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精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
十章 共に立つ者 支える者 石身の勇士編
271/355

二百七十話 予選開始 大会を制する者は

 闘技大会当日。

コロシアム周辺のソルジャーガーデンには数千単位の人だかりができていた。

人だかりの大半は、町の住人や他の国から来た人だ。

皆、闘技大会を見に来た者達である。

ゾロヘイドの闘技大会は、世界で有数の催し物であるため、世界から多くの者達が集まってくる。

一年の中で一番ゾロヘイドが賑わうの始まりである。


「大会に出場する方はこちらでーす! 」


そんな人だかりの中、大会を運営する役員の声が響き渡る。

出場者の招集が始まったのだ。

この呼びかけがされた後、その役員の前に、多くの戦士らしき風貌の者達が列を作る。

千を超え、一万に達するほどのその列は、大会出場者の一部である。

何故なら、闘技大会にはいくつかのクラスに分けられているからだ。

流石に、全クラスの出場者の全員を集めることはできない。

それ故に、日毎に異なるクラスの大会を行っている。

闘技大会初日の今日と二日目の明日は、初級クラスの大会が行われる予定だ。


「はい、出場者の方ですね。あなたは、Aブロックです。一番の控え室に向かってください」


大会出場者の列は、コロシアムの受付へと続いており、そこで役員が出場者の確認を行う。


「あたしは、コウユウ」


列は流れ、コウユウの番が回ってきた。


「コウユウ……はい、出場者の方ですね。あなたは、Cブロックです。三番の控え室に向かってください」


コウユウの番が終わり――


「わたしは、セアレウスです」


次にセアレウスの番が来る。


「はい。あなた……も、Cブロックです。三番の控え室に向かってください」


「は……はい。分かりました」


僅かに戸惑いつつ、セアレウスは受付を通る。


「どうだった? 」


少し進んだところで待っていたコウユウが、やってきたセアレウスに、そう訊ねた。


「Cブロックです」


「あ、同じなんだ。もうあんたと決着を付けなきゃいけないのか…」


セアレウスの答えを聞き、コウユウの顔が険しくなる。

そんな彼女の顔を見て、セアレウスは微笑みを浮かべる。


「そんなことはないですよ。確か、トーナメントに行けるのは二人のはずなので」


「……そっか」


セアレウスの言葉を聞き、コウユウはホッと息をついた。


「ふふっ」


安堵するコウユウに、セアレウスは笑みを零す。


「……!? 勘違いするなよ! あんた……を、トーナメントの一対一で倒せると思っただからな! ふん! 」


コウユウは、そう言うと肩を怒らせながら、控え室へ向かった。

彼女は怒った表情をしており、顔も赤くなっていた。

その様は、彼女が背を向けても把握することができる。


「そうですね。決勝で戦えると嬉しいです」


何故なら、コウユウは耳まで赤くしており、それが後方にいるセアレウスに見えているからだ。







 セアレウスとコウユウが控え室に入ってから数時間。

多くの大会出場者が、彼女達のいる三番の控え室にやってきた。

彼等は種族も違えば、得物とする武器の種類も違う。


「コウユウ、あの……金色の人は、なんの種族か分かりますか? 」


「ん? あれは……猫獣人じゃない? 」


その中には、セアレウスとコウユウが見たこともない種族も存在していた。


「そうでしょうか? なにか、少し違うように見えますが……」


「んー? あいつが何の種族だろうが、あたし達の知ったこっちゃないよ」


「むむぅ……」


セアレウスは、頭を捻った。

彼女が見ているのは、自分から離れた場所で立つ金色の獣人である。

金色の称しているのは、彼女の髪が金色であるからだ。

その獣人は女性で、セアレウスよりも二回りほど背が高い。

金色の髪は後頭部で一つに結っており、髪質のせいなのか、下に真っ直ぐ垂れることなく、花のように広がっていた。

服装は軽装で、黒い服と白いズボン、服の上に長袖の赤いジャケットを着ているだけだ。

彼女が履く靴も特徴的な所はなく、本当に軽装というのが、その人物の一番の特徴であった。

強いて言うのであれば、ジャケットの肩の部分、彼女の首を囲むように、白く尖った毛皮の装飾があることだ。

セアレウスの気になるところは、これらの軽装である部分ではない。


(……やっぱり、武器を持ってない。だとしたら、あの人もわたし達と同じ……)


