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精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
二章 対決! マヌーワ第二信仰教団
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三十九話 森林に落ちた雷

ホォォォォォォォ!


ファラトが、咆哮をあげながら、イアンに向けて右の拳を放った。


ドォン!


イアンは、拳を跳躍で躱し、そのままファラトの腕を駆け上がる。

ファラトが、駆け上がってくるイアンをなぎ払おうと、左腕を振るが、再びイアンが跳躍したため当たらなかった。


「…ふっ! 」


宙に浮いたイアンが、上半身を横に捻り、体を回転させて戦斧をファラトの顔に叩き込んだ。


タァン!


「…チッ! 固いな」


戦斧は弾かれ、それを確認したイアンは、身を翻してファラトの顔から離脱する。

ファラトは、顔を掻いた。ダメージも与えていないようだった。


「風刃! 」


キキョウが、ファラトの首目掛けて風刃を放った。


フワッ!


「なっ!? 風刃が弾かれた? 」


風刃は、ファラトの首に当たると、硬い物にでも当たったかのように霧散した。

キキョウの元へ、ロロットが走って向かっていく。


「狐っ! ボサッとすんな! 」


「猿!? きゃ!? 」


ロロットがキキョウに飛びつき、二人は重なりながら転がった。

キキョウのいた場所に、赤黒い光の塊が通り過ぎていった。


「私もいるのですよ」


司祭が、右手を突き出していた。


「ロロット、キキョウ! 大丈夫か!? 」


ドォン!!


イアンがロロット達に駆け寄ろうとした時、ファラトが跳躍してイアンの前に立ちはだかった。


ホォォォォォォ!


「ぐ―っあ!! 」


ガサガサガサ!


ファラトが、下から突き上げながら拳を振り、イアンは木々の向こうへ吹き飛んでいった。


ホォォォウホッ!


ファラトは、イアンが飛んでいった方向に跳躍していった。


「アニキ! 」


「兄様! 」


「よそ見をして…余裕ですね! 」


「「…!! 」」


バァン!


司祭の攻撃を二人は、別々の方向に飛んで躱した。

ロロットとキキョウは、体勢を立て直し、司祭を見据える。


「猿…奴を倒して早く兄様の助太刀に行くわよ」


「言われなくても分かってる…いちいち命令すんな…」


キキョウとロロットが、目を合わせないで会話をする。

司祭が、両手を突き出した構えを取った。


「さぁ、あなた方には、計画を台無しにした代償を払ってもらいましょう」





 吹き飛ばされたイアンは、体勢を立て直し、木の枝の上に着地していた。

ファラトの拳が当たる瞬間、戦斧を盾にしたおかげで特に怪我を負うことなく済んだ。


「…あいつ、斧が効かなかったな。あの猪の魔物以上の硬さだ」


イアンは、痺れた右手をブラブラと振る。

すると、辺りがより一層暗くなっているのに気がつき、上を見上げた。


ホォォォォォォォォ!


「こいつ! 巨体の割になんて身軽な動きを」


空からファラトが迫ってきたのだ。

イアンは、急いで後ろに向かって跳躍した。

ファラトは、バキバキと木の枝を折りながら地面に着地し、再びイアン目掛けて跳躍する。

宙に浮いているイアンの後ろに回り込み、両手を組んでハンマーのように、振り上げた。


シュル! ガッ!


ブォン!


イアンが縄斧を取り出し、それを前方の木の幹に投げつけて、自身の移動を止めたため、ファラトの攻撃はイアンに当たらなかった。

イアンは木に取り付くと、ロープを掴みながら木を駆け上がり、木の幹に刺さった縄斧を抜く。


ガッ!


代わりに戦斧を木の幹に刺し、イアンは自身が落ちないよう幹に張り付いた。


「さて、困ったな」


イアンは、ファラトが自分を見失っているうちに考える。

戦斧が弾かれたことで、イアンのあらゆる斧の技、張縄伸斧撃でさえ効かないであろう。

そして、イアンは使えないが、キキョウの風刃を弾いたことから魔法も効かないこともわかった。

しかし、イアンの頭に、とあるキキョウの言葉が蘇った。


『雪砲程度でそんなに痛がる……お前、氷属性の耐性が…』


その言葉を察するに、人それぞれに属性の耐性というものがあるようだった。

それは魔物も同様だろう。

風刃が弾かれたのが、その耐性によるものだとしたら、他の属性の魔法が聞くかも知れない。


「他の魔法…キキョウの雪砲は、オレには効くんだけどな…ガゼルの炎魔法は強力だが、それを使える奴が…」


ふと、イアンは顔を上げて閃いた。


「そうだ! リュリュを呼ぼう……どうすればいいんだ? 」


雷を操る妖精のリュリュを思い出したイアンだが、肝心のリュリュの呼び方を教わっていなかった。


「…呼べば来ると言っていたな……来てくれ、リュリュ! 」


何も起こらなかった。


「……あっ! あいつみたいに念じないと伝わらないのか? 」


イアンは、出来るかどうかわからなかったが、とりあえず目を閉じて、リュリュの名前を心の中で呼んでみた。


(リュリュ! )


……デュン♪ デンデンデデンデン♪


イアンの頭の中で、軽快なリズムの音楽が響いた。


(イアン! 待ってたよー!)


音楽が鳴った後、リュリュの声が頭に響いた。

リュリュが念じて話掛けてくる時は、こんな感じの喋り方である。


(…リュリュよ、さっきの音楽は何だ? )


イアンは、リュリュに通じることができたことよりも、音楽のほうが気になった。


(そんなことより、リュリュの力を借りたいんでしょ? 今行くね!)


