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精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
二章 対決! マヌーワ第二信仰教団
42/355

四十一話 衝突した二人が向いた先

 ハラン村を後にしたイアン達は、平原の中央に位置する町―サードルマを目指し、南西の方角を進んでいた。

平原には、魔物の数が少ないとはいえまったく遭遇しないということはなく、イアン達は魔物達と対峙していた。

その魔物は、平原ゴブリンという魔物だ。

平原ゴブリンは、従来のゴブリンのように人間の子供のような大きさの魔物だ。

肌は緑色で、顔は厳つく、手には林の木の枝で作った棍棒を持っていた。

その平原ゴブリンが三体、横に並んでイアン達を棍棒を振り回しながら威嚇している。


「フギィ! 」


後ろから声が聞こえ、振り返るともう三体の平原ゴブリンがイアン達の後ろで棍棒を振り回していた。

そして、一斉にイアン達に襲いかかってきた。


「ニッカとオレで、前のゴブリンを叩く。ロロットとキキョウは、後ろを頼む。キキョウ、魔法は使うなよ」


「うーす」


「……」


「……」


ニッカしか返事が返ってこなかった。

しかし、二人は後ろを向き、イアンとニッカに背中を合わせる。


「よし…ニッカ、前に出てゴブリンの攻撃を凌ぐのだ」


「はいよー」


ニッカが、左手に持った盾を向け、ゴブリンの振り下ろした棍棒を受け、前へ弾く。

棍棒を弾かれたゴブリンは、後ろに仰け反る。


「肩、借りるぞ」


イアンは、ニッカの肩を踏み台にして跳躍、落下しながら仰け反っているゴブリンに、左手に持った戦斧を振り下ろした。


ズバッ!


