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精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
七章 多様の使い手
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百五十七話 食事会

「なぁ、ユニス」


ギウディンが今後について、どうするかを話している中、アントワーヌがユニスに声を掛ける。


「今、ギウディンが話している。後でいいか? 」


ユニスが目立たないように、返事をした。


「いや、今がいい。他の領主がどんな奴か教えてくれ」


「後でいいだろ、そんなの」


ユニスが煩わしそうに呟いた。


「いや、今でないとダメだ。顔と一緒に覚えたい。それに周りを見ろ」


ユニスはアントワーヌに促され、周りを見回した。


「……む、むぅ…」


見回したユニスは、顔を引きつらせる。

ギウディンの話しを聞かずに、テーブルに並ぶ料理を口に運ぶ者や他事をしている領主が目に入ったのだ


「な? 聞いていない奴もいる。それに、あいつの言っていることは当たり前のことばかりで、ちっとも重要な事ではない」


「……確かに、そうだな……だが、聞かないのは失礼だろ? 」


「じゃあ、聞きながら説明してくれ」


「無茶なことを言うな。そんな器用なことできるか」


「はぁ…そのまんま言葉を受け取るなよ。言い方を変えるぞ、聞いているふりをしながら説明しろ」


アントワーヌは、ギウディンに顔を向けながら、ユニスへ言った。


「なんだ、そいうことか……いや、そっちも難しいぞ…」


ユニスは彼女の言葉の真意を理解し、呆れた声を出した。

そうして観念したかのように、ため息をついた後、彼女はアントワーヌに領主達について教えることにした。


「まず、ギウディン……は最後にするか。ギウディンの前で冷めた目をしている男から行くぞ」


ユニスは、奥に座るギウディンの向かいに座る青年に目を向ける。

その青年はだらしなく椅子に座り、顔はギウディンに向けられていた。


「彼は、ロニー領の領主の…息子で現領主のジェファー・ポニーだ」


ロニー領はゾンケット王国の東側、エンリヒリス領の南東に位置する。

領地の大半が何もない平原地帯で、町や村の間隔も広大である。

そのため、移動するには馬が必須であり、馬に乗れる人の数も他の領地に比べて遥かに多い。


「多くの名馬を排出し、騎兵の練度も高い。恐らく、ロニー領の騎兵が一番強いだろう。そして、ジェファー自身の馬術も優れている」


「へぇ……で、奴の性格は? 」


「やる気のない……冷めたやつだ」


「……冷めたやつ…ね」


アントワーヌは、ジェファーを見据える。


「ふわぁ~」


彼は頬杖をつき、あくびを噛み殺していた。


「冷めたというか、呑気なやつだ。親が殺されたというのにもうあの態度か…」


「流石ジェファーだな……馬以外興味無いとか言っていたが、本当だったか…」


二人は、ジェファーを呆れた目で見ていた。


「ジェファーはこんな感じだ。次は、ギウディンの隣に座る男は――」


「子供じゃないよな? 」


ユニスの視線の先に目を向けたアントワーヌが、小首を傾げながら呟いた。

アントワーヌの視線には、ギウディンの言葉に頷いている男が映っていた。

その男の体は鍛えているのか、がっしりとした体形である。


「いや、彼はまだ十七歳だ」


「なに? 嘘だろ。あの顔だぞ? 」


アントワーヌが見ていたのは彼の顔であった。

彼の顔は大人びており、二十歳後半の男性のような顔をしている。


「嘘ではない。あと、本人は気にしているからな、あまり言ってやるなよ。で、彼はノブサル領の領主のサミール・ダラーだ。もちろん、前領主の息子だ」


ノブサル領は、オリアイマッド領の南隣に位置する。

多くの武器や防具の工場を持っている王国一の工業地帯である。

平原地帯の領地ではあるが、幾つもの工場が建っているため、自然のままの平原の面積はオリアイマッド領よりも少ない。


「息子、娘はいちいち言わなくていい」


「そうか? で、彼は無口なだけで、困った性格はしていないな」


