二話 トカク村
小屋―イアンの家を出て街道を歩くこと一時間。トカク村に辿り着く。
イアンが薪を売りに行く村で、村の人口は50人ほどの小さな村である。
家の近隣にある村はこのトカク村しか無く、イアンが薪を売るのもこのトカク村だけ。
イアンの知る世界は今、森林からトカク村までの小さな世界であった。
村の入口を通り、中心にある広場に着く。
働く村人が行き交い、小さい村ながら活気に溢れる広場であったが、今日はそうでもないようだ。
「なんかあったかな…」
イアンはそう呟き、目の当たりにした光景に対し不安になる。
広場に人が一人もいないのだ。
今は昼間、何かの行事があったとしても、一人も広場にいなかった状況は一度もない。
イアンが呆然と立っていると、後ろから声を掛けられる。
「あれ?イアン兄ちゃん来てたの?」
振り返ると茶色の髪の子供が立っていた
村で最年少の子供であるテッドである。
「村で何かあったか?」
「えっとね、神父さまがきてるの」
イアンの質問に、テッドが答える。
「三日前に神父さまが来たの。それで広場に村の皆を集めて、信じれば助けてくれる神様の話をしたんだ」
そうテッドが話した後、彼はつまらなそうな顔をする。
「皆、神父さまの話に夢中になちゃってさ、二日前から村長の家に集まってずっとお祈りをしてるんだ。」
村長の家は、雨天時でも村の集会が行えるよう広く作られている。
そこにテッド以外の村人が居るので、外はおろか各々の家にも居ないらしい。
「そのお祈りは何時終わるのだろうか」
「夕方までやってるよ」
テッドが呆れた顔をしながら答えてくれる。
子供には、まだ宗教は難しいようで理解できないらしい。
イアンも興味が無いので、見に行こうとも思わない。
「はぁ…お祈りが夕方までやっているとは…今日の収入は無しだな」
と溜息をつき、イアンがぼやく。
それにしても、村の皆が夢中になる宗教とはどんなものなのだろう。
イアンがそう考えていると、テッドが残念そうに言う。
「あーあ、どうせ来るなら冒険者さまがよっかたなぁ」
冒険者とは、冒険者ギルドが斡旋する依頼をこなし、金と名声を得ることができる職種。
街の守衛や騎士団とは違い、地域・雇い主に縛られることなく、自由に旅をしながら仕事ができるのが特徴。
イアンが冒険者について、知っていることはこれだけである。
「テッドは、冒険者に憧れているのか?」
「うん。大きくなったら、この村を出て冒険者になるんだ」
テッドは、その小さな目を輝かせて言った。
その後、ひとしきりテッドの冒険者ごっこに付き合い、村を出て帰路に着いた。
村を出る前にイアンは、「次はたくさん買えという旨を、村の皆に伝えてくれ」とテッドに頼む。
一回、薪が売れないと生活がやや厳しくなるのだ。勘弁せよ。
――夕方前。
帰ってきたイアンは、背負っていた薪を家の側に下ろす。
ドアを開け、家の中に入ると違和感を感じる。
部屋を見渡し違和感の正体に気づき、イアンは顔をしかめる。
隅にある作業机の下に、ブルブルと子供が震えながら縮こまっていた。
12月28日―ルビの修正




