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精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
二章 対決! マヌーワ第二信仰教団
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三十四話 忌み子の塔

 イアンとロロットが塔に来る少し前――


「忌み子…それを聞いて、お主はどうする? 」


イトメは、質問の真意を探るため、イアンへ問い返した。


「どうもしない…ただ、気になっただけだ」


「…ふむ」


イトメは、口を閉じ、しばらく考え込んだ。

部屋は、静寂に包まれ、流石のイアンも緊張した。

先に声を出したのはイトメだった。


「お主、忌み子なる者に会うか? 」


「会えるのか? そいつに」


イアンの表情が明るくなった。


「…ちと、違うな。会えるのではない、お主が会いに行くのじゃ」


「…? 」


すると、幕の下から折られた紙が出てきた。


「この里の奥に、塔がある。その最上階に奴は篭っておるよ。ついでに、この手紙を渡してくれ」


「……」


イアンは、手紙を受け取らず、じっとイトメのシルエットを見ているだけだった。


「…? どうした? 」


「それは…依頼か? 」


イアンは、幕の向こうにいるイトメの目を見据える。


「依頼? 手紙はついでじゃ、お主が会いたいのじゃろう? 」


イアンは、イトメの問いかけに笑みをこぼした。


「会いたいとは言っていないぞ。どうもしないとは言ったが」


「なっ!? 」


イトメは、口を手で押さえる。


「い、依頼というなら、報酬か? な、何が望みだ? 」


「牢屋に閉じ込められている、オレの二人の仲間を開放し、無事三人でこの里から出ることだ」


「……!? 」


イトメは、思わず立ち上がってしまう。


「いつからだ……お主は、いつから感づいておった!? 」


「オレが、牢屋から出された時からおかしいと思っていたが、お前がオレに、結界について聞いたところで確信した」


イアンは、自分だけが牢屋から出されたことに疑問を持っていた。

何故、自分だけなのだと。

そして、イアンを呼び出したイトメは、イアンにだけ結界を破った方法を聞き出そうとした。

つまり、イアンが結界を破った張本人だと知っていたのだ。

その後、ロロットやニッカには全く触れず、イアンにだけ帰れと言った。


イアンは、イトメに向けて指を差す。


「お前、他の二人は帰す気なかったな? 」


「……そうだ、お主だけ帰して、他の二人は殺すつもりじゃった……里を見たものは、生かして帰したくはないのでの」


イトメは、観念したかのように座り込んだ。


「じゃが、お主は例外じゃ。お主を殺す勇気は、わしらにない」


幕の向こうでサラサラと何かを書く音が聞こえた。

すると、幕の下から先程とは違う紙が出てきた。


「お主に依頼する。あの子に会いに行ってくれ、手紙はついでじゃ」


「報酬……ロロットとニッカの開放を…」


「約束する。じゃが、依頼が終わるまで一人は牢屋にいてもらうがの。もう一つの報酬も手紙を渡せば、あの子が用意してくれる」


「もう一つ? 」


幕にうつるイトメのシルエットが、低くなる。

座ったまま、礼をしているのだろう。


「イアン殿、会って自分の目で確かめてくだされ、あの子が本当に忌み子かどうかを…」


――現在。


イアンは、ロロットを連れて塔の前に来ている。

牢屋に置いてきたのは、ニッカ。特に理由はない。

イアンの腰には斧が三丁ついたホルダー、ロロットの背中には槍があり、武器はロロットを牢屋から出す際に取り戻したのだ。


「アニキ…」


「ああ、行くか…」


イアンは扉を開け、イアンとロロットは、塔の中へ入った。





 塔の中に入ったイアンとロロットは、長い廊下を歩いていた。

廊下の幅は、人が五人横へ並べば、塞がっってしまうほどの広さだった。


「…気をつけろ、ロロット。何か罠が仕掛けられているかもしれん」


前を歩くイアンが、後ろのロロットに注意を(うなが)す。


「うん、気をつける」


二人が長い廊下を歩いていると、突き当たりに曲がり角があるのが確認できた。


「ふむ……曲がり角か…」


「そこに来た時に、何かありそうだね…」


「ああ、充分警戒して通ろ…う!?」


その時、曲がり角の手前に足を置いたイアンは異変に気づいた。


「下がれ、ロロット! 」


「な、アニキ!? 」


ガコン!


イアンが立つ床の一帯が下に開き、穴が開いた。

ロロットは、イアンに突き飛ばされ助かったが、イアンはその穴へ落下していく。


シュル! ガッ!


