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精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
九章 彷徨うアックスバトラー
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二百三十七話 山脈の坑道

 ――朝。


日は登ったばかりで、辺の草原は仄かに薄暗い。


「ようし! みんな、行くっスよ! 」


そんな中、マコリアは意気揚々と歩いていた。


「マコのやつ、元気だな…」


「きっと、朝も粥を食べれて機嫌がいいのでしょう」


彼女の後方をイアンとロシが歩いている。

彼等は今、ヒリアソス山脈に存在する坑道を目指していた。

その坑道を通れば、比較的速やかにヒリアソス山脈を越え、アロクモシアに向かうことができるのだ。


「……ふむ」


イアンが、前方を歩くマコリアの頭を見る。

彼女の髪は黒く、イアンにとっては珍しい髪の色であった。


「ん、どうしたっスか? イアン先輩」


イアンの視線に気付いたのか、マコリアが振り返る。


「珍しい髪の色だな…っと思って、おまえの髪を見ていた。気に障ったか? 」


「全然。でも……そっかーやっぱ、この色にして正解だったっスね! 」


マコリアは、二つに結った髪をそれぞれ左右の手で持ち上げる。

その時の彼女の表情は、にんまりと笑っていた。


「む? どういうことだ? 」


マコリアの言葉を耳にし、イアンは怪訝な表情を浮かべる。


「この髪、黒に染めてるんっスよ」


「染める? 」


なお、イアンは理解できずにいたが――


「ああ、マコさんは髪を染めていたのですか。最近、流行っていますね」


ロシは、理解できたというより、髪を染めるという行為を知っていたようだった。


「なんだ? 知っているのか、ロシ」


「ええ。髪に色を付ける染料というものが出回っておりまして、自分の髪の色を好きな色にできるのです」


イアンがロシに訊ねると、彼はそう答えた。


「そうそう。でも、最近じゃあないっスね。ここ一年……までは、いかないっスけど、そのくらいから流行ってるっス」


「へぇ、私は本当に最近知りました」


ロシが僅かに目を見開く。

しかし、他人から見れば、それほど目は開いていない。


「まぁ、流行ってるのは、マコっち達のような若者の間っスからね。ロシさんは、最近知ってもおかしくないっスよ」


「……うーん、フォローしてくれたのでしょうが……なんかモヤモヤしますね…」


マコリアの言葉に、ロシは苦笑いを浮かべた。


(オレは、一年も寝てて、ここ最近はリサジニア共和国にいたからな。流行りというものは、全く分からん)


二人の会話を聞きながら、イアンはそんなことを思っていた。


「……む。そういえば、聞いていなかったが、マコよ。おまえは何故、あの森にいたのだ? 」


ふと、マコリアが何をやっていたかが気になり、イアンは訊ねた。


「ああー…言ってなかったっスか? マコっちは今、武者修行中っス。あの森にいたのは、たまたまっス」


「ほう……何故、武者修行を? 」


イアンは、さらに詳しく問いかける。


「うーん……端的に言えば、強くなるためっスね。なんか、適当に旅をしてるっス」


「むぅ、強くなるために、適当に旅をしているのか…」


いまいちマコリアの言うことが納得できず、イアンは僅かに険しい表情を浮かべた。


「……あなたの師匠…プルトガリオから、そうしろと? 」


今度は、ロシがマコリアに訊ねた。


「違うっス。というか、師匠はずっと前から行方不明っスよ」


「そうですか。あと、行方不明ですか……あの人らしい…」


マコリアの答えを聞き、ロシは僅かに頬を緩めた。


「ま、そういうわけで、しばらくはイアン先輩達についていっても大丈夫っス。その間、いっぱいマコっちを頼ってくださいっス」


マコリアは、微笑みながらそう言った。


「ああ、頼りにさせてもらう」


「えへへ、任せるっスよ! じゃ、行きましょうっス」


三人は、坑道を目指して歩き続ける。

そんな中――


(マコの奴……少し言葉を濁したな。良いやつに変わりはないが、何かを隠しているな…)


