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精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
七章 多様の使い手
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百七十四話 襲来! 砦に現れた黒い要塞

 時は、アントワーヌとルロルがゾーオント砦を後にして数十分後に遡る。

その時、プレトは本隊の指揮をする者としての仕事を終え、体を休めるために、自分の部屋へ帰る途中であった。


「プレト様ーっ! 」


砦の廊下を歩く彼女の元に一人の騎士がやってくる。

その騎士の慌ただしい様子に、プレトは顔をしかめながら振り返った。


「どうした? 騒々しい」


「見張りの者が、こちらに向かってくる重騎兵の影を見つけました。ノブサル領方向からです! 」


「なに!? 」


騎士の言葉を聞くと、プレトは慌てて廊下を走り出した。

プレトが向かったのは、塀の北門の上部であった。


「敵はどこだ! 」


「あそこです! 真っ直ぐ、こちらに向かってきます! 」


騎士が北門の上から、北の方向へ指を差す。

プレトがその方向に目を向けると、全身を黒い鎧に身を包んだ重騎兵が馬に乗ってこちらに向かっていた。


「な、なんだあの武器は……」


その重騎兵が持つ武器らしき物を目にしたプレトは、目を見開いた。

重騎兵は、鎧と同じ黒い色の大盾と、白色の巨大な柱のような物を持っていた。

柱のような物は、丸太のように太く、重騎兵はそれを脇に抱えるように持っている。

その柱のような物の先端には、大きな穴があいており、プレトを始めカレッドの騎士達は、その柱のような物が何の武器であるかが分からなかった。


「下に騎士達を集めておけ! 」


「はっ! 」


騎士に命令した後、プレトは下の重騎兵に目を向け――


「止まれーっ! 」


重騎士に向かって声を上げた。


「……! 」


その声に反応し、重騎士は馬の足を止める。


「マルゼス殿の身柄は我々が預かっている。返して欲しくば、降伏せよと、貴様等の領主に伝えに行け! 」


「……」


重騎士は何も答えることはなかった。

その重騎士はプレトの顔を見ているのだろうが、兜をつけているため、どんな表情をしているか分からない。


「ちっ……聞こえていないのか……ん? 」


プレトは、馬に乗る重騎兵の後ろに何かが乗せられているのに気がついた。

重騎兵はプレトがその何かに気づいたのを感づいたかのように、それを振り落とす。


「あれは……人……あ…な、なんだと!? 」


プレトは、重騎兵が振り落としたものがなんであるかが分かり、驚きの声を上げる。


「あれは、姉上が送ったカレッドの使者! なんてことを……その使者から何も聞かされていないのか! 」


プレトが重騎兵に向かって、そう訴えるが、これが答えだと言わんばかりに再び馬を走らせる。


「あいつ、門に突撃するつもりか! 」


バァン!!


プレトのその言葉通り、重騎兵は北門に激突した。


ガシャアン!!


そればかりか、重騎兵は門を突き破り、塀の中に入ってしまった。


「なんて奴だ! 門を破壊しただと!? 止めろーっ! 早くそいつを止めるのだ! 」


プレトが北門の上部から、下に集まっていた騎士達にそう呼びかける。


「「「うおおおおおっ! 」」」


彼女の呼びかけに答え、騎士達が重騎兵に向かっていく。

しかし――


「うわああああ!! 」


「ぐあああああ!! 」


重騎兵の柱のような武器で、まとめて薙ぎ払われてしまう。


ガッ!


「ぐぅ…なかなかやりおるわ」


中には、重騎兵の攻撃に耐えた騎士がいた。


「カレッドの騎士を舐めるなよ! 」


その騎士は重騎兵に必殺の一撃を与えるべく、馬上の重騎兵に向かって飛び上がった。


「覚悟! 」


ガンッ!


