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精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
十章 共に立つ者 支える者 石身の勇士編
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二百六十七話 強者が集う町 ゾロヘイド

 三つ編みの少女に、コウユウという名が出来た日から二日後の朝。

セアレウス、コウユウ、キハンの三人は、ロートロアとゾロヘイドの間に広がる荒野を歩いていた。

コウユウの体のダメージが回復したため、ゾロヘイドに向かうことにしたのだ。


「そういえば、キハンさんは、どうしてコウユウについてくるのですか? 」


先頭を歩いていたセアレウスは後ろに振り返り、キハンに訊ねた。


「お! オオダンナ。ようやく、オイラに興味を持ってくれたね」


「オオダンナ? 」


キハンの口にした言葉に、コウユウが僅かに首を傾げる。


「ダンナより強いってことで、オオダンナさ」


「ふーん……って、名前分かってんだから、ダンナって呼ばなくてもいいじゃん…」


コウユウは微妙な表情を浮かべた。


「それで、オイラがダンナについていく理由だったっけ? それはもう、痺れたからだよ」


「痺れた……コウユウの強さにですか? 」


「おうとも! 最近までオイラは一人旅をしていてね。そんで、この前……オオダンナに会う前さ。その時、魔物と戦ってたらダンナが現れて…」


「ああ、そんなこともあったっけ。確かあの時、おまえは魔物にビビりまくって――」


「ちょ!ちょっと待って! オイラのことはいいじゃん! ダンナが強くてカッコよかったって話でいいじゃん!? 」


コウユウの口を必死に抑えようとするキハン。


「コウユウが魔物をバッタバッタと倒していったのですね? 」


「そう! 拳一つで魔物共を倒していく様に痺れてね。自分もそれにあやかりたいと、ついてきているのよ」


セアレウスに助け舟を出されて、キハンは意気揚々と答えた。


「へぇ……コウユウに憧れるということは、キハンさんも武を極めようとする者ですか? 」


「武を極めるって……大袈裟だなぁ…」


セアレウスの問いかけに、コウユウは苦笑いを浮かべる。


「いや、一応剣を持ってるけど、極めたいのは妖術だよ」


キハンは、纏っているマントを若干広げながら、セアレウスの問いかけに答えた。

彼女の言うとおり、キハンの腰には、ひと振りの剣が下げてあった。


「妖術……確か、幻覚を見せたりとか敵を惑わすことに長けた魔法……でしたか? 」


「魔法って言っていいのか分からないけど、その通り。はあっ! 」


キハンが手を合わせ、空中で一回転すると――


ボワンッ!


キハンの姿が消え、そこにセアレウスの膝までの大きさの岩が現れた。


「妖術の中でも、オイラは、自分の姿を変える変化(へんげ)が得意だよ」


現れた岩から、キハンの声が発せられる。

キハンは岩に化けているのだ。


「おおっ! 本当の岩みたいです! 硬さも再現されたり――」


「まだできない! できないから、ダンナはそのでっけぇ武器を構えるのやめて! 」


「え? 」


キハンの声を耳にし、コウユウは体を硬直させた。

彼女は今、弧炎裂斬刀を振り上げた体勢で、岩に化けたキハンへ振り下ろそうとしていた。

セアレウスと同じように、岩のような硬さになっているかが気になったのだ。


「なんだ、硬くないのか。もっと早く言いなよ。危うく、また先生との約束を破るところだったって」


コウユウは、弧炎裂斬刀を下ろすと、それを背中へ回して背負う。


ボワンッ!