イアンは、前方を歩くマコリアをじっと見続けていた。

そんなイアンは、気づくことはなかった。

マコリアが、自分に意識を向けつつ、無表情で歩いていることに。








 就寝地点から出発し、三、四時間の時が経った頃。

イアン達は、ヒリアソス山脈の坑道の入口に来ていた。

入口から察するに、坑道の幅、高さが共に高く、魔物か何かと戦闘になったとしても、障害は少ないように見えた。

しかし、問題が全く無いとは言えない。


「……暗いな」


坑道の先は見通すことはできず、中は暗闇に包まれているのだ。


「暗い道を進むのは、危険ですね。松明を作りましょうか」


「ああ、そうするか」


ロシの提案に頷くと、松明を作るため、イアンは腰を下ろす。


「そんなことをする必要は無いっスよ」


「なに? 」


しかし、マコリアの発言に、イアンは腰を下ろす途中で動きを止めた。


「マコっちの魔法に、便利なやつがあるっス。とりあえず、ちょっと坑道の中に入るっスよ」


「ああ」


「これは、期待できますね」


三人は坑道の中に、足を踏み入れ、数歩進んだところで足を止める。

やはり、坑道の中は暗く、前方は何も見えなかった。


「じゃあ、行くっスよ? 闇よ、我らを受け入れよ…ダークビュー! 」


マコリアが何事か呟いた後――


「む? 」


「う…」


イアンとロシは、目に違和感を感じた。

すると、何も見えなかった前方の道が、はっきりと見えるようになった。

まるで、昼間の外と同じように見えるのである。


「これは、すごいな…」


「ええ。便利な魔法ですね」


明かりを用意しなくても、暗所を進めるため、イアンとロシに好評であった。


「ふふー、闇魔法にもいいところがあるっスよ。さ、坑道を進むっスよ」


マコリアの魔法により、明瞭な視界を確保することができた三人は、坑道の中を進んでいった。




 魔物と遭遇することなく、イアン達は坑道の中を進み続ける。

坑道の道には、崩壊防止のためか所々に木の柱がある。

その柱と柱の間は、壁の岩肌むき出しになっており、時折大きな穴を見かけることがあった。

その大きな穴は、人が通れる程の大きさであるため、採掘のために掘り勧められたか、別の道に繋がっている通路等、様々な意図で掘られた穴なのだろう。


「……静かだな…」


坑道を進む中、イアンがぼそりとそう呟いた。


「そうですね。流石に、坑道の中に魔物がいるとは思ったのですが、出て来ませんね」


イアンの呟きに、ロシも同調する。

彼等の耳に聞こえるのは、自分達の話し声か足音くらいだった。


「魔物が出てこない方が良いっスけどね。でも、静かすぎて不気味に感じるっス…」


楽観的なことを言ったマコリアだが、僅かに曇った表情を浮かべていた。


「ああ。こうも静かで、順調に進んでいると――」


イアンがそう呟いた瞬間――


ゴゴゴゴゴゴ…


坑道の中が大きく揺れ始めた。


「これは…‥崩落です! 入口に引き返しましょう! 」


ロシが、坑道の揺れを崩落の前兆であると判断した。

イアン達、三人は入口に向かって走り出す。


「ひぃー! 坑道が崩れるなんて、ツイてないっス! 」


マコリアが泣き言を言いながら走る。


「ええ、本当にツイていません。もし、道が塞がれてしまえば、迂回する道を探さなければいけません」


「ああ。しかし、今は崩落に巻き込まれないことを考えよう…」


ゴゴゴゴゴ…


三人が入口に引き返ている間も、坑道は揺れ続ける。

その時――


ドドドッ!


坑道の地面が崩れ落ちた。


「む!? しまった! 」


三人の中の最後尾を走っていたイアンが、崩落した地面と共に落下する。


「イアン先輩!? 」


「イアンさん 」


イアンが落下したことに気づき、マコリアとロシが足を止める。


「行け! そこに留まれば、おまえ達も巻き込まれるぞ! 」


イアンは、二人を巻き込ませないためにも、そう叫んだ。

そして、落下する最中、顔を庇いながら、上を見る。

視界に映るのは、落下する幾つもの大小様々な岩であった。


(サラファイアで、上昇するのは危険だな…ここは、今しばらく落ちていよう)


イアンは、脱出することを一旦諦め、視線を下に向ける。

しばらくすると、崩落した穴の終着地点、地面が見えてきた。

イアンはそれを確認すると、地面と平行になるように体勢を変え――


「サラファイア! 」


両の足下から、炎を噴射させた。

噴射させた炎お推進力により、イアンはほぼ真横に飛んでいき――


ザザザ…


やがて、足を地面に擦りつけながら、着地した。


ドドドドドドッ!