音楽の正体は、わからなかったが、リュリュがこちらに来てくれるようだ。

イアンは、ゆっくりと目を開けた。

しかし、周りを見渡してもリュリュの姿は見えなかった。


(ごめーん! やっぱむりー )


再び、頭の中でリュリュの声が響く。


(何故だ? )


(まだイアンの力が弱いから、リュリュの召喚は無理。リュリュを召喚できるまで、まだまだ時間がかかるけど頑張って! )


(今来て欲しいのだが…)


イアンは、ガッカリした。


(えぇー……あっ! リュリュの(かみなり)だけなら送れるかも! 右手出してー)


(おお! 雷を出せるのか。わかった、右手だな)


イアンは、戦斧を左手に持ち替え、ファラトに向けて右手を突き出す。


(んー…リュリュサンダーって言って! そうすれば雷が出るよ!)


「リュリュサンダー! 」


イアンは、右手に力を込めて叫んだ。


パリッ!


イアンの右手の平から、一瞬だけ小さい雷が出た。


ホォウ!? ホォォォォォォ!


ファラトがイアンに気づき、飛びかかってきた。

イアンは、慌てて戦斧を引き抜き、横に飛んでファラトの拳を躱す。


バッキィ!!


イアンのいた木が、ファラトの拳によりへし折られた。

落下するイアンの頭の中に、リュリュの声が響く。


(まさか、あそこまでしょぼくなるとは……リュリュサンダー改めリュリュスパークでお願い! )


(……しょぼいっておまえ…)


イアンは、身を翻して地面に着地する。

同時に、戦斧をホルダーへ戻す。

ファラトが体勢を立て直して、イアンに向かって跳躍した。


(それと、あと二発しかもう撃てないみたい)


(…二発…今、オレが撃てるのは一日三発が限界ってことか? )


(そう! だから大事に使ってね! )


ファラトが、イアン目掛けて拳を振り下ろす。


ドォン!


イアンは、跳躍で躱し、ファラトの拳の上に乗った。

そして、腰を下ろし、右手をファラトの拳に当てて叫んだ。


「リュリュ…スパーク! 」


パリッ!


ホォ!? ホォォォォォォォォォ!!


ファラトが拳を抑えながら、後ろへ仰け反った。

イアンは、空中で回転し、地面に着地する。


(効くみたいだな)


(でも、あと一発だよ)


すると、ファラトが後ろへ跳躍し、太い枝にぶら下がり、一気に体重をかけて枝をへし折る。

身の丈ほどの枝を振り回しながら、ファラトはイアンを見据えていた。


(警戒されてるね)


(ああ、こいつは骨が折れそうだ。リュリュ、雷をどこに撃てばいいと思う? )


(…目かな)


「わかった」


イアンは、ファラトに向かって走り出した。

ファラトが、イアンに枝を振り下ろす。

イアンは、避ける素振りをまったくせず、走り続けていた。


(イアン!? 避けないと! )


リュリュが、イアンの頭の中で叫ぶ。

すると、イアンはホルダーから、縄斧を右手で取り出し、戦斧を左手で取り出した。

そして、イアンの頭に枝が迫る。

このままだと、イアンは枝に脳天を叩きつぶれ、死んでしまうだろう。

だが、イアンは枝が当たる直前で動いた。

左手に持った戦斧を思いっきり振りかぶった後、円を描くように下から頭上に向けて振り上げた。

戦斧が枝の側面に突き刺さり、イアンはその反動で、戦斧の軌道をなぞるかのように――


ダァァン!


地面へ振り下ろされた枝の上に舞い降りた。

イアンは戦斧から手を離し、勢いを殺さず走り込み、ファラトの顔に向かって跳躍した。


ホォッ!?


しかし、イアンは、ファラトの顔を体を捻って躱し、通り過ぎていった。


「ふっ! 」


イアンは、空中で方向転換し、ファラトの持つ枝に向けて縄斧を投擲する。


ガッ!


縄斧が枝に刺さったことを確認したイアンは、左手でロープを掴み、横に向かって思いっきり両脚を振った。

遠心力により、イアンがファラトの周りを回転し、縄斧のロープがグルグルとファラトの顔に巻きついていく。


ホ、ホォォォ!?


ファラトが、ロープを解こうと枝から手を離した瞬間――


ブシュ!


「リュリュスパーク! 」


パリッ!


……!?


ファラトの顔に辿り着いたイアンが、右手をファラトの左目に突き刺して雷を放った。

ファラトは、ブルっと体を震わせると、前のめりに倒れだした。

イアンは、ホルダーの二番目のスロットから左手で戦斧を取り出し、ロープを切って脱出した。


ドォォン!


ファラトが地面に倒れた。

顔に巻かれたロープの間から、微かに煙が上がっていた。

イアンの放った雷は、一瞬だけ迸るものであったが、その一瞬でファラトの目、脳、心臓、足を体の内部から焼き尽くしながら通り、地面へと流れていった。


(ね! だから目を狙えっていたんだー!)


(……)


無邪気に笑うリュリュに、イアンは何も返せなかった。


(それにしても、さっきにはヒヤヒヤしたよー! でも、倒せたから結果オーライだね! )


(…ああ、でもな…)


イアンが、右手を抑えて(うずくま)る。


(右指をやってしまった…当分、斧は持てそうにないな…)


イアンは、ファラトの目に手を突っ込んだ時、突き指をしていた。


(ありゃー…)


イアンの頭の中に、リュリュの間の抜けた声が響き渡った。




リュリュは強キャラ。

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