十六話 ルガ大森林 1
――朝。
起きたイアンは、隣のベッドで寝ているロロットを起こし、朝食を取るため一階に降りた。
そこには、先に朝食を食べているプリュディスの姿があった。ヘルムは外している。
イアンとロロットは、女性店主に朝食を頼み、プリュディスの座る席に着いた。
「イアンにロロットでねぇか」
「プリュディス……プリュだったか。朝早いな」
「おはよう! おじさん 」
イアン、ロロットがプリュディスに挨拶をした。
「まだ二十歳だべ! 」
プリュディスがロロットに抗議する。
「じゃあ、おっちゃん! 」
「それならいいべ」
「いいのか…」
他愛ない会話をする三人。
イアンは、この場にいない人物の存在に気づく。
「ガゼルはまだか…」
「金髪の坊やなら先に出てったよ。早朝から開いてる武器屋が無いか聞いてきたわ」
女性店主がそう言いながら、料理を運んできた。
「武器屋か。戦斧の予備があったほうがいいか。ロロットもいつまでも、木の棒じゃなくて、槍のほうがいいだろ? 」
「うん!」
「この時間ならギルドの目の前にある武器屋が開いてるよ」
女性亭主は、奥の厨房に戻っていった。
「ふぅ…ご馳走さん。オラは、北門に行ってるべ」
「ああ、北門で会おう」
プリュディスは、宿屋を後にした。
朝食を食べ終えたイアンとロロットは、女性亭主が言った武器屋へ向かった。
そこで、イアンは予備の戦斧を、ロロットは槍を買った。
イアンの買った戦斧は、今まで使っていたものと同じような片手で扱える戦斧を選んだ。
一方、ロロットの買った槍は、柄の材質は木で、槍頭には、鉄製の刃が付いている。
戦斧が100Q、槍が500Qの値段であった。
イアン達の、全財産は800Qとなった。
「♪~」
やっと、まともな武器が貰えたことが嬉しいのか、ロロットのしっぽは、左右に揺れていた。
「……」
対して、イアンの表情は暗かった。
戦斧を使う冒険者は少なく、まったく売れないため、原価より半分以上安く売られていたのだ。
安くは買えたが、自分の使う武器に人気がないことを知り、落ち込むイアン。
そんな彼に武器屋は、斧を固定できるホルダーをサービスした。
イアンは、後ろの腰にそれを付けた。
ホルダーには、三つの斧が固定でき、イアンは二つの戦斧を固定した。
肩を落とすイアンと浮かれるロロットは、集合場所である北門へ向かった。
「おせぇぞ。おめぇら! 」
北門に着いたイアンとロロットに、中年冒険者が怒鳴る。
そこには中年冒険者の他に、馬車の上で馬の手綱を持つタトウ、ローブを羽織ったガゼル、ヘルムを被ったプリュディスの姿があった。
「悪い。武器屋に寄っていた」
「プリュディスさんから話は聞いてます。気にしないでください。皆さん、全員揃ったので出発しますよ」
タトウが、手綱を引いて馬を前に進ませる。
それに合わせて、イアン達は歩き出した。
――ルガ大森林。
ファトム山の東部から南西部にかけて広がる大森林である。
以前、イアンとロロットが薬草採取の依頼で来た場所は、大森林の南部だ。
南部には、ゴブリンを筆頭に弱い魔物が多く生息しており、大森林の中でも安全な領域だった。
しかし、大森林の方角を問わず、奥に行けば行くほどファトム山に近づき、強い魔物も多くなっていく。
ジャイアントラットと呼ばれる、人間の子供より一回り大きい魔物がイアンに向かってくる。
イアンは、横に飛んでそれを躱し、振り向くと同時に、戦斧を横薙ぎに振るった。
ジャイアントラットの側面は切り裂かれ、断末魔の声を上げて絶命した。
大森林の奥に入ったイアン達は、ジャイアントラットの群れと戦っていた。
ジャイアントラットの群れの一角に、一際大きいジャイアントラットがいた。
二メートル程の大きさのそれは、グレートラットと呼ばれる魔物だ。
グレートラットと戦っているのは、中年冒険者である。
Cランク冒険者である彼は、進んでグレートラットの相手を引き受けたのだ。
ロロットとプリュディスは、イアンと共に、ジャイアンラットの相手をし、ガゼルは馬車の前に立ち、タトウに近づくジャイアントラットを炎魔法で焼き払っていた。
「だあああああっぺ! 」
プリュディスが振りかぶった大剣を縦に振るう。
前にいたジャイアントラットは真っ二つになった。
今のが、最後の一匹のジャイアントラットだった。
「ふぅ…こっちは終わったべ」
「こっちも終わりだ」
プリュディスに言葉を返すと、中年冒険者は、振り下ろされたグレートラットの爪を剣で弾く。
爪を弾かれたグレートラットは、中年冒険者との打ち合いに疲れたのか、すぐに体勢を戻すことが出来なかった。
中年冒険者は、その隙を突いてグレートラットの懐に入ると、喉元に剣を突き刺した。
剣を抜くと、喉から大量の血が噴き出し、グレートラットは死んだ。
「他の魔物が来る前に先に進むぞ! 」
中年冒険者は、肩に背負った鞘に剣をしまった。
まだ、大森林の奥に入ったばかりである。