その時、地面を僅かに揺さぶりながら、連続した轟音が鳴り響く。

それは、イアンと共に落下してきた幾つもの岩が落下して、発生したものである。

もし、イアンがサラファイアを落下の衝撃を緩めるためだけに、使っていたら、それらの岩に潰されていただろう。

イアンは、落下する岩の回避と同時に、着地行動をしたのだ。


「ふぅ、危なかった。それで……坑道の下に、広い空間があるとはな…」


イアンは、自分の周囲を見回しながら、そう呟いた。

今、彼のいる場所は、天井が高く、壁からその反対側の壁までの距離がとてつもなく広い。

見回してみたところ、大きなドーム状の空間のようであった。

所々、坂のような道もあり、別の場所に繋がっていそうな穴もいくつかあった。


「……ここから脱出するのは、骨が折れそうだな…」


げんなりとしつつ、イアンは歩き始める。

その時――


「ゴロゴロ…」


多くの穴の一つから、何かが転がってきた。

それは、坂を下り、イアンの元に向かって転がってくる。


「な、なんだ? 」


イアンは、それに戸惑いつつ、正体が何であるかを掴むため、注視した。

その謎の何かは、人の形をしていた。

イオやプレト等のような年齢の低い少女の姿である。

その少女は、ツバの短い帽子を被っており、長袖の服と長い裾のズボンを身につけている。

帽子と服とズボンは、全体的に茶色だが柄があり、様々な茶色の色がある。

まるで、岩肌を帽子や服にしたようだった。


「ゴロッ! 」


少女は、イアンの目の前まで転がってくると、姿勢よく立ち上がった。

真っ直ぐ立つ彼女の髪は、明るい茶色で長い髪を一つに結っており、瞳も同じ色である。

幼い顔立ちだが、目は鋭い。

少女は、肘を曲げ、手の先の自分の額に向けるように右手を上げている。

その体勢のまま――


「ゴロッ! ゴロゴロゴロゴロゴーロゴーロゴロ! 」


何事かを言い放った。


「む? む? なんだ? 何を言っている? 」


当然、イアンは少女の言葉が分からい。


「ゴロッ!? ゴロゴロ…‥ゴロゴロゴーロ! 」


少女は、驚愕した様子で、また何事かを口にした。

その少女を見て、イアンは――


(……通じると思っていた? 口でモノが伝わらない……もしや…)


と思い、少女に目を向けたまま――


(聞こえるか? )


と、頭の中で声を出した。


「ゴロッ!? 」


すると、少女は、驚いた表情を浮かべる。


(聞こえるな。その話し方はやめて、こっちにしろ)


(はっ! 御意であります! )


イアンの通信に、少女は再び姿勢を正しながら、通信を返した。


(…‥変な喋り方だな…)


少女の声を聞き、イアンは素直にそう思った。


(なっ……やはり、自分の言葉は変でしたか。口で喋るのは難しいであります…)


(口? いや、そっちじゃ……いや、どっちもおかしい)


(なんと!? しかし、この念話においては、この喋り方でいきます! 自分は、この喋り方を気にいっているであります! )


少女は大きな声を通信で飛ばしながら、再び姿勢を正す。

一挙一動が、ビシッとしたものである。


(分かったから、あまりでかい声を飛ばすな。それで、だいたい察しているが、おまえは妖精だな? )


(はっ! 自分は、この山に住む妖精と呼ばれる種族の者であります! 残念ながら、名前は無く、名乗ることはできませんが、自分が軍曹(ぐんそう)であることは分かります! )


少女は、姿勢を正した状態で、イアンにそう通信を送った。


(……グンソウ? )


イアンは、少女の言葉が分からず、首を傾げた。

故に、それが何であるか訊ねることにした。


(グンソウとは、何だ? どういう意味だ? )


(どういう……はっ! 自分も分かりません! )


少女は堂々と、そう言った。


「……はぁ…」


(……はぁ…)


あまりにも意味が分からないため、イアンは、口と心の中で同時にため息をついた。




そろそろイアンのパワーアップの時期か…


2016年11月16日――脱字修正

ロシは、最近知ってもおかしくないっスよ → ロシさんは、最近知ってもおかしくないっスよ

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