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精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
一章 冒険者イアン
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二十二話 ファトム山 4

「はあ! 」


ガゼルは、襲いかかる魔物を剣で切り裂く。


「ギャア―! 」


切り裂かれた魔物は、断末魔の声を上げ、動かなくなった。

ガゼルの周りには同じ魔物の死体が、大量に転がっていた。


「だいぶ倒しましたが、まだまだ沢山いますね…」


ガゼルは、魔物の大群に剣を向ける。


「…小僧! 魔法はどうした! 」


ガゼルの後方で、魔物を剣で切り刻みながら中年冒険者が怒鳴ってくる。

彼の剣で、魔物は次々と倒れていくが、一向に数が減っていく気配が無い。

むしろ、体力が減っていく一方であった。


「魔力が底を尽きました。剣で戦います! 」


ガゼルは、背後の馬車に乗るタトウに、近づく魔物がいないか注意しながら答える。

今の彼らの立ち位置は、馬車を中心にしてガゼルが前方、中年冒険者が右後ろ、ロロットが左後ろである。


「わかった! 絶対に取りこぼすなよ! …小娘! そっちはどうだ!」



中年冒険者は、ガゼルに言葉を返すとロロットに声を掛けた。


「……」


しかし、ロロットは向かってくる魔物を槍で薙ぎ倒すばかりで、中年冒険者に答えない。


「ちっ! 」


中年冒険者は、舌打ちをすると、魔物との戦いに集中することにした。


「すみません……私の我儘のせいでこのような…」


タトウが、何度目かの謝罪を口にする。


「こうなっては仕方ありません。気にしないでください」


ガゼルは、タトウに言葉を返した。


「すみません…」


頭を垂れるタトウの懐に、紫色の宝石があった。





――数刻前。


ガゼル達は、ファトム山の中腹を越えた辺りを歩いていた。

険しい山道であるが、タトウの乗る馬車にはほとんど影響は無く、順調に進むことだできた。


「やっぱり、ふもとで野宿したほうが良かったのでは? 」


ガゼルは、前方にいる中年冒険者に訊ねた。


「……ふもとに留まる理由があるか? 俺たちは依頼人を守るためにこの山を一刻も早く越えなきゃならねぇ。いい加減にしろよ…」


「……」


ガゼルは何も答えれなかった。


 ルガ大森林を抜けたガゼル、タトウ、ロロットは、ファトム山のふもとに来ると、後からくるだろうイアン達を待った。

やがて、中年冒険者が現れた。残りのイアンとプリュディスもや来る、そうガゼルは思っていた。

しかし、中年冒険者の口から信じられない言葉がでた。


「あいつらは、魔物のハサミで真っ二つになった。助けるのは不可能だった…」


その言葉に、タトウは目を伏せ、ロロットは呆然と立ち尽くしていた。

以来、ロロットの口は閉ざされ続けることとなる。

そしてガゼルはその言葉が信じられなかった。

ガゼルは、見間違い等を指摘するが、中年冒険者は聞く耳持たなかった。

その後、中年冒険者がファトム山に登るのを提案し、それに従った。


こうして今に至るのだが、未だにガゼルはイアン達が生きているのではないかと思っていた。

イアンは何かしらの力を持っている。ガゼルはそう考えいるからだ。

その時、タトウの馬車が止まりだした。


「むっ? あれはもしや…」


止まった馬車からタトウは身を乗り出した。


「…やはり、間違いない! 」


そう呟くと、馬車から降りて走り出した。


「タトウさん、危険です! 離れないでください! 」


ガゼルがタトウの後を追いかける。

タトウは何かを大事そうに両手で拾うと、それを掲げて見つめていた。

それは、紫色をした拳大の宝石だった。


「タトウさん、それは……? 」


「この山に来て良かった…これで私の名も……」


タトウは、ガゼルの言葉が聞こえていない様子で、ブツブツと何事か呟いていた。

その時、宝石が急に光りだした。


「うぅっ!? 」


「くっ!? 」


二人は、光に目が眩み呻いた。

宝石の光が止み、自分の体に異変があるか確かめる。

異常は無かった。

