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精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
二章 対決! マヌーワ第二信仰教団
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三十七話 ハラン村

 カコーライオ山脈、その西部にそびえる山岳地帯の山頂で、イアンは目の前に立つ、十字架を見下ろしていた。

崖端に立つ十字架は、木の棒で作られた素朴な物で、周りの土は少し盛り上がっっていた。


「アニキ、そんな奴に墓なんて作くることなかったんじゃない? 」


ロロットは、手を頭の後ろで組みながら、イアンに言った。

ロロットの隣に並んだキキョウもイアンの背中に向かって声を出す。


「猿の言うとおりよ。それに、殺したのは私…兄様が気に病むことは無いのよ」


「いや、死体を放置しておくわけにはいかんだろう。それに、気に病んでなどいない」


イアンは、振り返らずにロロットとキキョウに答える。


「ニッカよ、冒険者にとって人殺しは御法度だったか? 」


「うーん、村や町の人、それに他の冒険者を殺した時は罰せられるけど、身元がわからない奴は特に何も言われないよ…盗賊とかはね」


ニッカが、腕を組んで答えた。


「…そうか」


「イアンさん、これからどこへ行くの? 」


「まだどこへ行くか決めていないな。集落も見当たらないし、とりあえず山を降りるか…」


ニッカの問いに、イアンが振り替って答えた。

ニッカは、そのまま腕を組み、頭を俯かせて考え込む。


「えーと……カジアルから真っ直ぐ北へ進んでいたから…南西の方へいこう、イアンさん」


「そこに何かあるのか? 」


顔を上げたニッカに、イアンが首を(かし)げた。


「ハランっていう村があったはず、この山から一番近い村だよ! 」


「ああー、もう昼間だもんね。カジアルも遠いし、いいじゃない。そこに行こう、アニキ! 」


「私も猿と同意見よ。カジアルという街は人が多いのでしょう? 人里デビューには、レベルが高すぎるわ…」


ロロットとキキョウがニッカに賛同する。

キキョウが、プルプルと震えていた。


「で、でびゅー? …まぁいい。その村へ行って、今日は休むとしよう」


イアン達は、墓を背にして歩き出した。


 イアン達は、再び木々の中を進み山を降りる。

途中、魔物と遭遇することもあったが、ほぼロロットが倒してしまった。

ロロットが、魔法を使うのを渋ったキキョウを指摘したが、「あんな雑魚、猿一匹で充分でしょう? 」と一蹴してしまい、喧嘩に発展して、巻き込まれたニッカがボコボコにされた。

山中で、起こった出来事はこれくらいである。

山を抜け、山のふもとに辿り着くと、キキョウが開いた扇を口元に当て、山の一帯に目を向けていた。

そんなキキョウに、イアンが振り返って訪ねる。


「どうした、キキョウ? 」


「……まだ近いのに…随分と遠くに見えるものなのね……」


「キキョウ…」


キキョウは、パン! と扇を閉じると、イアンの方に顔を向ける。


「…ふふ、心配いらないわ兄様。さぁ、いきましょう」


キキョウは、再び歩き出した。

こうしてイアン達は、ハラン村を目指してカコーライオ山脈西部の山を後にした。





ハラン村――


フォーン平原北西部に位置し、カコーライオ山脈西部の山に近い村である。

農業で生計を立てている村で、ここでは、主に麦と芋を育てている。

イアン達は、夕刻前にこの村に辿り着いた。


「おや? 旅のお方がこのハランに来るとは珍しい。どうされた? 」


村の入口で、村人らしき人物がイアン達に訪ねた。


「実は、今日泊まる宿を探しているのですが……この村に宿屋等はございませんか? 」


キキョウが前に出て、村人に話しかけた。

意外にキキョウは、人と話ができるようだった。

そして、このような場面では、キキョウが一番の適役であった。

どんな人物でも口調を変えないイアンは、初対面の人に好印象を与えづらい。

人見知りなロロットは、イアン達以外には、うまく喋ることができない。

普通にしゃべれるニッカだが、流されやすいため、いい結果が出せるとは限らない。

その点キキョウは、人とそれなりに会話ができ、頭が良いため、いい結果を出しやすいのだ。


「おお! なんと可愛らしい銀の獣人さんだぁ…後ろの青い髪の人と茶髪の女の子も可愛いのぅ。どうぞ村の中へ、一番奥にこの村の村長の家がありまして、村長なら部屋を貸して頂けるはずですよ」


