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精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
二章 対決! マヌーワ第二信仰教団
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四十三話 イアンが求める小さき斧

斧回

 イアンが、カジアル騎士団とその騎士であるプリュディスと別れて数十分後。

イアンは、素早い敵に対抗するための斧を求めて、一軒の武器屋の前に来ていた。

服をボロボロにされていたイアンだが、先に服屋に行き、新しい冒険者服を購入してそれを着ていた。

イアンが今まで着ていた木こり服も置いてあったが、これからの戦いには耐え切れないと判断したため、冒険者服を購入したのだ。

新しい服ではあるが、前の木こり服と同じような物を選んだので、ポケットの配置等がだいたい同じで、道具の入れ替えに困ることはなかった。

イアンは、武器屋の扉を開いて中に入る。


「…いらっしゃい」


店の奥にあるカウンターで店主が頬杖をつきながら挨拶をしてきた。

武器屋の店主は、だいたい無愛想で人の容姿についてあまり騒がないので、イアンがその態度込みで気に入っている職種の人物であった。

カウンターの前に置かれた棚や壁に、様々な武器が掲げられている。

イアンは、それらを眺めながら目的の武器郡が置かれてあるスペースに辿り着いた。

そのスペースは、両手を半分広げた程のこぢんまりとしたスペースで、様々な戦斧が置かれていた。

しかし、そこにイアンの求めている斧は置かれていなかった。

イアンは溜息をつき、武器屋を出ようと踵を返す。


「…待ちな、小娘」


武器屋の店主がこちらを睨みつけ、声を掛けてきた。

小娘呼ばわりされたイアンは、一応自分の性別を教え、店主に言葉を返す。


「オレは男だ。で、何か用か? 」


「ふん! 紛らわしい顔しやがって……用も何も、オレの打った武器に、溜息をついて立ち去ろうとはどういう了見だ? 」


「仕方なかろう…オレの求めている武器がここに無かっただけだ」


「なんだと! 」


店主が立ち上がり、こちらに歩み寄ってくる。

その足取りは、小さい体型ながら巨人のように地響きを鳴らしそうな迫力を出していた。

そして、イアンの前に着くと、胸ぐらを片手で掴んで持ち上げた。


「ガキが…俺の武器が気に入らねぇってのか! 」


「そうは言ってない。ただ、オレの求めている形状の斧が無いと言ったのだ」


「はぁ!? ここには、戦斧に大斧、斧槍(ふそう)が置いてあるんだぜ!? 他にどんな斧があるって言うんだ」


「小ぶりの斧…小斧(こおの)とでも言うべきか…」


「……は? 」


武器屋の店主が、間の抜けた声を出した。

この大陸では、小さい斧に分類される物は総じて、林業と解体業に使われる斧を指す。

その斧というのが、伐採斧と解体斧が代表的である。

伐採斧は木を切るために使い、解体斧は建物の解体作業で壁等の障害物を破壊する時に使われる。

すなわち――


「ふざけんじゃねぇ! ここは武器屋だ! そんなもん置いてるわけねぇだろ! 道具屋にでも行けぇ! 」


そう、小さい斧というのは武器ではなく、道具に分類される。

しかし、道具屋に置いてある斧はイアンが求めている斧とは少し、否だいぶ違う物なのだ。


「そこにも無い。武器として欲しいのだ」


胸ぐらを掴まれながら、イアンは言った。


「小ぶりの武器なら、短剣でも何でもあるじゃねぇか…どうして斧にこだわる…? 」


店主が疑問を口にし、イアンの腰に束ねたロープが括りつけらているのに気がついた。

そのロープの先を確認するためイアンを両手で抱えて、クルッと背中を向けさせる。

すると、ロープは腰に固定された両刃の斧の柄の先に続いていた。


「なんだこりゃ…こんな斧初めて見る…」


「それか…それは縄斧と言ってな。飛翔性魔物に対抗するために開発した斧だ。ガーゴイルに致命傷を与えられる程の威力はあるぞ」


イアンは、店主の疑問に答えつつ、縄斧の威力を自慢した。


「……なるほど…お前さん、相当頭がイカれてるな…」


店主は、パッと胸ぐらを離した。

すると、店の外に出て看板を店の中にしまいだした。

そして、店の奥へ歩いていく。


「来な…お前さんのイカれたこだわりに付き合ってやるよ」


 店主の後に続いて店の奥に行くと、鍛冶場に辿り着いた。

鍛冶場の周りに、いくつかの作りかけの武器が吊るされており、作業台らしき所には、鍛冶で使う道具がきれいに並べられていた。

店主は、炉の前に来ると火を付け始めた。


「どうして小ぶりの斧が欲しいんだ。何か理由があるんだろ? 」


店主が振り返らずに、後ろのイアンに話しかけた。


「動きの速い奴に対抗するためだ」


「そうか…」


店主が短く言葉を返す。

しばらく、店主とイアンの間に沈黙が訪れた。

イアンは店主が何故、自分のために斧を作ってくれるか疑問に思い、それを口にした。


「何故、斧を作ろうと? 」


しばらくした後、店主が答えた。


「お前さんが求める斧はどこにもありはしねぇよ。それに作ろうとは思わねぇ」


「……」


「だが、俺は作るんだ。なにがなんでも客が求める武器を作るのが、俺のイカれたこだわりなんでな」


「…そうか」


「ああ…もうお前さんのやることはねぇよ。また、明日の朝に来い」


「わかった…」


イアンは、店主の背中を見つめた後、鍛冶場を出て武器屋を後にした。





 イアンが宿屋に着く頃には、夕方になっていた。