頭を傾げ疑問に思っていると、中年冒険者が必死の形相でこちらに走ってきた。


「そこで何してんだ! 急げ、魔物の大群がこっちに向かってきやがる」


「なっ!? い…いえ、今は逃げることだけを考えましょう。タトウさん! 急いで馬車へ! 」


「はっ…はい! 」


タトウは、宝石を懐へしまうと馬車に向かって走りだす。

イアンもそれに続いて走り出した。




――現在。


魔物達は、ジリジリとガゼルとの距離を詰めていく。


「はぁ…はぁ…」


向かってくる魔物を迎撃し続けていたガゼル。疲労の色は確実に濃くなっていた。

ガゼルの魔力も残り少なく、せいぜい火炎球を一発放つのが精一杯だろう。

ガゼルは、残り一発を突破口を開くために放とうと考えた。

剣を持たない左手をつき出し、魔物の大群に向ける。

しかし、ガゼルは躊躇(ためら)った。

ガゼルの炎魔法によって、仲間達が焼き殺されるのを見ていたはずの、魔物達は嫌がるどころかむしろ、打ってくださいと言わんばかりに近づいてきた。

魔物達は、察しているのだ。ガゼルの魔力が残り少ないことに。

そして、ガゼルが魔法を放った瞬間、一斉に襲いかかるつもりなのだ。

万事休す。ガゼルは突き出した左手を下ろそうとした。


「いや…まだ……」


下ろそうとした左手を途中で止めた。

まだ残された可能性があった。

ここにいる者達に否定され、諦められた可能性ではあるが、ガゼルだけは信じていた。

ガゼルは、止まっていた左手を上げ始める。


カラン!


右手に持っていた剣を離し、右手も同じように上げ始めた。

それと同時に残りの少ない魔力を練り上げる。

ガゼルの体が、赤色の淡い光に包まれた。


「……まだ、終わってない。僕たちも…そして! 」


ガゼルは、一気に両手を持ち上げた。


「イアンさんも!! 」


ゴウッ!!


ガゼルの左手から、ありったけの魔力を振り絞って放たれた火炎球は、魔物の大群には向かわず、遥か上空に向かって飛んでいった。

ガゼルが突き出した両手は、上空を向いていた。

魔物達も中年冒険者達もその行動の意図が分からず、誰もがガゼルを見つめたまま唖然としていた。

しかし、この中にガゼルの思いを感じ取っとり、奮起(ふんき)する者がいた。


「アニキ!! 」


ロロットだ。

彼女は今まで、中年冒険者からイアンの死を告げられて(ふさ)ぎ込んでいた。

イアンを守れなかったことと、この世で唯一信頼できる人がいなくなった悲しみにより、生きる活力を失っていたのだ。

しかし、イアンの名を叫びながら魔法を放つガゼルを見て、ロロットは目を覚ました。

そして、今まで塞ぎ込んでいた自分に腹が立った。

イアンの死を告げられてもなお、イアンの生存を信じ続けていたガゼルに対して自分はどうだと。


「アニキよりも他人の言葉を信じて、しょぼくれていたなんて… 」


今、ロロットは決意した。どんなことがあってもイアンを信じると。

その様子を見ていたガゼルは、ロロットが立ち直ったと安心した。


「イアンさんはきっと来てくれます。僕たちも頑張りましょう!」


「うん! 」


ガゼルとロロットは、魔物達に向けて武器を構える。

魔物達は、急に活力に満ちた顔になった彼らにひるんでいた。


「ギャア―!? 」


「グァ―!? 」


馬車の後方の魔物たちに異変が起こり始めた。

次々と魔物の断末魔が聞こえてきたのだ。


「なっ…なんだ? 何が起こっていやがる! 」


中年冒険者が狼狽(うろた)える。

次の瞬間、彼はとてつもない光景を目にし、唖然とすることになる。


パリッ! ズドォォォォン!!!!


大群の一帯に雷が落ち、そこにいた魔物が弾け飛んだのだ。

地面は砕かれ、砂塵が舞い上がる。

すると、立ち込める砂塵に、二人の人影が浮き上がってきた。


「ちょ…イアン! 何かするときは、やる前にちゃんと言うって約束したべ!! 」


「ゲッホ! 違う…オレは何も命令してない。あいつの独断だ。だが……」


二人の人影は、砂塵を抜け姿を現した。


「今ので辿り着くことができた」


「そうだべな。さっきのは許してやるべ」


そこには、イアンとプリュディスの二人が、武器を構えて立っていた。














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