ゴブリンは頭から腹にかけて、戦斧の刃により切り裂かれ、血を噴き出しながら地面に転がる。

イアンに挟み撃ちを仕掛けようと、側面から二匹のゴブリンが棍棒を振り上げながら迫る。


「ニッカ、右を頼む」


「オーケー、イアンさん」


ニッカが、右手に持った剣をゴブリンの眉間に突き刺し、イアンが、左手に持った戦斧でゴブリンの腹を横薙ぎにした。


「フ、フギ――!? 」


「フギャ――!?」


二体のゴブリンは、短い悲鳴を上げて絶命した。

イアンとニッカは、武器に付いた血を払う。


「いい連携だったな」


「おれは、誰と組んでもやることが変わらないなぁ」


イアン達は、魔物と遭遇する度に、二人でチームを組んで戦っていた。

まずは、二人で連携して戦い、少しずつ集団戦闘に慣れていこうという魂胆だった。

一回目は、イアンとロロット、キキョウとニッカがチームを組んだ。

イアンの指示をロロットが聞き、キキョウはニッカを盾にして戦った。イアン達はうまく戦えたと思った。

二回目は、イアンとキキョウ、ロロットとニッカがチームを組んだ。

キキョウの意図をイアンが察し、ロロットはニッカを盾にして戦った。イアン達はうまく戦えたと思った。

そして、今回が三回目―最後の組み合わせとなる。


「よし、二人による連携は完璧だな」


「イアンさん。後ろ、後ろ」


ニッカがイアンの肩をツンツンと突っついた。

イアンが、振り返ると――


「ちょっと! なんで真ん中を狙ったの!? 」


「一番前に来ていたからよ。私も言いたいことはあるわ。猿、どうして私と同じ敵を狙うの? 非効率だわ」


ロロットとキキョウが言い争っていた。

二人は、三体のゴブリンに対し、まるで奪い合いでもしてるかのように、二人同時に攻撃していたというのだ。


「……なんかハラン村以降、輪をかけて二人の仲が悪くなっているような…」


「はぁ……いがみ合っている場合ではないのだが…」


イアンとニッカは、二人の仲が良くなるのを祈ることしかできなかった。






サードルマ――


フォーン平原の中央に位置する町。

町の規模はカジアルよりも小さいが、店屋や宿屋がそこそこあり、フォーン平原を旅する者の休憩場所のような役割を持っている。

カジアルの騎士団と王都の騎士団のそれぞれが、この町に駐屯所を設けているので、サードルマの周辺は比較的安全である。

サードルマに辿り着くと、イアンは振り返ってロロット達に言う。


「サードルマとやらに着いたな。早速、役割の分担をするぞ」


「「「役割? 」」」


イアン以外の三人が、首を傾げる。


「やることが結構あるのだ。それを皆で手分けをして片付けよう。やることとは、壊れた縄斧の修復、宿屋の確保、薬草の調合薬の調達、壊れた縄斧の修復…」


「壊れた縄斧の修復二回言っちゃった! イアンさん、武器の修復に集中して、他をおれ達に丸投げしたいだけでしょ!? 」


ニッカが、イアンに向けて指を差した。


「うるさいバカ! こいつを見ろ、これでは張縄伸斧撃ができないではないか…」


イアンは、ホルダーの三番目のスロットの短いロープが括り付けられている縄斧をニッカに見せつける。


「知らないよ!? なにそれ? 技名? 」


「確かに、アニキが張縄伸斧撃が使えないのは辛い…」


「張縄伸斧撃は、兄様の技の中で最強…もしもの時に困るわ…」


「知らないのおれだけだった!? 」


ニッカは、狼狽えた。

狼狽えるニッカを無視して、イアンは話を続ける。


「そういうことで、ロロットとキキョウで宿屋の確保と薬草の調合薬の確保を頼みたい」


「いいけど…薬草の調合薬? 」


ロロットがイアンに聞いた。


「ああ、薬草を調合して作った薬があってな。それを使うと傷が、みるみるうちに治るそうだ。これからの戦いに必要になるだろう」


「私たちの中に、治癒魔法を使える人がいないものね。必要になるでしょう」


キキョウが頷く。

イアンが、町の開けた場所―広場に指を差した。


「夕方になったらそこの広場で集合だ。では、それぞれの役割をしっかり果たすように」


イアン、ロロットとキキョウは、それぞれの目的の方向へ歩いていく。


「ちょっと待って! イアンさん、おれなんも言われてないよ!? 」


ニッカが、走ってイアンに追いついた。


「ニッカ? ニッカは……じょ、情報収集でもしてればいいんじゃないかな? 」


「えぇー!? やること無いならイアンさんと――」


「うるさい、おまえが来ようが縄斧の修復が捗るわけがなかろうが。あっちいけ、顔が近い」


イアンは、ニッカを押しのけて歩いて行った。


「そんなー……あ、でも、これって好きなことしていいってことだよね! ぐふふ、この町に可愛い子がいないか見てまわろっと♪ 」


ニッカの立ち直りは早かった。





 サードルマのとある宿屋の中、そこにキキョウとロロットはいた。