騎士の一撃は、重騎兵の大盾に阻まれてしまった。


「ちぃ! 」


騎士は大盾を蹴り上げ、体勢を立て直すために、後方へ大きく飛ぶが――


「なにっ! 」


重騎兵は飛び上がった騎士の元へ馬を走らせ、騎士に目掛けて柱のような武器を叩きつけた。


「があっ! 」


騎士は柱のような武器に潰されてしまう。


「くっ、カレッドの騎士達がまるで歯が立たない。ならば…」


プレトはそう言うと槍を取り出した後、北門の上から跳躍し――


「はああああっ! 飛翔螺旋突(ひしょうらせんとつ)! 」


槍を前に構えたまま体を回転させて落下した。

回転により、速度を上げながらプレトは重騎兵に目掛けて突撃する。


「……! 」


重騎兵は突撃するプレトに気づき、彼女に向けて大盾を構える。


ガッ!


「ちっ! 」


大盾に突撃を防がれ、プレトは重騎兵の横を通過し、地面に着地する。


「その武勇と珍妙な武器を見るに、貴様はただのノブサルの騎士ではないな。拙者は、カレッド領 領主の妹…プレト・オルヤール。貴様も名を名乗れ! 」


プレトはそう言いながら、槍の矛先を重騎兵に向ける。


「……サミール……サミール・ダラー……」


すると、重騎兵はそう答えた。


「なに、サミール……な、なんだと!? 領主が単騎で砦に攻めに来たというのか!? 」


重騎兵の口にした名を耳にし、プレトは驚愕した。

彼女が驚くのも無理はない、目の前の重騎士は敵対する領地の領主であるサミール・ダラーであり、部下を引き連れず単騎でここにやってきているのだ。


「こ、答えろ! 一人で何をしにきたのだ! 」


「……マルゼスを連れ戻しに来た…」


プレトの問いに、サミールはそう答えた。


「なに!? あまり言いたくない台詞だが、マルゼスを返して欲しくば、降伏しろ! 」


「……それはさっき聞いた…」


「……! やはり、使者から話しを聞いていたのか。ならば、何故攻めに来る!? 降伏しなければ、マルゼスの命の保証はないぞ! 」


「……」


プレトがサミールに向けて、そう訴えると、彼は空を見上げ出した。


「……マルゼスは言っていた……あたし以外の者の言葉を信じるな……と……」


サミールはそう呟いた後、プレトに顔を向け直した。


「……だから、おれはお前達の言葉を信じない……マルゼスは、おれが救う…」


サミールは柱のような武器の先をプレトに向けた。


「くっ、話しを聞かん奴め……」


プレトは、槍を握る手に力を入れ、サミール(強敵)との戦いに備えた。



 プレトがサミールと戦い始めてから数十分の時が経つ。

サミールは未だに馬上で柱のような武器を構えており、疲労の様子は見られなかった。

一方のプレトは――


「はぁ……はぁ……」


サミールとは対照的に、息も絶え絶えの様子であった。

幾度もサミールに攻撃を仕掛けたプレトだが、彼の身に付ける鎧と彼の持つ大盾により、全て防がれてしまい、彼の重い一撃を受け続け、彼女の体は限界を迎えようとしていた。


「はぁ…はぁ……くそっ! 腕が……」


彼女は左手で槍を持ち、右手はダラリと下がっていた。

サミールの攻撃によって、右腕の骨を折られてしまったのである。


「……ここまでか…」


この状態でサミールに勝てるはずもなく、プレトは地面に座り込んでしまう。


「……終わったな…」


サミールはそう呟くと、プレトの元へ馬を歩かせる。


「……マルゼスはどこだ? 」


「この砦のどこかにいる……とだけ言っておく…」


「……そうか……マルゼスとの約束に反するが……その言葉を信じよう…」


サミールは柱のような武器を振り上げ、プレト目掛けて振り下ろし始めた。


「……!? 」


しかし、サミールは柱のような武器を振り下ろすのをやめ、大盾を前に構える。


ガンッ! ガンッ!