彼女が気にしているのは、金色の獣人が武器を持っていないことであった。

程なく、控え室に役員が入ってきた。


「お待たせしました。ただいまから、大会の開会式を始めます。皆様、闘技会場にお集まりください」


役員は出場者達にそう告げると、控え室を後にする。

その役員に続いて、出場者達も控え室を後にした。


「めんどくさいなぁ。さっさと始めればいいのに」


「まぁまぁ」


他の出場者に続き、セアレウスとコウユウも控え室を後にした。

控え室を出た彼女達が向かうのは、闘技会場と呼ばれる場所。

そこは、天井の無い開けた場所で、数多くの出場者達が集まっている。

ここが、闘技会場と呼ばれる出場者達が戦いを繰り広げる場所だ。

円形の壁に囲まれるこの空間は、数千の人を収容でき、ここを取り囲むように観覧席が上部に設けられている。

観覧席は人で埋め尽くされ、大会が始まっていないのに歓声が沸き起こっていた。


「……あ! コウユウ、キハンさんが見えましたよ」


「……本当だ。まだ、あたし達の出番じゃないんだけどね」


闘技会場から見上げる二人に、観覧席の一番上で精一杯手を振るキハンの姿が目に入った。


「皆様、ご静粛に」


選手達の集まる闘技会場の奥、そこに一人の役員が現れる。

その役員は、初老の獣人の男性で、大会役員の中で一番の地位にいる役員会長であった。

役員会長の言葉により、騒いでいた観客も徐々に静まり、やがて騒ぐ者は一人もいなくなった。

それを確認したかのように、彼は咳払いを一つすると――


「ただいまより、開会式を始めます。この闘技大会は、遥か昔から行われ――」


長々と大会の歴史について話しだした。


「――というように、この大会は由緒正しきものでございます。では、今までの伝統に則り、初級クラス前年度優勝者に選手宣誓の儀を執り行ってもらいます」


その話が終わると、闘技会場の出入り口から、一人の女性が現れ、役員会長の前に立つ。


「……ん? あれって……」


その女性の姿を見て、コウユウは首を傾げた。

彼女は女性の姿に見覚えがあったのだ。

そして、女性が誰であったかを思い出す。


「あ……あの人、初級クラスで優勝してたのか…」


「知り合いなのですか? 」


コウユウの呟きを耳にし、セアレウスは彼女に訊ねる。


「前……うん、けっこう前だ。アニキ達と何とか教団の本拠地に殴り込みに行った時にお世話になった人だ」


「何とか……マヌーワ第二信仰教団ですか。なら、ベルギアさんがあの人ですか……」


「そうそう、ベルギアって名前だったね」


役員会長で選手宣誓を行う女性は、ベルギアという女性であった。

コウユウの言う通り、かつて、イアンと共に戦った女性である。


「というか、セアレウス。あんた、やけに詳しいね」


「兄さんに、色々と話を聞いてましたから」


「へぇ……じゃ、じゃあさ、あたしのことも聞いてたり……」


視線を彷徨わせながら、コウユウはそう呟いた。


「はい、聞いてますよ」


「……! べ、別に気になっちゃいないけど……アニキは、何て? 」


「確か……パワーが強くて、頼もしい。キキョウ……さんとは、仲良くやってほしい……とか? 」


「そ、そうかぁ……その時から頼もしいって思っててくれたんだ……」


コウユウは、感動したようで目を細める。


「はい。それで、キキョウさんと――」


「セアレウス、無駄話はやめよ。ほら、もうベルギアの選手宣誓が終わっちゃう」


「ええー……」


話をはぐらかされ、セアレウスは口をへの字に曲げ、何とも言えない表情になった。

結局、彼女達がベルギアの選手宣誓を聞くことはなく、開会式は終了した。







 開会式が終わり、出場者が控え室に戻っていく中、一部の出場者達が闘技会場に残る。

皆、Aブロックの出場者で、これから二名のトーナメント出場者を決める戦いが始まるのだ。


「予選Aブロック……試合開始!! 」


ジャーン!


