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精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
二章 対決! マヌーワ第二信仰教団
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三十三話 狐獣人の忌み子

 夜が開け、イアンは牢屋の一室にいた。

罠にはまったイアン達は、二人の獣人に連行され、獣人達が暮らす里の牢屋に閉じ込められた。

ロロットとニッカも他の牢屋に閉じ込められている。

戦斧も、ホルダーごと没収され、今は丸腰である。


「参ったな。どうにかして誤解を解かねば…」


イアンは、腕を組み考える。

そうしていると、牢屋の外の通路に、一人の男の獣人が現れた。

昨夜、先輩と呼ばれていた男の獣人だ。


「おい! (おさ)がお前を呼んでいる、出ろ」


男の獣人は、鉄格子の一部に何かを指すと、そこが扉のように動いた。

どうやら、牢屋の鍵を開けたらしい。


「……」


イアンは黙って外へ出ると、男の獣人に剣先を向けられながら建物を出た。

外を出ると里の様子がよく見れた。

里の建物は、木で出来ており、屋根には板状の石が魚の鱗のように並んでいた。

里を歩く獣人達は皆、同じ民族衣装を着ている。


「お前達が来ている服はなんだ? 」


「……(はかま)だ。男が馬乗袴(うまのりばかま)、女が行灯袴(あんどんはかま)を着るのが基本だ」


イアンの後ろを歩く、男の獣人は素直に答えてくれた。

ついでに、イアンは気になっていることを聞くことにした。


「忌み子とは何だ? 」


シン…


その言葉を、聞いた者達の動きが止まった。


「……無駄話はやめだ。さっさと歩け」


男の獣人は、イアンの体を押して強引に歩かせた。

男の声は、怒気を孕んでいるように聞こえたが、その中に怯えたような震えも混じっていた。





「ここだ入れ」


イアンは男に連れられ、一際大きい建物に入った。

三回階段を昇り、模様が描かれた扉らしき物の前に来た。


「お前も入らなくていいのか? 」


「お前一人で謁見するようにと、長からのお達しだ」


「そうか」


イアンは、そう言うと目の前の扉らしき物を押した。


「……開かん」


「……お前、何をしている? 」


「扉が開かないのだ。壊れているんじゃないか? ドアノブも見当たらないし」


男の獣人は顔に手を当てた。


「あのな…これは(ふすま)と言って、こう、横に引くんだ。こう…だぞ、わかったか?」


男の獣人は、イアンに出来るだけわかりやすく教えた。


「そうか、わかった」


スパァン!


「ばっ…勢いが強すぎだ! たわけが!! 」


「いや、思ったより軽かったから…仕方なかろう」


「良い、下がれショウよ」


イアンに、唾を飛ばしながら怒鳴るショウと呼ばれた男に声が掛けられた。


「はっ! 長、失礼しました」


ショウは一礼した後、キッとイアンを横目で睨み、通路の奥へ消えていった。

イアンは、部屋の中に目を向けると、中央に四角の布が敷いてあり、その前方は薄い幕で覆われており、長と思わしき人物のシルエットをうつしていた。

長のシルエットを見る限り、この里に住む獣人と同じ種族というのがわかった。

しかし、他の獣人達と異なり、何本か尻尾を複数持っているようだった。


「そこの者、名はなんという? 」


「イアン……イアン・ソマフ」


「イアン…ソマフ……ん? ソマフ!? お主、木こりか? 」


「え…? 何故わかった? 元木こりだが…」


イアンは、驚いた。


「我らの言葉でソマフとは、木こりと同じ意味を持つのじゃ」


「へぇ」


「まぁ、そんなことは良いじゃろ。そこに座れ」


「はぁ…」


座るよう促されたイアンは、四角の布の前に来るが、どう座れば良いか分からず、とりあえず布に尻を着け、両脚の膝を立て、それを両腕で囲む姿勢をとった。


「……まぁ、良いじゃろ、話が進まん」


幕越しに、呆れた声が聞こえてきた。


「わしは、この狐獣人の里の長、名をイトメという」


「…ここは、他とは違った文化があるようだな」


イアンが、周りを見ながら言った。


「遥か昔、わしらのご先祖様は次元を超えて、この世界にやってきたとかで、この里特有の文化は、そのご先祖様が元々いた世界のものだと言われておるでの」


「違う世界ときたか…ファンタジーだな…」


「そうじゃな、わしもあんまり信じておらん。話を進めるぞ」


イトメは、咳払いをした。


「この里には、人払いの結界が張ってあっての、普通は里に近づくことはできないんじゃが」


「オレ達……オレには入れてしまったと」


「そうじゃ。それでお主、何か心当たりはないかの? 」


「無いな。それに、この里に何かをしに来たわけじゃない。偶然、足を踏み入れてしまっただけだ」


「そうか…わかった、信じる」


「……! 」


イトメが、あっさりと了承するので驚くイアン。


「じゃから、もうこの里に来るな、他言も無用じゃ…良いな? 」


イトメが、ゆったりとそう言ってきた。

イアンが、この里に何の用もないことは信じてもらえただろう。

だが、もう二度と関わることなく、この里のことを外へ漏らすなというのだ。


「…一つ、聞いてもいいか? 」


「なんじゃ? 」


この質問は、ショウや他の獣人の反応を見る限り、一筋縄ではいかないだろう、そう思ったイアンは深呼吸をした。


「…忌み子とは何だ? 」






 太陽の光が障子を越えて部屋を照らす。

その光を照明の代わりにして、獣人の少女は何かを書いていた。

そこへ少女の親代わりの狐獣人がやってくる。


「おや? キキョウ、何を書いておるのじゃ? 」


「あっ! イトメ! これ見てー」


「ショーギヒシアウヒョウ…? 」


「ショーギ必勝法! これで皆にショーギを教えて遊ぶんだ! 」


「……そう、必勝法とな。キキョウはショーギが強いからのう。皆もきっと喜ぶぞ」


「うん! 」



 里の広場で狐獣人の子供達が駆け回っている。

少女は、物陰からその様子を見ていた。

そして、意を決すると物影から飛び出し、駆け回る狐獣人の子供達に声を掛けた。


「あ…あのっ…一緒にあそぼ…? 」


「……」


「……」


「……」


狐獣人の子供達は、黙って少女を見つめるだけだった。

そして、子供たちはそれぞれ、怒った顔、怯えた顔、笑った顔を浮かべて――


「「「あっちいけ――」」」



「忌み子…」


少女は、そう呟いて目を覚ました。

体を起こして辺りを見渡すと、日の光が部屋の奥まで届いている。


「…まだ、昼前か」


少女は、寝装束を脱ぎ、行灯袴に着替える。

着替えた後、鏡の前に座り、それを見つめる。

頭から生えるピンと伸びた耳、銀色の長い髪、赤い目が鏡に映っていた。


「忌み子だって、キキョウ」


鏡に映る自分に向かって、キキョウは自嘲するように言った。

すると、外から人の気配がするのを感じた。

気配から察するに二人の――


「人間と猿? ……イトメのヤツ、また何か企んでいるのね」


キキョウは、立ち上がり、本棚に向かって歩き出す。


「ま、せいぜい頑張りなさい」


本棚から本を一冊取り出し、それを読む。

彼女の一日は、それでいつも終わっていた。





 イアンとロロットは、里の奥にある高い建物の前に来ていた。

高い建物は、この里の建物を積み重ねたような形状をしており、もはや塔であった。

イアンは手紙を手に持って、塔を見上げていた。

この手紙をここにいる者へ渡す、それが――


「今回の依頼だ」

サブタイトル―話数の入れ忘れにより、編集。

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