サミールの構えた大盾に、二つの衝撃が走る。


「狙い通りの方向に飛んだのだがな…」


プレトは、後ろからそんな呟きを聞いた。

振り向くとそこには――


「イアン殿! ラノアニクス! 」


イアンとラノアニクスの姿があった。

サミールの大盾に当たったのは二丁のショートホークであり、イアンが投擲したものであった。


「グゥ、気持ちよく寝てたのに、おまえのところの騎士に叩き起こされた! 」


無理やり起こされたようで、ラノアニクスは不機嫌な様子であった。


「今は非常事態だ。仕方あるまい。プレト、あとはオレ達に任せておけ」


イアンはそう言うと、プレトの前に立つ。

ラノアニクスはイアンの隣に立つ。


「くっ……悔しいが、その言葉に甘えさせてもらおう。気をつけろ、奴は強いぞ」


「強い奴とは何度も戦っている。今回も何とかしよう」


「ふっ、頼もしいな……すまない、後は任せた…」


プレトはイアンにそう言うと、よろめきながら後方へ下がる。


「……お前が……次の相手か…? 」


「いや、オレとラノアニクスで相手をさせてもらう。強いと聞いたのでな」


サミールの問いに、イアンはそう答えた。


「……いいだろう……まとめて相手をしてやる……かかってこい……」


サミールは柱のような武器を大盾を構え直した。


「行くぞ、ラノアニクス」


「ギャウ! 任せろ」


イアンとラノアニクスは同時に走り出した。


「ギャオ! 」


すると、ラノアニクスは跳躍し、サミール目掛けて飛んでいく。

一方のイアンは戦斧を右手で握り締めたまま、サミールに向かって走り続ける。


「……挟撃…」


サミールが一言だけ呟いた。

イアンとラノアニクスは上と下で、挟撃をサミールに仕掛けようとしていた。

サミールはそのことに気づいたのだが、何の動きも見せなかった。


「ギャアウ! 」


「ふっ! 」


サミールに向けて、ラノアニクスが爪を振り下ろし、イアンが戦斧を横凪に振るう。


「ヒヒーン! 」


その直後、サミールの乗る馬が鳴き声を上げながら、前足を大きく持ち上げた。


「なにっ!? 」


馬を狙っていたイアンだが、前足が上がると同時に馬の体も上がってしまったため、彼の振るった戦斧は空を切り裂くのみに終わった。


「グッ……」


一方のラノアニクスは、馬の鳴き声に怯んでしまい――


ブゥン!


「グゥゥゥ! 」


その隙に、サミールの振るった柱のような武器に弾き飛ばされてしまった。


「ラノアニクス! 」


イアンは、弾き飛ばされたラノアニクスの身を案じるが、その間にサミールの乗る馬は方向転換し、自分の体の後方をイアンに向けると――


「ヒヒーン! 」


後ろ足で思い切りイアンを蹴り飛ばした。


「ぐっ……う……あっ! 」


イアンは咄嗟に戦斧で防御したが、馬の蹴りの衝撃は凄まじく、意識が遠のいてしまい、ゴロゴロと地面を転がっていく。


「……くっ……ダメだな。真っ直ぐ向かっていくだけでは、あいつには……」


イアンが体を起こし、顔を上げると、こちらに馬を走らせるサミールの姿が目に入った。


「追撃か! 」


イアンは慌てて、横へ飛んだ。

その行動により、サミールの突進を躱すことができた。


「はっ! 」


回避行動から体勢を立て直した後、イアンは高く跳躍した。

それと同時にサミールは馬を方向転換し、再びイアンに突進を仕掛けようとしていた。


「馬から降りてもらう。サラファイア! 」


イアンは両の足下から炎を噴射させ、凄まじい勢いで馬上のサミール目掛けて飛んでいく。

サミールに迫る瞬間、イアンは戦斧を振るったが――


ガッ!