「ありがとうございます。では早速、村長様に会いに行って参ります」


キキョウは、にこやかに村人へそう告げると、イアン達は村の中へ進んでいった。

今回は、キキョウ、イアン、ロロットの容姿のおかげでなんとかなった。


「も、もしかして…おれって今ハーレムパーティにいるんじゃ――」


「アニキは、男だっつってんだろ! 」


「ぬっはぁ! 」


何か言っていたニッカの尻に、ロロットの強烈な蹴りが入った。


「……」


「兄様? 」


無言で歩いているイアンにキキョウが訪ねた。


「何でもない。もう慣れた…もういいんだ…」


「は、はぁ…」


イアンは、未だに女扱いされているのが気に入らなかった。


 村長の家らしき建物へ、イアン達は辿り着いた。


コン!コン!コン!コン!


「ごめんください」


キキョウが、ノックをし、鈴の音を転がしたような声で、中にいるであろう村長を呼ぶ。

すると、家の扉が開き、白髪の白い髭を生やした老人が出てきた。


「誰じゃ? 姿を見るに旅の者達のようじゃが? 」


「はい。私の名前はキキョウと申します。後ろの三人と旅をしているのですが、今晩泊まる所を探していまして、村の者に話を聞くと村長様が部屋を貸して頂けると聞きいたもので」


「ふむ、わしの家の部屋を借りたいのじゃな。良かろう」


「ありがとうございます」


「じゃが、条件がある」


村長が腕を組む。


「条件? それは一体…」


「この村の近くにある森林に潜む魔物を倒して欲しい。討伐は明日で良い、約束さえしてくれれば部屋を貸してやろう」


キキョウは、振り返りイアンを見る。

イアンは、こくりと縦に首を振った。


「わかりました。引き受けましょう」


「おお! 引き受けてくださいますか! どうぞ、中へお入りください」


村長の態度が一変した。

そして、イアン達は、部屋の中へ入り二階の部屋の前に案内された。


「この部屋をお使いくだされ。ご夕食がまだでしたら作りますゆえ、出来たらお呼びします」


「すみません、お願いします。では、後ほど」


キキョウが、村長にお辞儀をし、イアン達は部屋に入っていく。


ガッ!


「へ? 」


イアン達に続いて、ニッカも部屋の中に入ろうとした時、村長に首根っこを掴まれた。


「おっと、お主はこっちじゃ」


ニッカは、村長に引っ張られ、隣の部屋の中に突き飛ばされた。


「おおぅ!? えっ!? なんで!? 」


突き飛ばされたニッカは、ジタバタと受身をとり、村長に訪ねた。


「男女七歳にして同衾(どうきん)せずじゃ。わきまえんか、坊主」


「え! でも」


すると、隣の部屋から声が聞こえてきた。


「む…ならオレも隣に行ったほうがいいか…」


「ダメ! あいつ、たまにアニキのことをイヤラシイ目で見てるから! 」


「猿の言うとおりよ、行くべきではないわ。ナニをされるかわからないもの」


「む、むぅ……すまん、ニッカ。おまえは一人で、その部屋を使ってくれ」


それっきりこちらに声が掛かることはなかった。


「みんな、ひどいや! 」


ボフッ!とニッカはベッドにうつ伏せになる。


「では、夕食の用意ができ次第呼びますゆえっ!」


バァン!


