるらしい」





 イアンは、通路の壁にもたれかかり、持っていた薬草の調合薬を首に塗って癒していた。


「…だいぶ良くなったな。そっちはどうだ? 」


イアンが、向かいの壁で同様にもたれかかりながら、肩に調合薬を塗っていた女に声を掛けた。


「ああ、貴殿の調合薬のおかげで良くなってはいるが……貴殿の斧は強烈だな」


女の肩は、まだ良くならないようだ。


「やりすぎたか…で、おまえは何故操られていた」


「まず、名乗らせて頂こう、拙者はベルギアと申す。貴殿は? 」


ベルギアは姿勢を正して座り直した。


「イアンだ」


イアンもベルギアとなるべく同じ風に、座り直した。


「イアン殿、拙者を悪しき者の手から救って頂き、誠に感謝致します」


ベルギアは、深々と頭を下げた。


「…お、おう、わかったから顔を上げろ」


「はっ! して、拙者が奴らの手の落ちた経緯でござったな。とある目的があり旅をしていまして、この国に来て数日経った後、あやつらが人を魔物に変えているところに出くわしてしまいました。そこで不覚をとり、気づいたらあやつらの操り人形となってしまったのです」


「奴らの魔法か…ベルギアは魔物の生贄ではなく、戦闘のために利用しようと操られていたのか」


「左様。操られている間、拙者は司教と呼ばれていました」


「そうか…なんにせよ、元に戻って良かったな。オレはまだ用事があるから、先に行く。おまえは傷が癒え次第、外へ出るがいい」


イアンは立ち上がり、通路を進もうとした。


「いや、拙者も共に…」


ベルギアも立ち上がろうとするが――


「くっ…肩が…」


「その様子では、まだまともに戦えないだろう。恩返しとか気にしなくていい」

イアンは労わりの言葉をベルギアにかけ、この場を去った。


「イアン殿! 必ず馳せ参じますので、どうかご無事で! 」


通路を走るイアンの後ろから、ベルギアの声が聞こえてきた。

本当は、ベルギアの回復を待ちたかったイアンだが、先に進んだ二人と別の道にいったルエリア達が気になり、その足を急がせるのであった。


「司教と呼ばれたベルギアがこの強さ…大司教とやらは、さらに強いのか……誰かが奴に会う前に合流しなくては」




2019年 3月 5日 誤字修正

一連の流れの攻撃を終えたイアンは一息着いた → 一連の流れの攻撃を終えたイアンは一息ついた


最初のニ連撃を受け口と言われる木が倒れる方向へ付ける30°程のの切り込みを作る作業

                  ↓

最初のニ連撃を受け口と言われる木が倒れる方向へ付ける30°程の切り込みを作る作業


◇ご報告ありがとうございました◇

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