三話 謎の少女と木こりのイアン
家に帰ったら、見知らぬ少女がいる状況で、イアンは困惑していた。
とりあえず事情を聞くことにしよう。
「おい。どうした」
声を掛けるが返事はない。
聞こえなかったかと思い、近づく。
その直後、少女は椅子は蹴り飛ばし、イアンに飛びかかった。
「ぐっ―!? 」
イアンは辛うじて少女の両腕を掴み、突撃を阻止する。
しかし、少女は両手を掴まれながら、ジタバタと暴れる。
出てきた少女は、栗色のボサボサの長い髪をしており、顔は可愛らしいのだろうが、今は歯をむき出し、こちらを髪と同じ色をした目で睨みつけてくる。
衣類は、身体にかけた着物を腰の帯で着つけている。おそらく民族衣装だろう。
「落ち着け! 」
少女の抵抗を必死に抑えながら、イアンが叫ぶ。
「放せ、人間! 」
少女が暴れながら叫ぶ。
イアンは誤解をされているのだと思った。
誤解を解かねばならないが、少女は暴れて話を聞ける状態じゃない。
しかもこの少女、見た目のわりに力が強い。
このまま抑え続けていれば、こちらが先に力尽き、拘束を解かれた少女にやられてしまうだろう。
そう考えるイアンに一つの名案が生まれた。
「えっ!? 」
突然、両手が自由になり、床に足が着いたことに驚く少女。
イアンはあえて少女の両腕を放した。
自ら拘束を解くことで、少女に対して危害を加える存在ではないことを示すためだ。
そして、手を離したイアンは次の行動に移る。
「ウガァ―あえ? 」
イアンが拘束を解いた意図を理解出来なかった少女は、再び襲いかかろうとするが目の前の光景に驚愕する。
イアンが頭を抱えてうずくまっているからだ。
その行動は、子供同士の喧嘩で、劣勢の子供が最後の手段としてよく行う、最終防衛体勢だ。
この体勢を取れば、もう自分には何もできないことが伝わるだろう。
とイアンはうずくまりながら確信するが、14歳の男子が年下であろう少女に行う体勢としてはあまりにも無様である。
はたしてイアンの思惑は少女に伝わるか――
「ウガアアアアア! 」
イアンは、少女の渾身の飛び蹴りを受け、無様な格好のままゴロゴロと転がった後、切り株に頭を打ち付け昏倒した。
「うぅ…」
イアンは意識を取り戻すと、家の中にいた。縄で縛られて。
どうやら気絶したオレを家の中に運び、薪に使う緊縛用の縄で拘束したようだ。
「もう気がついたの? 」
椅子に座り、窓の外を眺めていた少女が気づく。
「なんでオレは縛られているんだ? 」
「なんとなくあんたが、あたし達を襲った奴じゃないってわかったわ。でも人間は信用できないのよ」
と少女が、嫌いな食べものを目の前にしたような顔で答えた。
一応、イアンのとった行動(醜態)は、無駄ではなかったようだ。
「信じてくれ。お前に何もしない」
「うるさい! 人間はそうやってすぐ騙すんだ! 」
ふと、イアンは少女の言葉に疑問を感じた。
「お前、人間じゃないのか? 」
イアンが疑問を口にすると、少女の後方にチラッと長い尻尾が見えた。
「お前は獣族だったのか。初めて見た」
「そーだ! あたしは猿人のロロットだ! 」
2016年6月19日―誤字修正
見た目のわりに力だ強い → 見た目のわりに力が強い