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精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
二章 対決! マヌーワ第二信仰教団
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三十二話 新たな冒険の始まり

二章開幕!


 カジアルの街を、太陽が陽気で照らす昼下がり、イアンは、宿屋の食堂にいた。

あの魔物との戦いから数日が経ち、あいかわらずイアンは、薬草採取の依頼を受け、たった今、ギルドに依頼達成の報告をし、宿屋に戻ってきた。

ロロットは、イアンと違う依頼、Dランク冒険者が受けられる依頼を受けたため、まだ帰ってきていない。


「そろそろこの街を出るか…」


「クク…行き先は決まっていますか? 」


イアンの呟きに、厨房からキャドウが、水差しとグラスを持ってイアンの席へやってきた。

キャドウは、グラスに水をいれ、イアンに差し出した。

イアンは、キャドウにお礼を言うと、グラスに口をつける。


「決まっていない……どこへ行けばいいかわからないのだ」


「クク…でしたら、ここから北に広がるカコーライオ山脈、その西部の山岳地帯に行かれては? 」


「また山登りか……そこに、何かあるのか? 」


イアンの問いに、キャドウは地図を出して答えた。


「クク…山頂付近に集落がありまして…」


「集落…嫌な予感がするな。わかった、そこへ行くとしよう」


イアンが地図を見て頷くと、キャドウが目にかけた黒い水晶を光らせた。


「クク…気をつけてください。この山には、とある獣人の里があると言われています。昔に比べて、人間と獣人の距離はだいぶ縮まりましたが、未だに人間を忌み嫌う獣人はおりますゆえ」