役員の声と銅鑼の音が闘技会場に響き渡り、出場者達が一斉に戦いを始める。

近場の者と一対一で戦う者、複数の者を同時に相手をする者、他の者と協力して戦う者等、多くの戦士達がいる中、様々な戦いが繰り広げられていた。

彼らの戦いを見て、観覧席の人々は大きな歓声を上げている。

特に歓声が沸き起こる瞬間というのは、選手が敗れ去った時。

逆に言えば、ある選手が他の者を打ち負かした瞬間であった。

Aブロックにおいて、特に観客の人々を大いに沸かせる者がいる。


「ふっはっはっはっは!! 俺に勝てるものか! 時代は魔法なんだよ! 」


その者は、赤の模様が入った白いローブを身に付ける少年であった。

彼の身に付けるローブは、魔法学校の学生が身に付ける外套の一つ。

彼は、カジアルの魔法学校の学生であった。

魔法学校の学生らしく、彼は魔法を駆使して戦い、多くの出場者を吹き飛ばしていた。


「ぐはっ!! 」


一人の出場者が闘技会場の地面の上に横たわる。


「そこの方、失格です」


その者に向け、闘技会場の隅に立っていた役員の一人が、そう告げた。

闘技会場の中心に半径数百メートルの円が描かれている。

この円が大会の予選にのみ追加されるルールの一つである闘技範囲である。

闘技範囲の中で、出場者達は戦うことを認められており、この円の外に出た者は失格となる。

外に出たという判定は、円の外の地面に体をつけたということであり、円の外にいても地面につかなければ失格とはならない。

さらに、高さの制限は無いため、空を飛ぶ者はその能力を充分に発揮することができる。


「魔法を使う奴は厄介だけど、他の奴は目じゃないね! 」


このAブロックに一人だけ空を縦横無尽に飛ぶ者がいた。

彼女は、背翼鳥獣人はいよくちょうじゅうじんであった。

背翼鳥獣人は、背中に翼を持つ獣人で、背中に翼を生やす魔族と似たシルエットを持つ。

多くの者の翼が、鳥の翼のように羽毛に包まれており、彼女は黒い翼を生やしていた。

背翼鳥獣人の少女は、空を飛び回りつつ、地上にいる他の出場者を二本の得物で襲撃していた。

彼女も多くの出場者を倒す者であり、華麗に舞う姿が好評のようで、観客を大いに沸かせていた。

やがて、Aブロックに残ったのは――


「魔法学校の代表として、俺が優勝してやんよ! 」


「ちぇ、魔法を使う奴が残ったか……」


やはり、魔法学校の学生の少年と黒い背翼鳥獣人の少女の二名であった。

Aブロックの試合が終わると、すぐにBブロックの試合が始まる。

Bブロックの試合は、Aブロックで勝利を掴んだ二名のような目立つ存在はいない。

出場者の雄叫びと、武器と武器がぶつかり音がこの試合ではよく響き渡っていた。

このBブロックで、目立つ存在は四人。


「切り捨ては……しない。峰打ちでござる」


一人は、犬獣人の少女。

彼女は、細く僅かに反り返った剣を武器に戦っていた、

目立つ要素としては、彼女に攻撃がまったく当たらないことであろう。

彼女は、襲いかかる他の出場者の武器を最小限の力で躱し、その者らを剣で打ち付けていた。

言葉のとおり、出場者達は切られることなく、その場に昏倒していった。


「ぬああああああ!! 」


二人目は、巨大な大剣を振り回す巨漢だ。

彼は、人間だが、獣人をも弾き飛ばす力を持っており、彼が大剣を振るうと、周囲には誰もいなくなる。


「フゥワアアアアア!! 」


三人目は、二人目と同じく大剣を振り回す巨漢だ。

二人目の彼と違うのは、獣人であること。

三人目の彼は頭の両側頭部の上部から角を生やす牛獣人であった。

人間よりも図体が遥かに大きく、人間の巨漢も小さく見えてしまう。

外見から判断すると、人間の巨漢よりもこの牛獣人の男性の方が強いだろう。


「パオオオオオン!! 」


四人目は、大木で作られた槌を手に持つ象獣人だ。

象獣人は、顔が象そのもので有名な種族で、その姿から一部の地方では神の使いと崇められている。

そんな種族の彼は、このBブロックにおいて、一番の力持ちであろう。