「危ねぇ……いや、本当。あと、岩の硬さになっても、ダンナなら砕きかねない」


元の姿に戻ったキハンは、ホッと息をついて安堵する。


「妖術を使う奴なんて、あんまりいなくて、オオダンナみたいに珍しがられるけど、オオダンナも大概だよ」


「わたし……ですか? 」


キハンに言われ、セアレウスはきょとんとした表情になった。


「あ、やっぱ、自覚無いんだ。武器とか魔法の使い方とか……色々変わったところがあるけど、まず格好が変だよね」


「……言われてみれば、確かに」


キハンの言うことに、コウユウは頷いた。


「変……あ、ああ…」


セアレウスは、自分を見回して納得した。

今の彼女の服装は、イアンの元から離れた時から変わっていない。

つまり、ベティの選んだ服を着ているのだ。

肩やふとももが意図的に露出されているセアレウスの服装は、キハン達にとっておかしな格好である。


「最初は恥ずかしかったけど、もう慣れちゃいましたね。でも……なんか、勇者のように見えませんか? 」


「え? 勇者? うーん……ダンナは、どう思う? 」


「分からないよ。少なくとも、こんな格好の奴が勇者だったら、なんか嫌だなぁ…」


「がーん!! 」


今の服装が続いているのは、勇者のように見えると言われたことが大きい。

それをコウユウに否定されたような気がして、セアレウスはショックを受けたのだ。

しばらく、落ち込んでいたセアレウスだが、そのうちに立ち直り、コウユウやキハンと他愛の無い会話を始めた。

会話をしながら、彼女達は荒野を歩き続ける。

そして、彼女達はロートロアから出発して一日と半日の時間をかけて、ゾロヘイドに辿り着くのだった。







 ゾロヘイド――


ユンプイヤの荒野地帯で、一番大きな町だ。

この町の大半の建物には、白い石の建材が使用されているためか、町全体が白く見える。

その白い町並みを眺めていれば、一際目を引く建物があることに気づくだろう。

それは、町の北側にそびえ立つ巨大な円形の建物だ。

この建物は、コロシアムと呼ばれる闘技場で、大規模な闘技大会を開催することで、この町の名を世界に広めている。


「うわぁ……すごい人の数だ…」


目を丸くしながら、キハンがそう呟いた。

コロシアムの周りは広場になっており、一つの町の大きさ以上もあるというのに、そこは人で埋め尽くされていた。

この広場がある地域は、闘技大会に出場する戦士達が多く集まることから、ソルジャーガーデンと呼ばれている。

広場の他、ソルジャーガーデンには、武器や防具を扱う店や宿屋等、戦士達を顧客とした店も数多く存在している。

セアレウス達三人は、ゾロヘイドの町に入り、この場所に来ていた。


「ここにいる人達は、みんな戦士ですね…」


セアレウスが周りを見回す。

広場を歩く者達の多くは、武器を持っていた。


「……しかも、皆さん……強い…」


周りを見回すセアレウスが神妙な顔になる。

戦士達はただ武器を持っている者ではない。

皆、闘技大会に出場するに相応しい強者達なのだ。

セアレウスは、彼らが放つ剣呑な空気を感じ取っていた。


「ここに来たということは……コウユウ、あなたの課題というのは……」


「セアレウス。あんたの思っている通りだ」


コウユウは、そう言うと、前方に指を差す。

その方向は、言うまでもなくコロシアムである。


「あたしは、闘技大会に出場しに、この大陸に来たんだ。そして、大会の初級クラスで優勝する。それが、先生から出されたあたしの課題だ」


指を差したまま、コウユウはそう言った。

その瞬間――


「「……!? 」」


セアレウスとキハンの背筋が凍りついた。

一瞬だけ、自分達に視線が集まり、その視線の多くが敵意が含まれたものであったのだ。


「……コウユウ。この課題……かなり厳しいものになりますよ…」


額に浮かび上がった汗を拭いながら、セアレウスがコウユウに言った。


「はっ! 上等! これも、強くなるための修行の一環なんだ。強い相手は大歓迎だよ」


指を差していた腕を下ろすと、コウユウは歩き出した。


「早速、受付に行こう」


彼女が向かう先は、コロシアムであった。


「さ、流石、ダンナ。オオダンナ、ダンナはきっとやってくれるよ」


コウユウの頼もしい言葉に、キハンは意気揚々と、先を歩く彼女についていく。


「……コウユウなら、優勝できますよ…」


セアレウスも二人に続いて歩きだした。

この時、言葉とは裏腹に、セアレウスは浮かない表情をしていた。


(コウユウは強い……ですが、今のままで良いのでしょうか…)