サミールの大盾に防がれてしまう。

しかし、イアンの攻撃はまだ終わらなかった。

イアンは大盾を蹴り上げ、身を翻しながら、後方へ跳躍し――


「サラファイア! 」


再び、両の足下から炎を噴射させ、サミールの大盾に戦斧をぶつけた。


「…ぐぅ……」


サラファイアによる凄まじい突撃を二回も受け、流石のサミールも馬上から体を浮かせ、地面へと落下した。


「よし、奴の機動力を潰した。これで幾分か楽になるはずだ」


「ギャウ! イアン、よくやった」


地面に着地したイアンの元にラノアニクスがやって来た。


「来たか、ラノアニクス。オレのショートホークを拾ってきたか」


イアンがラノアニクスに目を向けると、彼女の左右の手にはショートホークが握られていた。


「ラノ、イアンのこれ気に入っている。使っていいか? 」


「ああ……構わない。そのショートホークで奴を叩きまくれ」


「分かった! 」


ラノアニクスは元気よくイアンに返事をすると、サミールに向かって走り出した。

イアンは左手でホルダーからもう一丁の戦斧を取り出し、ラノアニクスに続いて走り出す。


「……」


サミールは落馬した状態から立ち直り、イアンとラノアニクスの攻撃に備えて大盾を構える。


「ギャウ! 」


ラノアニクスがサミールの大盾にショートホークを叩きつける。


「ふっ! 」


その後、一瞬の間を開けず、イアンがサミールの側面から戦斧を叩きつける。


「……ぐっ…」


鎧を着ているものの、戦斧の衝撃を受け、サミールが僅かによろめいた。


ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ!


そして、イアンの戦斧とラノアニクスのショートホークが交互にサミールの鎧や大盾を殴り続ける。

大盾と頑強な鎧により、防御力の高いサミールに対し、イアンとラノアニクスは斧による殴打の嵐を繰り出したのだ。

効果覿面(こうかてきめん)であり、サミールは防戦一方のまま殴られ続ける。

サミールは崩れ落ちることなく立ち続けているが、彼の鎧や大盾には多数のへこみが出来ていた。

このまま殴り続ければ、そのうちサミールは崩れ落ちるかに思われたが――


「……う…うおおおおおお!! 」


それが叶うことはなく、サミールの振り回した柱のようなものにイアンとラノアニクスは弾き飛ばされてしまった。


「もう少しだと思ったのだがな…」


「ギャオ! 余裕だ、イアン。あいつはもう、力が無い」


攻撃を中断されたイアンとラノアニクスはちっとも悔しがってはいなかった。


「はぁ……はぁ……」


なぜなら、もうサミールは満身創痍の状態であったからだ。


「……ここまでやられたのは初めてだ……奴らは強い……」


ガシャン!


サミールはそう呟くと、べこべこにへこんだ大盾を捨て、空いた手で何かを取り出した。

それは、一枚の紙切れのように見えた。


「……今日は二回、おまえとの約束を破ることになるな……マルゼス……」


カシャ!


サミールは、柱のような武器の一部を開いた。


「なんだ? 何をするつもりだ? 」


イアンは、サミールの行動を理解できず、ただ彼の行動を見ているだけであった。

サミールは、紙切れのようなものを柱の開いた部分に近づけ――


シャ!


紙切れを擦りつけるように、腕を引いた。


[チェンジ・グレートランチャー! ]


その瞬間、謎の音声と共に柱の形状を変化させ始めた。

様々な部品に分解した後、柱のような武器は、白銀に輝く大筒に変化していた。


「武器が変化しただと!? まさか、アントワーヌの盾と同じものなのか! 」


その柱の変わりようは、武器を出すアントワーヌの盾と似たようなものであったため、イアンは驚愕の表情を浮かべた。


「……喰らえ…」


カッ!


サミールがそう呟くと同時に、大筒の穴が白く輝いた。


ドォォォン!!


その直後、イアンとラノアニクスのいた場所は、落雷のような轟音を轟かせながら爆発した。

爆発を受けた二人は為すすべもなく、吹き飛ばされてしまった。


「ぐっ……ううっ…」


「グゥ……い、痛い……」


二人は一命を取り留めたものの、強い衝撃を受け、体を動かすことは叶わなかった。


「……これは最強の武器……誰もこいつには敵わない…」


吹き飛んだ二人を遠くで見つめ、サミールはそう呟いた。


「…………もう……おれの邪魔をする者はいなくなったか…」


サミールが周りを見回すと、地面に立つ人物の姿は見当たらなかった。

彼は大筒を抱えながら、前に進み出す。


「……マルゼスを探すとしよう…………お前達を倒した後にな…」


前に歩き出していたサミールが足を止め、後ろに体を向けた。


「随分大暴れをしているじゃないか、サミール殿」


そこには、からかうようにサミールへ声を掛けたアントワーヌと、ルロルの姿があった。




2017年 4月2日 誤字修正

ラノアニクスがサミールの大建にショートホークを叩きつける。 → ラノアニクスがサミールの大盾にショートホークを叩きつける。

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