二十五話 強くなるには?
都市カジアル――
フォーン王国で一番大きな街。
この街には、出来のいい品を置く店、豪華な宿屋等の高級な店が多く立ち並ぶ。
それだけで人が集まるには充分であるが、この街にはさらに、フォーン王国冒険者ギルド本部、カジアル騎士団、カジアル魔法学院がある。
これらの施設、特に魔法学院には多くの人が集まり、この街を賑わせていた。
――朝。
イアンは、目を覚ますと、支度を整え、部屋を出た。
タトウの依頼を達成した後、イアン達は宿屋を探すため街を歩いた。
かなり歩き回ったが、宿屋は見つけられなかった。
宿泊街の宿屋を片っ端から見て回ったが、イアン達が泊まれる宿屋が無かったのだ。
イアンとロロットが、タトウから貰った8000Q、二人合わせて16000Qをもってしても、一泊もできないほど、宿泊費が高かった。
しかし、都市カジアルはイアン達を見捨てなかった。
都市の西部、平民階級の住宅街がある地区の端っこに宿屋があった。
外観は、シロッツで泊まった宿のように素朴であったが、イアン達にとってはどうでもよかった。
宿泊費は格安で、イアン達の全財産で一月は泊まれることができるほどだ。
イアンは、隣の部屋で寝てたロロットを起こすと、宿屋の階段を降りる。
「クク…おはようございます…」
一階に降りたイアンに、宿屋の店主が頭を下げる。
店主の名前は、キャドウ。
耳と鼻が長く、サングラスと言う、黒い水晶なものが着いた器具を顔に掛けており、どんな目をしているかはわからない。
頭は、鶏のトサカのような形の髪が生えているだけだった。
言葉を発する前に、小さく笑う癖がある。
「おはよう…キャドウ、朝食を取りたいのだが」
「クク…もうできています…」
「ああ、助かる」
「お腹減ったー」
イアンとロロットは、食事が用意されている席に着く。
「うまい」
「おいしー! 」
「クク…」
キャドウの作る料理は美味であった。
その料理を、美味しそうに食べるイアン達を見て、キャドウは小さく笑うのであった。
キャドウの料理を食べ終えたイアン達は、都市の中央部にある冒険者ギルド本部に来ていた。
イアン達の他にも、数多くの冒険者がこの本部に集っていた。
どの冒険者も武器や防具が立派で、いかにも一流という雰囲気を出している。
そんな中、イアンとロロットは依頼の報告をするため、受付の行列に並んでいた。
しばらく並んでいると、ようやく自分たちの番が回ってきた。
「依頼達成の報告を行いたい。連れの者とまとめて出来ないか? 」
「はい、できます。それでは、名前と依頼内容を確認させて頂きます」
イアンは、受付のスタッフに聞かれたことを話す。
やはり、依頼達成の証拠が必要となったため、タトウから貰った依頼達成証明書を渡した。
「報酬は既にいただきましたか? 」
「ああ、貰っている」
「では、依頼達成とみなします。お疲れ様でした! 」
依頼達成の報告を終えたイアン達は、次の依頼を探すため、依頼掲示板へ向かった。
――昼下がり。
「そろそろどうにかしないとな…」
イアンは、フォーン草原に散在している林の中で、薬草を毟っていた。
依頼掲示板で依頼を探すイアンであったが、E-ランクの彼が受けられる依頼はこれしかなかった。
前回と同じように、ロロットは魔物の相手をしている。
Dランクのロロットになら、他にも受けれる依頼があったが、イアンと一緒にいるということで付いてきた。
薬草を定量分集め終わったイアンが、ロロットの方へ目を向けると、既に戦闘は終了していた。
「早いな。ここら辺の魔物では、もう相手にすらならないな」
「うん…」
ロロットは、浮かない顔をしていた。
「アニキ、草毟り終わったよね? 」
「失敬な、薬草摘みと言え。終わったが…どうかしたのか? 」
「あたしと勝負して…」
カジアル近辺の草原で、イアンとロロットは木の棒を構えて対峙していた。
ロロットに勝負を申し込まれたイアンは、それを了承すると、林に生えていた木の枝を折って、加工した。
イアンの持つ木の棒は短く、ロロットの木の棒は長い。
それぞれが使う武器に合わせて作ったのだ。
「ふっ! 」
「むっ!? 」
先に動いたのは、ロロットだった。
木の棒を横に振り、イアンの聞き手ではない方――つまり、木の棒を持っていない方を狙った。
ヒュン!
イアンは、屈んでそれを躱した。
そのままロロットへ攻撃を入れるため、接近する。
「…! ぐっ」
イアンの接近は阻止され、軽く横へ吹き飛んだ。
ロロットが、木の棒を振り切って体を回転させ、一周回ってきた木の棒により、イアンは吹き飛ばされたのだ。
宙を舞うイアンに、追撃を入れるためロロットは振りかぶる。
ロロットの追撃に備えるためイアンは、素早く着地する。
そこに、ロロットの一撃が入るかに思われたが、彼女は振りかぶったまま固まった。
イアンの手に、木の棒が無いのだ。
ロロットが固まったのは一瞬であったが、イアンはそれを見逃さなかった。
「ふん! 」
「かはっ!? 」
イアンは素早く立ち上がり、ロロットの首を抑え、そのまま地面に叩きつけた。
ロロットを地面に抑えながらイアンが言う。
「オレの勝ちだ。約束に従ってもらうぞ」
「……うん」
ゴッ!!
木の棒がイアンの頭に落ちた。
イアンは吹き飛ばされた瞬間、ロロットの追撃を予測し、木の棒を空へ投げていたのだ。
しかし、どこに投げるかは考えていなかった。
「…とにかく、オレの勝ちだ」
「う、うん…」
ロロットは苦笑いを浮かべるのであった。
――夕刻。
カジアルに戻るため、イアンとロロットは街道を進む。
ロロットは、イアンの後ろをトボトボと歩いていた。
「…明日、頑張れよ」
イアンが振り返らずに、ロロット言った。
「うん……アニキも頑張って…」
「アレは、頑張らなくてもなんとかなる……まだ痛い…」
「……ふふっ、あははははは! 」
頭をさすりながら呟くイアンに、ロロットは吹き出した。
「むぅ……まぁ、いいか」
文句を言おうとイアンは振り返ったがやめた。
そこには、さっきまで沈んでいたロロットの顔ではなく、彼女の笑顔がそこにあったからだ。
「何を悩んでいたか分からないが、ひとまずはこれで大丈夫だろう…」
イアンは、前を向いて歩き出した。