コウユウの実力を認めているが、安心はできなかった。




 コロッセオの入口には、受付のカウンターがあり、複数の女性が立っている。

そこで、闘技大会の出場手続きを行うようで、多くの戦士達が列を作っていた。

コロッセオに入ったセアレウス達も列に並ぶ。

コウユウ以外にも、闘技大会に出場する戦士達はいるのだ。

しばらくすると、コウユウの番が回ってくる。


「ようこそ。闘技大会に出場されるのは初めてですか? 」


「うん」


受付の女性の言葉に、コウユウが頷く。


「でしたら、初級クラスですね。お連れの方もそれでよろしいですか? 」


出場するのはコウユウだけだが、セアレウスとキハンも列に並んでいた。

受付の女性は、その二人も出場するのだと思っているのだ。


「あ……いや、二人は……」


「はい。お願いします! 」


否定しようとしたコウユウだが、セアレウスは受付の問いかけに頷いてしまった。


「え? 」


「あれ? オオダンナも出るの? 」


コウユウとキハンが驚いた表情で、セアレウスを見る。


「はい。では、初級クラスの大会に……お名前は? 」


「……コ、コウユウ…」


「セアレウスです」


「コウユウさまと、セアレウスさまが出場されるということで、登録します」


受付の女性は、手元の書類に二人の名前を書いた。


「はい、これで手続きは終了です。では、この闘技大会の進行について説明します」


受付の女性が説明を始める。

闘技大会は、どのクラスも進行方法は同じである。

まず予選は、選手を複数のブロックに分け、一つのブロックの中から二人の選手を選出するというもの。

その次に、予選で勝ち抜いた者達でトーナメントを行う。

闘技大会は、この二つの形式しかなく、少ないように思えるが、五百人以上の選手が予選で十人ほどに絞られる。

どのクラスの予選も狭き門であり、トーナメントは本当に強い者達の戦いになるのだ。


「次に、大会のルールについて説明します」


闘技大会では、武器や魔法の制限は特に無い。

どんな武器や魔法を使おうが、基本的にどうこう言われることは無いのだ。

しかし、戦った相手を殺害する、意図的に相手の体を欠損させる行為は禁止されている。

相手を降参させるか、気絶させる等の戦闘を続行できない状態させることが、闘技大会の基本的な勝利方法である。

予選では選手の数が多く、それらの判定が困難なため、いくつかの敗北条件が追加されている。

そのいくつかの敗北条件については、予選が開始される時に説明しよう。


「説明は以上です。予選は一週間後に行われますので、忘れずに来てくださいね」


闘技大会の説明が終わり、三人は受付から離れる。

その後、彼女達は、コロッセオの入口を出て、人の往来の邪魔にならないよう壁際に集まった。


「セアレウス……あんたも大会に出るのか…」


「ええ。コウユウの課題を手伝いに来ましたが、わたしも強くなりたいので」


「へへっ、オオダンナが出場しちゃあ、本当に優勝は厳しいんじゃあない? 」


「……いや、大丈夫。大刀を使わなくても、あたしはあんたに勝てる……はず…」


ビッ! ビッ!


左右の拳を交互に突き出しながら、コウユウは言った。


「そういえば、武器は使えないんだったっけ。それでも、ダンナならやれそうだね」


「本当にそう言い切れるのでしょうか? 」


「……おっと、今日のオオダンナは、いつになく強気だね」


セアレウスの呟きに、キハンは笑いかけるが――


「いえ、わたしとコウユウの対決を言っているのではありません。コウユウが優勝できるかどうかを言ったのです」


セアレウスは神妙な面持ちで、コウユウを見つめる。


「うっ……そ、そっち? でも、大丈夫でしょ。ねぇ、ダンナ? 」


「……」


「ダ、ダンナ? 」


問いかけたキハンだが、コウユウから返事が来なかった。

コウユウも神妙な面持ちで、セアレウスを見つめるだけであった。


「……今のままじゃ、ダメ……ってことだよね? 」


しばらくすると、コウユウは、セアレウスにそう訊ねた。

彼女自信も、この大会で優勝する自信はそれほどなかった。

自信を失ったのは、セアレウスも出場すると言った瞬間からである。

現時点で、コウユウはセアレウスに勝てる自信は、あまり無い。

そんな相手が大会に出てくると認識した途端に、彼女も大会で優勝出来るか不安になっていたのだ。


「そんなことはありません。ですが、大会の予選までは、一週間あります。この一週間で、強くなりましょう」


「強くなる? オオダンナ、何をするつもりだい? 」


「それは……」


「それは? 」


口を開いたセアレウスに、キハンは思わず顔を近づける。

この時キハンは、セアレウスの口から、凄いことが出てくるのだと期待していた。


「……まだ決めていません」


しかし、セアレウスはまだ方法を考えていないようであった。


「ありゃー!? 」


期待外れの返答に、キハンは転倒し、地面に転がってしまう。


「まだ、拳で戦うコウユウをあまり知りませんからね」


「じゃあ、また戦う? 」


「そうですね……いえ、今日はやめておきましょう」


コウユウの問いかけに、セアレウスはそう答えた。


「ゾロヘイドに辿り着いたばかりです。今日はもう宿で休んで、旅の疲れを癒しましょう。強くなるのは、明日からということで」


「ちぇー、あたしは今日でも良かったんだけどね」


セアレウスとコウユウは、宿屋を探すために歩き始めた。


「……あ! 待ってよ、二人共ー! 」


少し遅れて、キハンが二人の元へ走り出す。

闘技大会まで、残り七日。

果たして、セアレウスは、この短い期間の間に強くなる方法を考えることはできるのか。

いずれにしても、コウユウが強くなるかどうかは、自身の頑張り次第と言えるだろう。




お察しの通り、次回は修行しますよ。

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