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精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
七章 多様の使い手
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百五十八話 生存者

ユニスとアントワーヌが城壁の門を出た頃。

イアンとラノアニクスは城下の町の宿屋にいた。

ユニス達が王城へ行っている間、イアン達は特にやることがないため、ずっと宿屋の部屋の中にいる。

今、イアンの部屋には彼とラノアニクスの二人がいる。


「グゥゥゥゥ…暇だ」


ラノアニクスは、床をゴロゴロと転がっていた。


「なら、もう寝ればいいだろう。もう外は暗いぞ」


イアンは部屋の窓の前に立ち、外の様子を伺う。

外は暗く、そこから見える家々の明かりも少なくなってきていた。

時は夜を迎え、さらには深夜になろうという時間が迫ってきているのだ。


「グゥ……じゃあ、もう寝る。おやすみ」


ラノアニクスは立ち上がると、イアンの部屋から出て行った。


「……しかし、遅いな…あいつら」


イアンは窓の外を眺める。

二人の姿が見えないか探そうとしたが、暗くてよく見えない。

外を見るのをやめ、イアンが窓から離れようとした時――


コン…コン…


部屋のドアが軽く叩かれた。


「お……帰ってきたか? 」


イアンがユニス達が帰ってきたと思い、ドアを開くと――


「……」


そこには、仮面をつけた騎士が立っていた。

部屋に誰かも分からない人物が訪れるという想定外の出来事に、イアンは思わず固まってしまう。


「……ユニスの部下……イアン・ソマフ…」


イアンが固まっていると、目の前の騎士がそう呟いた。

騎士が呟いた言葉を耳にし、イアンは我に返る。


「オレのことを知っているのか? というか、なんだお前……何なんだ…」


イアンは警戒し、後ろへ下がる。

仮面を付けている事と着ている服が騎士のものであるのは分かるが、その騎士の身長や体格等のあらゆる身体的特徴を判断することができない。

目の前の騎士は、あまりにも得体の知れない人物であった。


「……」


謎の騎士は何も言うことなく、イアンの視界から消えた。


「……? 何をしに来たのだ? 」


イアンは謎の騎士の行方を確かめるため、部屋の入口から、廊下を覗く。

すると、謎の騎士は階段の手前で、イアンの方に顔を向けたまま立っていた。


「む? 」


イアンが廊下に出ると、謎の騎士は階段を下りていく。


「……なんだ? 」


謎の騎士の行動に疑問を持ちながら、イアンは階段へ足を向ける。

下へ続く階段を見下ろすと、やはり謎の騎士は、イアンが来るのを待っていた。


「オレを誘導しているようだな……どうしようか…」


イアンはそう思いつつ、下の階に降りる。

ロビーに来たイアンは周りを見回す。

そこは、受付を行うカウンターがあり、従業員の姿はなく、静まり返っている。

謎の騎士の姿も見えず、イアンの目に入ったのは、半開きになった宿屋の入口の扉であった。


「外に行ったか……」


イアンは扉を開けて外に出る。

外に出たイアンが周りを見回すが、暗く何も見えなかった。


「……見失ったか。この暗さで、出歩くのは……む? 」


城下の通りを見回していたイアンの目に、仄かに輝く光が見えた。

その光は、イアンの視界の奥で輝いており、距離はだいぶ離れている。


「……奴の光だろうか。よく分からんが、ついていくか…」


イアンは、光を目指して歩き始めた。

ある程度の距離に近づくと、光は逃げるようにイアンから離れていく。

イアンが光を追い続けていると、光は通りの脇道へ向かい、建物と建物の間の道を進んでいくようになった。


「くっ、こんなところを通るのか」


暗く狭い道に苦戦しながら、イアンは光を追っていく。

同じような道を幾度となく進んだイアン。

彼は目の前で輝いていた光を見失い、足を止めた。


「……ここは、さっきの通り…か? 」


暗く視界が悪い状況であっても、イアンは自分の立っている場所が分かった。

イアンは今、先ほどの通りに立っている。

光を追って脇道を進んでいたが、結局は通りを進んだだけであった。


「……どこに行った…」


光を見失ったイアンは途方に暮れた。


「ん? そこにいるのは誰だ? 」


その時、通りの向こうから少女の声が聞こえた。

イアンが声の聞こえた方向へ目を向けると、視界の奥に小さい炎がゆらゆらと揺れていた。

誰かがロウソクを手にしているのだろうと思われる。


「その声は、ユニスか」


少女の声はイアンにとって、聴き慣れた声であり、ユニスの声であると分かった。


「なに? イアンか! 」


「イアン? 本当か? 」


ユニスと共に、アントワーヌの声も返ってきた。

やがて、二つの人影がロウソクの炎と共に、イアンに向かって近づいていく。