「うわぁ! な、なんだぁ!?」


村長が、ニッカの部屋のドアを力強く閉めた。


「まったく、坊主の癖に、ハーレムパーティじゃと!? ふざけおって! しかも美少女ばかりとか羨ましすぎる! 」


ニッカが耳を澄ますと、村長がそんなことを呟いていたのが聞こえた。


 しばらくした後、夕食ができたと村長に呼ばれ、イアン達は一階の部屋に集まって夕食を取った。

イアンが窓の外を見ると、外は暗く、村の様子が見にくくなっていた。

そして、夕食を食べ終わった後、村長がイアン達に明日のことを説明するということで、一階の部屋に残った。


「この村の北に森林が広がっておりまして、その森林を北へ抜けるとソステ村がありますじゃ。その村は、主に近隣の森林の木を切って木材を作り、生計を立てておりまして、このハラン村とソステ村は、お互いの採れる物を交換して長い間、交易をしていたのじゃ」


「ニッカよ、ソステ村の名前に心当たりがあるか? 」


「無いよ。フォーン王国には、名前が認知されていない村々が結構あるんだ」


イアン問いに、ニッカが答えた。

村長が話を続ける。


「しかしここ最近、その森林に魔物が住み着いたらしくての、咆哮がおそろしくて森林に近づけぬのじゃ」


「その魔物を倒して欲しい、そういうことですね?」


キキョウが、村長に聞く。


ガタッ!


「そのとおりですじゃ! きっと魔物のせいでソステ村の皆も困っているはず。旅のお方、どうか魔物を倒してくだされ! 」


村長が席を立ち、キキョウの前に来ると腰を折り、頭を下げた。


「そ、村長様!? 顔をお上げください! そのようなことをしなくても…」


「キキョウの言うとおりだ」


イアンが立ち上がり、村長の前に来ると、肩に手を添えて村長を起こしてやる。


「おまえには、一宿一飯の恩がある。それを返さねばな」


「お…おお…」


村長がイアンの顔を見上げる。


「前払いの報酬は受け取った。改めて宣言をしよう」


イアンは胸を張り、尊重に告げる。


「魔物討伐の依頼、この冒険者イアンが引き受けた! 村長とやら、必ずその魔物は倒す、安心するがいい」


すると、こそこそと後ろでニッカ達が囁く。


「えっ!? イアンさんテンション高くね? 」


「たぶんアニキは、男らしさを示そうと頑張ってるんじゃない? たぶんだけど…」


「……ああ、そゆこと…」


イアンには、その囁きは聞こえなかった。

なぜなら――


「おお…! なんと神々しい! まるで女神様じゃ! 女神様、どうかわしらをお救いくだされ」


村長がイアンを女神様と呼び、手を合わせて拝んでいるのだ。


「めがっ―ごっふ!! 」


「あ、兄様!? 」


女神と呼ばれたイアンは、ショックで仰向けに倒れた。

キキョウが慌ててイアンを受け止める。


「…!? 女神様!? どうなさいましたか!? 」


「やばい、アニキが致命傷を! 村長さん黙って! アニキが死んじゃう! 」


村長とロロットがイアンに駆け寄る。


「……明日、大丈夫かな…」


ニッカは、ユッサユッサと三人に揺さぶられるイアンを見て、とても不安になるのであった。




2019年 3月5日 誤字修正


「で、でびゅー? …まぁいい。その村へ行って、今日は休むとしよう。 → 「で、でびゅー? …まぁいい。その村へ行って、今日は休むとしよう」


イアン達は、再び木々の中を進み山を降る。 → イアン達は、再び木々の中を進み山を降りる。


「アニキは、男だっつてんだろ! 」 → 「アニキは、男だっつってんだろ! 」


キキョウは、振り返りイアンの見る。 → キキョウは、振り返りイアンを見る。


◇ご報告ありがとうございました◇


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