何故なら、彼は牛獣人よりも図体がでかく、彼の持つ大剣よりも槌は何倍も大きいのだ。

やがて、他の出場者が敗れていく中、この四人が闘技範囲の中に残った。

戦う組み合わせは自然と――


「相手にとって不足なし……」


「ちっ、ガキが相手かよ」


犬獣人の少女と人間の巨漢――


「フゥワ! また倒しがいのある御仁だ」


「パォン!! 牛如きが何をほざいてるパオか」


牛獣人と象獣人となった。

少しの会話の後、この二組の戦いが始まる。

どちらも拮抗した戦いを繰り広げ、やはり、観客の人々は多いに盛り上がる。

しかし、片方の組みは、あっけなく戦いは終わる。


「パオオオオオオン!! 」


「フゥワ!? 」


象獣人の槌が牛獣人の体に当たり、吹き飛ばしたのだ。

そして、牛獣人は壁面に体をぶつけ、ぐったりとうなだれて動かなくなった。

彼は昏倒しており、闘技範囲外に出ている。

詳細なく確認する必要なく、牛獣人は失格だ。


「パォン、これでわしは実質トーナメント出場決定パオ」


象獣人は、肩に槌を担ぐと、嬉しそうに花を鳴らした。


「向こうは、終わったみてぇだな。じゃ、こっちも終わりにすっか! 」


人間の巨漢はそう言うと、犬獣人に向けて蹴りを放つ。


「うっ! 」


その蹴りを受け、犬獣人の少女は、よろめいてしまう。

人間の巨漢の攻撃を躱し続けていた犬獣人の少女だが、蹴りが来るとは予想していなかったのだ。


「おらよ! 」


絶好の機会と言わんばかりに、人間の巨漢は大剣を振り回した。

すると、人間の巨漢の目の前から犬獣人の少女の姿が消え――


「「「ワアアアアアアアアア!! 」」」


一際大きな歓声がコロシアムに響き渡った。


「ふっ、これで俺もトーナメントに行けるぜ」


自分が勝ったのだと、思い込んでいた人間の巨漢だが――


「パオオオン! 小娘、なかなかやるパオな」


「……は? なんだっ……て!? 」


象獣人の声により、背後に顔を向けたことで気づいた。

自分が振りきった大剣の上に、犬獣人の少女が乗っていることを。

犬獣人の少女は、大剣に突き飛ばされてはいなかった。

大剣が体に迫る一瞬で跳躍し、大剣の上に乗っていたのだ。


「はぁ!! 」


犬獣人の少女は、大剣から飛び降りると同時に剣を振るった。

剣は、人間の巨漢の首の後ろに当たり、彼は何事も発することなくその場に倒れ伏した。

彼女は、昏倒する体の部位に剣を打ち、一撃で人間の巨漢を倒した。


「勝負あり……しっかりそれを確認してから言うべきでござる」


剣を腰に下げた鞘に戻しつつ、犬獣人の少女は倒れ伏す人間の巨漢に向けて言った。

これにて、Bブロックの試合は終わった。

このブロックで、トーナメントに出場するのは、象獣人の男性と犬獣人の少女の二名である。

そして、Bブロックが終わり、次はCブロックの試合となる。


「セアレウス」


闘技会場にて、他の出場者と共に試合開始の合図を待つ中、コウユウがセアレウスに声を掛ける。


「なんですか? 」


「勝負しようよ。何人倒せるかってやつ」


「勝負ですか、いいですね。予選で戦わない分、それで勝負しましょう」


「言ったね。じゃあ、あたしが勝ったら、ジュース解禁ってことで」


「ああ、やっぱりそれが狙いですか。ま、いいでしょう」


「やったね! 絶対勝ってやる! 」


笑みを浮かべて意気込むコウユウに対し、セアレウスは苦笑いを浮かべる。

それから二人は、真反対の方へ向かい、互いに距離を離す。

二人が足を止めたところで――


「予選Cブロック……試合開始!! 」


ジャーン!


トーナメントの出場を賭けた二人の戦いが始まった。




2018年 5月 2日 会話の流れがおかしいので修正

「あ……ベルギアだ。あの人、初級クラスで優勝してたのか…」 → 「あ……あの人、初級クラスで優勝してたのか…」


「コウユウ、あの人と知り合いなのですか? 」 → 「知り合いなのですか? 」

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