十八話 ルガ大森林 3
「うわああああああ!! 死にたくないべえええええええ!! 」
ルガ大森林に、プリュディスの絶叫が木霊する。
大剣で必死に、閉じるハサミを押し返そうとするが、閉じいく一方だ。
大剣で守りきれないプリュディスの背中は、鎧を来ているものの、ミシミシと音を上げ、形を歪ませていく。
「ビクともしないべえええええ!! 助けてくれええええええ!! 」
プリュディスは喚き続ける。
先程まで、プリュディスと共に挟まれていたイアンは、そこにはもういない。
「早く助けてくれえええええ!! イアアアアアアアアアン!! 」
――数分前。
「で、何を思いついたべ? 」
プリュディスは、策を思いついたと言うイアンに訊ねた。
「ハンマーで叩く」
「そのハンマーは? 」
「木で作る」
「ここからどうやって抜けるべ? 」
「……」
「……」
両者に沈黙が訪れる。
ギリギリギリギリ…
二人が沈黙した後、急激にハサミが閉じる勢いが強くなった。
「あああああ!! なんでそこは考えてないんだべ! 」
「ぐっ…盲点だった。……ああ、思いついた」
「なんだべ? 早く言うべ! 」
「このハサミを押し返す。すると、隙間ができて脱出できる」
「わかったべ。せーのでいくべ! 」
「「せーの! 」」
二人が、同時に力を振り絞り、閉じるハサミを押し返す。
徐々に、ハサミが開いていく。
「今だ」
「えっ? まだだべよ? 」
呆気にとられるプリュディスを無視するイアン。
そして、イアンは、戦斧を前に倒してつっかえ棒を作ると、魔物のハサミからスルッと抜け出した。
ガキン!
イアンが地面に着地した瞬間、つっかえ棒にしてた戦斧は、ハサミの力に耐え切れず、弾け飛ぶ。
バキッ!
「ぐっふ!? 」
再びプリュディスが挟まれた。
幸いプリュディスは、鎧を着ていたので、イアンがいなくなった背中は守ることができた。
「ふぅ…なんとか脱出できた」
「まだオラができてないべよ! 」
プリュディスが叫ぶ。
「いや、オレだけでいい。というか、プリュはそうしてくれ」
いつもの平坦な声でイアンは答えた。
「ええ!? なんでだべ。オラも早くここから出たいべ」
「魔物は今、お前に夢中だ。見ろ、オレなんか見向きもしない」
魔物は、イアンが脱出したにも関わらず、じっとプリュディスを挟み続けている。
「囮じゃねえべか!そんなこと聞いてないべええええええ!! 」
プリュディスが喚く。
「言ってなかったか? まあ、そんな感じで泣き叫んで魔物を楽しませとけ。じゃあ行ってくる」
イアンはそう言うと、木々の中に消えていった。
木々の中を進んでいたイアンは、目的の場所へ辿り着く。
そこには、人間の大人が両手を広げたほどの太さの大木が生えていた。
「距離、高さ、材質、枝の位置…完璧だ。これならいいハンマーが作れる」
大木を見上げながら満足げに頷く。
「切る前に邪魔な枝と、使わない枝を払っておくか」
――現在。
バキバキバキ…
プリュディスの鎧の砕ける音が聞こえた。
そろそろ限界である。
「ああ…もう……限界だべ…」
プリュディスが目を瞑り、剣に入れていた力を弱めた。
その瞬間――
パキ…バキバキバキバキバキ――
プリュディスが鎧ごと潰される音――ではなかった。
その音は、遠くから聞こえてきたが、だんだん近づいて来る。
ズドォォォォン!
音を立てて、大木は倒れた。
プリュディスが目を開けると、いつの間にか魔物の拘束は解かれ、地面に倒れふしていた。
「何があったべか? 」
状況を確認しようと辺りを見渡し、唖然とする。
魔物が大木の下敷きになっていたのだ。
しかし、それだけでは無かった。
「刺さってるべ……枝が頭に刺さってるべ!!」
大木の太い枝が、魔物の頭に刺さっていた。
すると、プリュディスの耳に声が聞こえてきた。
「倒れるぞー。ん? 鎧が砕かれたのか。大丈夫か? 」
「おめぇ、色々と遅いべ!! 」
プリュディスはそう言うと、イアンにゲンコツを喰らわせた。
「痛い。魔物は倒せた。文句はないだろ」
「ないわけないべ!! 今はそんな事を言ってる場合じゃないべ」
プリュディスが魔物に指を差す。
魔物がジタバタとのたうち回っていた。
「しぶといな…」
「発想は凄いけど、爪が甘いべ。斧を借りるべ」
プリュディスは、地面に落ちていた戦斧を拾うと、斧の刃を逆さまにして大木を打ち付けた。
バキッ!
魔物の甲殻が割れる音がした。
「ほれ、まだ浅いべ。もっと打ち付けるべよ」
振りかぶろうとしたプリュディスの肩を、イアンが掴んだ。
「斧で叩くな!! ハンマー作ったからこっちを使え!! 」
激昂するイアン。
手には、作ったばかりの大きな木槌が握られていた。
市場で売られているもののように、精巧にできていた。
「おめぇ、これ作ってて遅かったべか!! 」
「いや、材質が良くてだな」
イアンが頭を掻く。
「後でまとめて文句は言うべ。先にこいつの止めを刺すべ」
「じゃあ、オレから行くぞ。はい」
木槌を大木に叩きつける。
「おお! 中々うめぇな! はい!」
「はい」
「はい!」
イアンとプリュディスが交互に木槌を振り下ろす。
バキッ! バキッ! バキッ! バキ! ズボォ!!
ついに、大木の枝が、魔物の頭を突き破った。
魔物は、徐々に動きが鈍くなり、ピクピクと足を痙攣させるだけになった。
「はぁ~疲れたべぇ…」
「ああ、プリュディスのおかげで倒すことができた。ありがとう」
「はあ…何かもうどうでもいいべぇ」
プリュディスは、そう言うと仰向けに倒れた。