「……」


「クク…イアンさまなら大丈夫かもしれませんね…クク…」


キャドウは、イアンの顔を見ながら言った。


「ああ、その言い方……そんなにオレは、女に見えるか? 」


「クク…クク…」


イアンは、自分の顔をペタペタと触る。

そんなイアンを見ながら、キャドウは、怪しく笑い続けるのだった。




――次の日。


イアンとロロットは、旅支度を整えていた。

旅支度といっても、せいぜい野宿用の寝巻きを背負うくらいだ。

イアン達が玄関を出ると、見送りのためか、キャドウも玄関を出てきた。


「クク…いってらっしゃいませ…」


「ああ、世話になったな。今度、カジアルに来た時もおまえを頼らせてもらう」


「クク…その時が待ち遠しいものです。いつでも、あなたをお待ちしておりますゆえ、どうかご無事でいらしてください」


「ああ、じゃあなキャドウ。ありがとう」


「またね キャドウ! 」


イアンは振り返り、ロロットはキャドウに手を振りながら歩いていく。

キャドウは、イアン達が見えなくなるまでこちらを見守り続けていた。


 イアン達は、カジアルの北門を目指し、歩いていた。

カジアルの北部であるこの辺は、近くに魔法学校があるため、学生寮や魔法に(たずさ)わる店屋が立ち並んでいた。

イアンはかつて、共に旅をした少年のことを思い浮かべる。


「ガゼルは、元気でやっているだろうか」


「おーい! 待ってくれよー! イアンさぁーん! 」


イアンが呟いた時、そんな声が聞こえた。

振り返ると、こちらに向かって走る青年の姿が見えた。

イアンは、辺りを見渡すがこの道に自分達以外の誰もいない。


「アニキの知り合い? 」


「いや、知らん。だが、向こうはオレのことを知っているらしい」


「……アニキは有名人だもんね」


ロロットは、ふぅと溜息をつく。


「ああ、噂か。オレが、美少女かなんかだというやつだろ? 」


「そうそう。一緒に依頼を受けた冒険者がよく言ってくるの。あの美少女を紹介してくれって」


「……大変だったな、なんかすまん」


イアンは、とりあえずロロットに頭を下げた。


「おっぱいの大きいお姉さんが一番しつこかった…泊まっている宿を教えろって」


恐らく…否、絶対にベティのことだろう。


「あいつ、まだカジアルにいたのか…よし、さっさとカジアルを出るぞ! 」


「ちょっとぉ! おれの話を聞いてくれよ! 」


イアンが、北門へ体を向けた時、近くから声が聞こえた。


「なんだお前、まだいたのか…」


「まだって、まだ何も話をしてませんよ!? 」


青年が、激しく身振り手振りをする。

青年は、茶色の髪を持ち、一目見ただけじゃ忘れてしまいそうな、普通の顔をしていた。

冒険者のよく着る服に、鉄製の胸当てと篭手(こて)をつけ、背中に剣と盾を背負っていた。


「君がイアンさんだろ? おれは、ニッカ。あなたが助けた女の子の兄だ。あの時は妹を救って頂き、ありがとうございました」


青年が頭を下げる。


「あの時? ああ、幌馬車の……で、お礼を言いに来たのか」


「いや、お礼だけじゃないんだ。おれを旅の共にしてくれないか? 」


「何故だ…? 」


「恩返しもあるけど、この街を出て冒険がしたいんだ! 一時でもいいから旅の共をさせてくれ! 」


ニッカは、イアンに向かって頭を下げた。


「……これまで、オレが相手にしてきた環境や魔物は、どれも一筋縄ではいかなかった。これからもそれは続くだろう」


「おれも冒険者だ、覚悟はできてる 」


「……これから、ギルドの依頼は、あまりやらないだろう…蓄えは充分か? 」


「大丈夫……たぶん…」


ニッカの声の勢いがなくなった。


「はぁ…好きにしろ。ロロット行くぞ」


「うん、アニキ! 」


イアンとロロットは、再び北門に向けて歩き出した。


「え…あ! じゃあ、好きにさせてもらうよ! 待ってくれ、イアンさん! 」


ニッカは頭を上げると、先を歩くイアン達の背中を追っていく。

こうして、イアン、ロロットと彼らに同行するニッカの新たな冒険の幕が開けた。





カコーライオ山脈――


バイリア大陸の最北部に連なる山脈地帯。

この山脈は、北の海からやってくる者を阻み、フォーン王国の北側を守り続けていた。

そのため、この山脈には神がいるとされ、山に住む民はおろか、フォーン王国のほぼ全ての人々がこの山脈を敬っている。

イアン達は、その山脈の西部に広がるふもとに来ていた。

ふもとは、草花に覆われ、地面の土の部分が全く見えなかった。

山の方へ目を向ければ、赤や黄色といった鮮やかな色で着飾った木々が、山一面に広がっている。


「きれい…!」


その光景を目にしたロロットが、感嘆(かんたん)の声を上げた。

そのロロットの隣に、ニッカが並ぶ。


「そうだね。カコーライオの西部は、季節に関わらず年中、あの色をした木々が集まっているんだ」


「そうなのか…不思議だな」


ロロットに説明したニッカの後ろでイアンが言った。


「それにしてもすごい木の数だ…本当に集落は存在するのだうか…」


「うーん、山頂付近にあると言われてるけど……その集落から来た人や、行った人を見たことがないいんだな…」


「そうか、キャドウも詳しく教えてくれなかったな…まあ、行けばわかるか…」


イアン達は、景色を見るのをやめ、ふもとを進んだ。


 イアン達は、山の中へ入った。

山の中は、道らしき開けた所がなく、草木が生い茂る中をイアン達は進んでいた。

周りは、木や草ばかりの同じような光景で、自分たちがどこへ進んでいるのかが分からなかった。


「はぁ…ファトム山の方が楽だったな…」


「うん、ここすごい歩きにくい」


イアンとロロットとは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

足元に茂る草は、膝くらいまでの高さをしており、とても歩きづらいのだ。


「…痛!? 」


突然、前を歩いていたイアンが後ろへ仰け反った。


「イアンさん、どうしたんですか? 」


ニッカが、呑気に聞いてくる。


「いや…何かが顔に弾けたような痛みがな……」


「ア、アニキ? 怪我でも――」


ロロットが、イアンの元へ駆けつけようと一歩、足を踏み出した瞬間――


パツン! シュルルルルル! パァン!


「あったあああああああああ!? 」


ロロットが網に包まれて、宙にぶら下がった。

網の中でロロットは、網から抜け出そうと藻掻くが、一向に抜け出せる気配はしない。


「もー! 何これー!? 」


「ちょ! ロロットちゃん!? 大丈――」


「…! 待て! 動くなニッカ! 」


パツン!


「ぶ? 」


「あ…」


シュルルルルル! パァン!


「あああああああああ!? 」


「うおっ! 」


ニッカの足に何かが光ったのが見えたイアンだが、結局、ニッカを止めれず二人は網の中に閉じ込められ、ロロットのようにぶら下がった。


「うああああ! あっ! イアンさん! 大変だ! 」


「見たらわかる…というか見なくてもわかる」


イアンは、ニッカがこの網で囚われた状況のことを行っているのだと思った。


「違うよ! イアンさんの胸がおれに当たって…」


「……落ち着け、オレは男だ」


「ぐへへ……えっ? 男? 」


にやけていたニッカの顔が真顔になって固まる。


「ロロットちゃん大変だ! 君のアニキは男だった! 」


「うるさいっ! 何言ってんだおまえ! 」


訳のわからないことを言うニッカに、ロロットは器用に体を揺らして、ニッカの後頭部に肘鉄を食らわせた。


「ぐっへ! 」


「ありがとうロロット。とりあえず、静かになった」


イアンは、ロロットにお礼を言った後、ホルダーに手を伸ばすが――


「ダメだ、届かない。それにこの網はただの網じゃないな」


ロロットは、網を噛み千切ろうとし、網に噛み付いた。


(かじ)ってもガリガリするだけ、これ鉄でできてるよ、アニキ! 」


「八方塞がりだな…仕方がない、この罠を張った奴を待とう」


イアン達は、脱出をあきらめ、誰かが来るまで待つことにした。





――真夜中。


イアン達がぶら下がって数時間経ち、奥の茂みをガサガサと揺らす音が近づいて来る。


「先輩、なんか結界が破られた反応がこちらにあるみたいで」


「え~本当に~? って、本当だった! 侵入者がおる!? 」


男達の姿は、頭にピンと伸びた耳があり、木の葉のように膨らんだ尻尾が生えていた。

服装はロロットの着る民族衣装のような着物で、腰から下をスカートのように覆う衣服をつけていた。


「おっ! 奴らまんまと罠に引っかかってますよ。忌み子の奴もたまには役に立ちますね」


「……そうだな。おい! どうやって結界を破った! 」


「……い」


男の問いかけに、イアンが呻いた。


「はぁ!? 何だって? 」


「遅い…罠にはまってから、何時間経ったと思っている? 」


イアンは、そう言うとぐったりと項垂(うなだ)れた。

ぶら下がっている他の二人も、長時間窮屈な体勢していたためか、ぐったりとしていた。

最後にでてきた男達は、袴を履いています。

文章力が至らず申し訳ないです。

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