宿屋に入り、食堂へ向かうと多くの人々が食事を取っていた。

何故こんなに多いか、料理を運んでいる宿屋の店主に聞いてみた。


「おい、なんか昨日より人が多くないか? 」


「あ! イアン様。それが可愛い女の子が、泊まっているという噂に釣られて、沢山の人が宿泊しに来たんですよ! いやーありがとうございます」


「可愛い女の子……ロロットとキキョウのことか…」


「彼女達もそうですが、特にイ――」


「言うな! それ以上は言わないでくれ! 」


イアンは、店主の口を塞いで現実から目を逸らす。

その後、辺りを見渡してロロット達が席に座っていないか確認する。

キキョウが座っている席を見つけた。

彼女の髪は、銀髪なので分かりやすい。

イアンは、キキョウの座る席へ向かう。


「キキョウ、それにロロット」


「兄様、お帰りなさい」


「アニキ! 」


「イアンさん、おれもいるよ」


「ああ、ニッカだったか。相席してる他の奴かと思った」


「ひどいや、イアンさん! 」


キキョウの他にもロロットとニッカが席に着いていた。


「ふふ、兄様の分の料理は既に頼んでおきましたよ。それはそうと、大層活躍なされたようで…」


キキョウが扇で口元を隠しながら喋っている。

目だけがニコニコしているだけで、他がどうなっているかわからない。


「か、活躍? ああ、人攫いの奴らか。大変だったぞ」


「大変だったぞ…じゃ、ありません! どれだけ私達が心配したかお分かりですか! 」


キキョウが、声を荒らげてイアンを叱る。


「うおお!? わ、悪かった。しかし…」


「言い訳は結構。だいたい、サードリマ近辺という範囲の条件でお一人で行動されるのを許可したのは…」


ガミガミとイアンに説教を始めたキキョウ。


「……」


イアンは、しょんぼりと説教を聞くことしか出来なかった。

その光景を見ていたニッカがロロットに呟く。


「べ、別にあそこまで言わなくても言いんじゃないかな。子供達を助けるのに貢献したわけだし…」


「うーん…キキョウもそれはわかってるんじゃない? ただ、これから同じようなことをしないよう、(いさ)めているだけだと思う…たぶん」


「ああー…そういうこと…」


ニッカは頷いて納得した。

結局、キキョウは五時間もイアンを説教し続けた。

その間、イアンは料理が来ても、口に入れることが出来なかった。





 夜が明け、イアン達は宿屋を後にした。

サードルマを出て、どこに行くかというと、王都である。

司祭の情報を何も掴んでいない今、イアン達の目的地は定まらなかった。

そこで、この国の中心である王都の状況がどうなってるか確認したほうがいい、とキキョウが言ったので、とりあえず王都に行くと決めたのであった。

町を出る前に、ロロット達を先に町の門に向かわせ、イアンは武器屋に向う。

武器屋の扉を開けると、店主がカウンターで頬杖をついていた。


「来たな…斧はできてるぜ」


店主が、カウンターの上に二丁の小さい斧を置いた。

イアンはカウンターに近づき、それを見る。

全体の大きさは、イアンの使っている戦斧の半分以上小さい大きさだった。

柄は鉄製で、先端に反った刃が取り付けられ、その背はハンマーの打撃部のような形をしていた。

イアンが思っていた以上の出来栄えだった。


「持ってもいいか? 」


「ああ、確かめてみな」


イアンは、完治した右手で小さな斧を一丁、手に取った。


「軽い…これなら、素早い敵にも対抗できる」


思わず感嘆の声を出すイアン。

店主は、カウンターの下から、小さいホルダーを二個取り出した。

イアンの戦斧と縄斧を固定しているホルダーは、斧の向きが横になる物だが、この小さなホルダーは縦に固定する形状をしていた。

そのホルダーには、留め金具が付けられており、武器の取り外しが面倒だが、しっかり留めれるので落とす心配がない。


「腰の後ろに付けてるホルダーに空きが無いだろ。こいつを腰の両側面に付けるといい」


「ここまでしてくれるとは…金はいくら必要だ? 」


「いらねぇ…と言いたいところだが、一つ頼みたいことがある」


「なんだ? 」


店主は、イアンの腰に指を差した。


「その縄斧っていうやつ? 貸してくんねぇか? 」


「……なぜだ? 」


イアンは、少し後ろへ下がった。

縄斧は、イアンが作り出した斧であり、飛翔性魔物と巨大な敵に有効な武器であるため重宝しているのだ。


「その斧を研究してぇんだ。うまく強化できたらお前さんにやるからよ」


「なに? 強化だと……わ、わかった、おまえに預ける」


イアンは、腰に括り付けたロープを外し、店主に縄斧を渡した。


「おう! 数日経ったら顔を出しに来い」


「ああ、頼んだぞ」


イアンは、二つのホルダーを腰の両側面のベルトにそれぞれ付ける。

小さい斧をホルダーに付け、パチッと留め金具をはめる。


「店主、この二丁の斧の名前は? 」


「そうさな…短い…ショート……ショートホークだな」


「ショートホークか…」


イアンは、武器の名前を呼びながら、両側面のホルダーに留まっているショートホークの柄を撫でる。


「そういえば、お前さんの名前を聞いてなかったな。名前はなんという? 」


「イアンだ」


「そうか。イアンまた来いよ! 」


「ああ、また来る! 」


イアンは踵を返し、武器屋を出た。

イアンの二丁のショートホークの刃は、日の光に照らされて、真っ白に輝いていた。


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