宿屋の店主とキキョウが宿代の交渉をしているのだが、キキョウの顔はいつもの澄まし顔ではなく、花がほころぶような笑顔をしていた。


「ねぇ、おじさま。もっとお安くならないかしら? 」


「えぇーもう下げられないなぁ」


「そうですか…じゃあ他の宿屋に――」


「できる! できるからうちに泊まって! お願いっ! 」


「仕方ないですね…おじさま頑張ってくれたし、泊まってあげますよ。では、夕方に仲間を連れてきますので」


「わかりましたぁ! ありがとうございます! 」


キキョウとロロットは宿屋を後にした。


 キキョウとロロットが薬屋を目指して歩いているとき、二人は話もせず黙っていた。

すると、キキョウの口が開いた。


「ふふん、私にかかれば、宿の交渉程度容易いわ」


「……」


キキョウが、自慢げに胸を張る。

ロロットは、そんなキキョウを面白くなさそうに見ていた。


「これで、どちらが兄様の役に立つか証明されたわね」


「……」


「…何よ…何とか言いなさいよ、猿」


ロロットは、キキョウではなく別の方向に顔を向けていた。


「……!? 」


「…は!? 猿、何処にいくの!? こら、待ちなさい! 」


ロロットは、薬屋とはあらぬ方向へ、いきなり走り出した。

キキョウも慌ててロロットを追った。

ロロットは、建物と建物の間を通り、狭い道をくねくねと曲がり、辿り着いたのは建物に囲まれた広い空き地だった。

そこに、一本の高い木が生えており、ロロットはその木の上の方を見上げていた。

木の高さは、建物よりも高く、木の上部は葉で茂っていた。


「はぁ…はぁ…一体どうしたっていうの…? 」


キキョウが、ロロットの隣に並び膝に手を付いて息を切らせる。

すると、ロロットは木に手をかけて登り始めた。


「……猿獣人には、木を見かけたら登る習性でもあるのかしら……猿! いい加減になさい! 」


「うっさい! おまえには見えないの!? 」


「見える…? ……ふむ」


キキョウは、目を閉じて耳をピンと立てる。

すると、木の上部に生える枝の根元に、小さい影が見えた。


「…小さい…女の子? なぜあんなところに? 」


木の上部に女の子がいた。

体型からして五、六歳の女の子だ。

その女の子は、木に登ったはいいが降りられなくなってしまったのだろう。キキョウは、そう判断した。

キキョウが目を開けると、ロロットは、木の半分程の高さまで登っていた。

ロロットは、女の子を助けようというのだ。


「猿、 降りてきなさい! さっさと調合薬を買いにいくわよ! 」


「やだ! 絶対助ける! 」


「ほっときなさい。あの子の自業自得よ、私たちには関係ないわ」


「……」


ロロットは、キキョウの言葉を無視して木を登り続ける。

キキョウは、ロロットが女の子を助ける理由がわからなかった。


「なんで…なんでそこまでして助けようとするの!? ほっとけばいいじゃない!! 」


「子供だから! あたしより小さい子供が困っているからだ!! 」


ロロットが、登りながらキキョウに大声で答えた。


「あたしは、アニキのようになりたい。そのアニキが、子供を見捨ててはいけない…みたいなことを言ってた! 」


「…!? あ、兄様が…」


「だから…あたしもアニキみたいに! 」


ロロットは、女の子の元に辿り着いた。

驚く女の子に、片手を差し伸べる。


「もう、大丈夫だよ」


女の子に優しく声を掛け、女の子の体を片手で抱える。


「……あ…どうしよう…」


片手が塞がり、うまく木にしがみつけなくなってしまった。

ロロットは、女の子に辿り着くことだけを考えて、降りる時のことは考えてなかった。

キキョウは、ロロットを見た。

そのロロットの姿は、キキョウの頭の中でイアンと重なった。

女の子を片手に抱えて、木にしがみつくイアンは、下にいるキキョウに向かって言うのだ。


『キキョウ、降りれんくなった…』


「ぷっ、あははははは! 行き当たりばったりなところまで、真似することないじゃない」


キキョウはそう言った後、左手に扇を持ち、地面に向けて数発の雪砲を放った。


ボフッ! ボフッ! ボフッ!


雪砲により、雪溜りができた。


「猿! 飛び降りなさい」


「はぁ! 何言って――」


「おまえが兄様と同じことをするなら、私はその手助けをするだけよ」


キキョウは、ロロットの言葉を遮ってロロットの目を見据える。

ロロットも、キキョウの目を見据え、意を決した。


「ごめんね、ちょっと怖い思いをするけど、我慢してね」


ロロットは、女の子に優しく声を掛けた。

女の子は、ロロットの顔を見て、コクりと頷く。

そして、ロロットは意を決すると、女の子を両手で抱き抱えて飛び降りた。

そのまま下に落下する。


「……念には念を入れるか…風膜! 」


キキョウは、ロロットと雪溜りの間に空気の塊を作り出した。


フワッ! ボフッ!