イアンは、ホルダーから縄斧を取り出すと、上に向けて投擲し、天井に縄斧が刺さった。

縄斧のロープに掴まり、イアンは落下を停止させた。

下を見ると、先の尖った丸太がびっしりと埋め尽くされたいた。


「…殺す気満々だな」


 その後も、壁から矢が飛び出してきたり、大量の水が押し寄せきたりと、様々な罠がイアン達襲いかかった。

それらを罠を()い潜ったイアンとロロットは、三階にたどり着いた。

塔の三階は、一階や二階のような入り組んだ通路ではなく、広い部屋がそこにあった。

部屋の奥には、上に続く階段が見える。


「……何かあるな」


「……うん…」


イアンとロロットは、周りを警戒しながら、階段に向かって歩く。


ガコン! ガコン! ガコン! ガコン! ガコン!


イアン達が部屋の中央に来た時、部屋の壁が次々と開いていく。

無数の開いた穴の中から、イアンと同じくらいの大きさの、木で作られた人形が次々と部屋に侵入してくる。


「走れっ! 」


イアンが叫び、階段に向かって走る二人。

イアンが階段に辿りつくと、ロロットが立ち止まった。


「行って、アニキ」


ロロットは、背中から槍を取り出し、それを中段に構える。


「ロロット!? 何を…」


「ここで私が食い止めるから、アニキは! 」


ロロットは、迫ってきた一体の人形に槍を向ける。


ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ!


ロロットが連続で放った突きは、人形の首、両肩、両脚の関節を貫いた。

人形は、体をバラバラにされ床に転がる。


「先に行って! 」


「ロロット……わかった、ここは任せる」


イアンは、ロロットが人形を倒すの見て、その成長に驚いた。

そして、強くなったロロットにこの場を任せて階段を駆け上がっていく。


「強くなったところをもっと見て欲しかったけど…」


ロロットは、イアンの背中を見送ると、階段を背にして槍を上段に構える。


「また、今度でいっか」



 階段を昇りきったイアンは、襖の目の前にいた。

階の雰囲気から察するに、この襖の奥に、この塔の主がいるらしい。

イアンは、襖に手をかけて、横にゆっくりと開いた。

部屋の中は広く、左側には壁に沿って本棚が並んでおり、反対側の隅に化粧台が立っていた。

その間の奥に、机があり、銀色の長い髪をした狐獣人が、こちらを背にして座っていた。

イアンは、依頼を受けた時のことを思い返した。





「待て」


手紙を受け取ったイアンが、立ち上がろうとしたとき、イトメに呼び止められた。


「少し…昔話を聞いてくれぬか? 」


「何故だ? 」


「なんとなく…じゃ」


「そうか、勝手にしろ」


イアンは、その場に座り直した。


「ふふ…」


イトメは、冷たい言葉を放ちながらも、話を聞く姿勢になったイアンに、笑みを浮かべた。



十年程前――


この里に、目麗しい狐獣人の女がいた。

彼女は、明るく人当たりの良い性格で、里の人気者だった。

だが、狩りの最中に彼女は、行方不明となってしまう。

里を上げて、結界の外を出てまで、彼女を探し回ったが、ついぞ見つからなかった。

しかし、数年時が経った後、彼女は里へ戻ってきた。

里の皆は、彼女の帰還を大いに喜んだが、彼女の姿を見て絶句した。

金色の長い髪はボサボサで、体のあちこちに夥しい数の傷後が出来ていた。

そして、スタイルの良かった彼女の腹は、ポッコリと膨らんでいた。

彼女は、子を身ごもっていたのだ。

すぐに、産気づいて子供を生んだが、生まれた子供は、普通の獣人とは違う白い毛と細長い二本の尻尾を持っていた。

彼女は、出産を見守った親友に子供の名前を伝えると、息を引き取った。

里の皆は、人気者だった彼女の死を悲しんだ。

それは、次第に怒りとなり、生まれた子供へぶつけられることになる。

彼女を傷つけた奴らの子、生まれたことで母である彼女を殺した子、と子供を批難し始めたのだ。

やがて、子供は忌み子と呼ばれるようになった。

その忌み子と呼ばれる子供の名は――




「おまえが、キキョウか」


イアンが、銀色の髪をした狐獣人の少女に声をかけた。

本を読んでいた少女は、パタンと本を閉じると、立ち上がった。


「へぇ…お前は、知らないの? 」


少女の声は、鈴の転がしたような声だった。

少女は振り返り、薄笑いを浮かべながらイアンを見据える。


「私は、忌み子よ」


12月28日―漢字修正

口を手で抑える → 口を手で押さえる

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