「ユニス、アントワーヌ」


イアンが二人の名を呼ぶ。

彼の思った通り、ユニスとワントワーヌが彼の目の前に現れる。


「やはり、イアン……しかし、何故こんなところに? 」


「……何かあったのか? 」


暗闇に包まれた通りに立つイアンを不思議に思い、ユニスとアントワーヌがイアンに訊ねる。


「それが……仮面を付けた騎士がオレの部屋に来て、そいつにここまで来たが、見失ってしまった」


「仮面の……? 他に特徴は無かったか? 」


ユニスがイアンに問いかける。


「……よく分からん。奴がどんなやつだったかが、思い出せん」


イアンは、ユニスにそう答えた。


「……もしかしたら、エッジマスクかもしれん…」


「エッジマスク? 」


ユニスの言葉に、イアンは首を傾げた。


「詳しくは知らんが、諜報を主な任務とした騎士がいるらしく、目元を覆う仮面をつけているそうな…」


「目元を覆う……そんな感じだったな。そいつだったとしたら、何故オレのところに来た? 」


イアンが、ユニスに訊ねる。


「分からん……が、ちょうどいいところに来たな、イアン」


「…? ちょうどいい? 」


微笑みを向けてくるユニスに、イアンは首を傾げた。


「女子二人だけで、夜道を歩くのは心細かったのだ。おまえがいてくれれば安心だ」


「……」


そんなことはないだろう――と言いかけたイアンだが、二人が武器を装備していないことを思い出し、言うのをやめた。


「とにかく、宿屋に戻るとしよう。イアン、変な輩が出てきたら頼むぞ」


「……分かった」


アントワーヌに肩を叩かれたイアンは、頷いて答えた。

三人は宿屋に向けて歩きだした。


「……」


通りを歩く三人を建物の上から見下ろす者がおり、顔に仮面をつけていた。





 宿屋で一夜を明かしたイアン達は、馬車に乗り、オリアイマッド領を目指した。

道中を警戒していたユニスだが、何事もなく首都のピオリットに到着し、首都ピオリットの医療院に着いた。

医療院とは、怪我を負った者や病気を患っている者を治療するための施設である。

イアン達は領主殺害の場に立ち会ったとされる者の部屋の前に着ていた。


「ここか? 」


ユニスが部屋のドアに目を向ける。

医療院の受付に聞いたものと同じ番号がそのドアに刻まれていた。


「うむ、ここで間違いないようだ。では、部屋に入らせてもらうとしよう。入ってもいいだろうか? 」


「……どうぞ」


ユニスが訊ねてから、少しの間が空いた後、女性の声が返ってきた。


「失礼する」


ユニスが部屋のドアを開けて中に入る。

イアン達も彼女に続く。


「む…フェイゼリア? 」


部屋に入ったユニスの目に、見知った人物の姿が目に映った。

彼女は褐色の肌を持ち、驚いた表情をしながら、白いベッドの上にいた。

彼女の体のあちこちに包帯が巻かれている。


「ユニス様…! あっ! 」


フェイゼリアはユニスに挨拶をしようとしたのか体を起こす。

しかし、体勢を崩してしまい、ベッドから転げ落ちそうになった。


「……! 」


イアンが駆け出し、落ちそうになったフェイゼリアを受け止める。

彼女はイアンよりも背が高かったが、


「あ……ありがとうございます」


フェイゼリアは自分を受け止めてくれたイアンに、微笑みを浮かべながら礼を言った。


「ああ、気にするな…………」


「……どう…しました? 」


じっと自分の顔を見つてくるイアンに、フェイゼリアが訊ねた。


「いや、何でもない」


イアンは抱きとめた彼女をベッドに戻す。


「ふぅ…イアン、よくやった」


ユニスがイアンを褒める。


「咄嗟に体が動いた。それより、知っているのか? 」


「ああ。彼女の名はフェイゼリア。数年前に父上が登用した騎士でな、昔から世話になっている」


「い、いえ、世話など……私はロイク様に拾われた身、その御子息であるユニス様を良くするのは当然です…」


ユニスの言葉に、ぶんぶんと手を振りながら答えた。


「しかし、フェイゼリア…よくぞ生き残ってくれた。おまえまで死んでしまったら…小生は……」


ユニスが涙ぐみながらフェイゼリアの元へ行く。


「いえ……私はユニス様…それにアントワーヌ様に謝らなければなりません」


「……」


フェイゼリアの言葉を聞いたアントワーヌがユニスの隣に立つ。


「私は護衛という任を受けながら、ロイク様を守ることもできませんでした。フェリク隊長にも顔向けできません」


「フェイゼリア、おまえが謝ることはない」


顔を俯かせるフェイゼリアにユニスが声を掛けた。


「おまえも必死に父上を守ってくれたのだろう? ならば、謝る必要はない」


「ユニスの言う通りだ。今日、ここに来たのはおまえの謝罪を聞くためではない。あの場にいたおまえの話を聞きにきたのだ」


アントワーヌが腕を組みながら、フェイゼリアに言う。


「そうだ。フェイゼリア、父上が殺害された時のことを教えてくれないか? 」


「……分かりました。あの時……」