ロロットは、空気の膜により落下速度を和らげられ、雪溜りの上に落下した。

キキョウが、雪溜りの中を覗くと、自分の背を下にしたロロットが、女の子を両手で包み込んでいた。



 女の子を無事助け出した後、キキョウとロロットは薬屋に向かい、調合薬をたくさん買った。

広場に続く道を夕日に照らされながら、二人は歩いていた。


「……はい…」


「…? なにそれ」


調合薬の入った袋を両脇に抱えるロロットに、キキョウが両手を差し出した。


「……片方持ってあげる」


「…う、うん」


ロロットは、キキョウに片方の袋を渡す。


「……結構、重いわね…」


袋を両手で持つキキョウは、プルプルと震えていた。

ロロットは、その姿を呆れた顔で見た後、空いた片手を差し出した。


「…ほら、無茶するから……あたしは、二つ持っても平気だから」


「いいえ…大丈夫。これくらいは…」


キキョウは、プルプルしながら答えた。

しばらく歩いた後、キキョウの口が開いた。


「私も…兄様のようになりたいわ…」


「…うん」


「もうやめましょう…言い争っても兄様に近づけない」


「うん、わかった」


二人は、顔を合わせなかったが、意思は互いに伝わったようだった。


「「でも」」


「ロロットには」


「キキョウには」


「「負けないから! 」」


今度は、顔を見合わせて同時に言い放った。

サードルマの道を歩く二つの影は、横に並んで伸びていた。





 広場に集まったイアン達は、キキョウが取った宿屋に向かった。

その宿屋の一階にある食堂で、イアン達は夕食を取っていた。


「いやー聞いてくれよイアンさん。町歩いてたらさぁ、めっちゃ可愛いお姉さんが変な男達に追われてたの。それで、そいつら倒してお姉さんを助け出したわけよ」


「ほう…」


イアンは、ニッカの隣に座って、料理を口に運びながらニッカの話を聞く。


「そんで、ありがとうございますって言って慌てて走り出したのよ。どうしたんですか? って聞いたら、はぐれた娘を探さなきゃって言ったのよ」


「…ほう」


「既婚者だったわけさ…いやー女性って怖いなー」


ニッカは、自分の顔を手で抑える。


「…おまえ、下心があって助けたのか…見直してたのに…」


「ああー待って、待って! ちゃんと娘さん探すの手伝ったから! 」


ニッカが、半眼で見てくるイアンにすがりつく。


「…で見つかったのか」


「ああ、見つかったよ。探してる時に、路地裏からひょっこり出てきたよ」


「そうか…情報収集はしてないが、人助けをしていたのならいいか……信じられんが」


「イアンさん、ひどいや! 」


イアンは黙々と料理を食べ始め、ニッカはギャーギャー騒ぎ出した。

その向かいに、ロロットとキキョウは並んで座っていた。

二人の顔は、暗く沈んでいた。


「……ピーマン…」


「……ナス…」


ロロットはピーマン、キキョウはナスを見ていた。

嫌いなら残せばいいのだが、それはイアンが許さないのだ。

二人は、ゆっくりと首を動かして、互いに顔を見合わせて頷くと――


ススッ!


互いの嫌いなものを交換した。


「二人とも」


「わっ! な、なに、アニキ」


「ひっ! あ、兄様…」


急にイアンが、ロロットとキキョウに話しかけてきた。


「今日はよくやってくれたな。最後は、二人で協力して調合薬を持ってたし、やればできるじゃないか」


「あ、あーうん、もう大丈夫。喧嘩もしないよ」


「そ、そう! ちゃんと連携して戦うわ」


二人は、内心ホッとしながら大きく頷いた。


「うむ……何か褒美を与えねばな…」


ガタッ!


イアンは、立ち上がり自分の皿を持つと、ロロットとキキョウの皿にボトボトと具材を落とした。

二人は、それを呆然と見ることしかできなかった。

ロロットの皿にピーマン、キキョウの皿にナスが放り込まれた。


「…褒美だ。ちゃんと食えよ」


「……」


「……」


二回目の二人の連携は、イアンによって潰されたのだった。

やっぱ人を仲直りさせるのは難しい。

10月 1日―誤字修正

はぐれた娘を探さなきゃって言ってのよ → はぐれた娘を探さなきゃって言ったのよ


10月 5日―誤字修正

役割を分担をするぞ → 役割の分担をするぞ

いい加減似なさい → いい加減になさい


11月15日―誤字修正

猿、 降りていなさい! → 猿、 降りてきなさい!


2019年 3月5日 誤字修正

ニッカしか返事が返ってっこなかった。 → ニッカしか返事が返ってこなかった。


サードルマの周辺はっ比較的安全である。 → サードルマの周辺は比較的安全である。


「これで、どちらが兄様の役に立つか照明されたわね」 → 「これで、どちらが兄様の役に立つか証明されたわね」


◇ご報告ありがとうございました◇

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