フェイゼリアが口を開く。

ロイクが殺害された日、彼は王都に用事があった。

アントワーヌの父フィリクとフェイゼリアを始めとする護衛部隊を引き連れ、ロイクは王都に行った。

その時、ロイクは馬車に乗り、護衛部隊はその馬車の周りを歩いていた。

フェイゼリアはこの時、馬車の右後方を担当していた。

帰りも同じように護衛をしながら、ピオリッドを目指していたが、この時に複数の謎の人物に襲撃される。

謎の人物達は頭に布を巻いて顔を隠し、黒い装束を身につけていたため、何者かが分からない。

襲撃に応戦する護衛部隊だが、謎の人物達は強く部隊の騎士達は次々と倒れていった。

撃退するのは無理だと判断したフィリクは、フェイゼリアにロイクを連れて逃げるように指示する。

フェイゼリアは彼の指示通り、ロイクを連れて逃げ出したが、敵の矢を背中に受け、地面に倒れ込んでしまう。

薄れゆく意識の中、謎の人物に応戦するロイクの姿を最後に彼女の意識はなくなった。

これが、フェイゼリアの話した内容であった。


「父上の護衛部隊は精鋭ばかりだ。それを倒すほど、その者らは強かったのか…」


ユニスが信じられないといったような表情をする。


「……どうやら、そこら辺の賊がやったことではないようだな。フェイゼリア、その者達とおまえも戦ったのだろう? 何か特徴はなかったか? 」


アントワーヌがフェイゼリアに訊ねる。


「特徴…………」


フェイゼリアは、難しい表情をする。


「外見は…いい。武器とか動きとか、そういう面で何かなかったか? 」


「……そういえば、奴らの剣術に私達騎士と近いもの感じました」


「騎士……そんな馬鹿な…」


ユニスが再び、信じられないといったような表情をする。


「いや……騎士の可能性は高いぞ、ユニス。騎士を倒せるのは同じ騎士ぐらいなものだからな」


アントワーヌがユニスに言う。


「なに? では、犯人は我らの中にいるということか? 」


「可能性の話だ。まだ決まったわけではない」


アントワーヌは詰め寄ってきたユニスを押しのける。


「アントワーヌ様の言う通り……ですが、疑うのなら他の領地の騎士でしょう」


「……確かにな」


フェイゼリアの言葉に、アントワーヌが頷いた。


「他の領地の者がやったとして、単純に考えれば、トイットマンが怪しい 」


「……そうですね。何故、彼だけが生き残ったのでしょうか…… 」


「いや、何であいつが生き残ったのはともかく、トイットマンを疑うのは無いだろう……」


考え込む二人に、ユニスが呆れたような声を出す。

トイットマンのような小心者が領主七人の殺害を目論んだとはかんがえられない。

ユニスはそう思っていた。


「……言われてみればそうだが、奴にはワオエアーがいる。あいつならやりかねんと思うがな」


「ワオエアー……奴がいたか…」


ユニスはワオエアーの存在を思い出し、顔を俯かせた。


「まぁ、確証がない以上、他の領主を疑うのは得策ではない。だが、ある程度は警戒しておけよ、ユニス」


「……そうだな。早速、何か手を打つことにしよう。フェイゼリア、今日はありがとう。小生達はもう行く」


「いえ、ロイク様に関しては、本当に――」


「ああっ、もうそれはいいから! おまえは、ゆっくり休んでおけ。そして、傷が癒えたら小生を助けて欲しい」


「……はい。必ずやお役に立ってみせます」


「うむ。では、行くぞ」


ユニスはドアを開け、部屋から出ていく。

ラノアニクスも彼女に続いて出ていった。


「フェイゼリア、ユニスの言った通りゆっくり休んでおけ。領主と父上を殺した奴は、俺が直々に八つ裂きにしてやる」


「……あまり、無茶をなさらないでくださいね、アントワーヌ様」


「ふん、無茶などはしない」


アントワーヌはそう言った後、部屋から出ていった。

イアンも彼女に続こうとした時――


「あなたが、ユニス様が登用した騎士ですね」


フェイゼリアがイアンにそう声を掛けた。


「そうだ。オレにも何か言いたいことがあるのか? 」


「……いえ、私を見ても驚かなかったことと、何の躊躇(ためら)いもせずに私の体に触れたこと……それが気になりまして」


「ダークエルフだからか? 」


「そう。あなたは、ダークエルフという種族がどういう者か知っているようですね。ならば――」


「オレには、ダークエルフの知り合いがいる。これがおまえに対して、驚きも躊躇いもせずに触れた理由だ」


イアンは、フェイゼリアの口を遮るように言った。

彼の言葉を耳にしたフェイゼリアは、口を閉じてイアンの顔を見据える。


「……ダークエルフの知り合いがいなくても、オレはどうも思わなかっただろうがな」


イアンはそう言うと、フェイゼリアに背中を向け、部屋から出ていった。


「……変わった人ですね…」


イアンが部屋を出てからしばらくした後、フェイゼリアは一人そう呟いた。




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