「無口ね……サミールは強いのか?」


「強いな。あの体形から見て分ると思うが、サミールは重い鎧を身に着ける。彼も重騎士で、柱のようなでかい槍が得物だ」


ノブサル領の多くの騎士は、全身を重い鎧で武装する重騎士が多い。

重騎士で組まれた密集陣形は無類の堅さを誇り、ノブサルの重騎士は壁と称されている。

その中でも、サミールは重い鎧と巨大な槍を持ち、攻守共にすぐれているため、歩く要塞通り名がついた。


「意外にアンは知らないのだな。こういうことは、知っていると思っていたのだが…」


ユニスは、アントワーヌが彼らのことをまったくと言っていいほど、知らないことを不思議に思った。


「知る必要が無かったからな。で、サミールのことはだいたい分かったが、隣に座る女はなんだ? サミールとやけに親しげだが」


アントワーヌが、サミールの隣に座る少女に目を向ける。

話し続けるギウディンの横でサミールと少女は――


「……」


「ねぇ、サミール…さっきからうんうん頷いてるけど、ちゃんと聞いてるの? 」


「……聞いてはいる…………が、何を言っているかさっぱりだ」


「はぁ…そんなことだろうと思ったわ。あたしが後で説明してあげるから、適当に頷くのをやめなさい。話を振られたら困るでしょ? 」


「……分かった」


というような会話をしていた。

少女に目を向けながら、ユニスが口を開く。


「彼女はマルゼス・ファンティーヌ。サミールと同い年で、彼とは幼馴染の関係だ」


「見た感じ、マルゼスが領地を運営しそうだな…」


「そう……だな。サミールは戦闘はできるが、政治はまったくできないだろう。そういった方面のことは、全部マルゼスが請け負うのだろうな」


「領主としてどうかと思うがな。次は……む? サミールの向かいには誰がいる? 」


アントワーヌは僅かに頭を傾け、隣の人影に隠れた先を見る。

サミールの向かいには端正な顔立ちの少年、マルゼスの向かいには可愛らしいドレスを着た少女が座っていた。


「あいつは……ギートゴート? 何故やつがここに……その隣にガキが座っているが…」


傾けた頭を元に戻し、アントワーヌはそう呟く。

彼女の目に映ったのは、剣術大会で自分を負かしたギートゴートと年端もいかぬ少女であった。


「ああ、小さい子供の名はパメラ・ジービル。彼女が領主で、ギートゴートは護衛でいるのだろうな」


アントワーヌの呟きにユニスが答えた。


「パメラはグリエ領の領主で……確か七歳のはずだから、彼女が最年少で領主になった者になるだろう」


グリエ領はロニー領の南隣に位置する。

木々に囲まれた森林地帯で、林業が盛んである。

領地の大半が森林地帯であるため、町や村の数は少ない。

ゾンケット王国では、一番人口の少ない領地であった。


「もっとマシな兄弟はいないのか? あいつ、肉も切れんやつだぞ」


先ほどから、鳴り響くガチャガチャとした音に、アントワーヌが煩わしそうに顔を歪める。

音の出所は、パメラの手元であった。


「うう~…切れぬ~」


パメラは、皿の上に置かれた肉に奮闘していた。


「ああっ! もう無理! ギート~、()のためにお肉を切ってくれまいか? 」


「……貸してください」


パメラが差し出した皿を受け取ると、ギートゴートは皿に乗った肉を綺麗に切り分ける。


「おおっ! 流石は余のギート! ついでに、お肉を余の口の中へ」


パメラは、ギートゴートに向けて、口を大きく開く。


「……パメラ様、はしたないです。他の領主達の前ですよ」


ギートゴートは、パメラの前に皿を置く。


「むぅ~、仕方ないのう…」


パメラはフォークを無造作に掴むと、切り分けられた肉を次々と口の中へ放り込んでいく。


「持ち方……はぁ……」


その彼女の様子に、ギートゴートはため息をついた。


「……ギートゴートのやつ、苦労しているな」


「……そうだな。ギートゴートほどの者がパメラの元にいるとはな」


アントワーヌとユニスは、ギートゴートを気の毒に思った。


「残念だが、パメラに兄弟はいない。それゆえに甘やかされて、ああなったのだろう」


「グリエ領は大丈夫か……」


「うむ…パメラについてはこんな感じだ。次はマルゼスの隣にいるやつ」


ユニスの視線が、マルゼスの隣にいる少女に向けられる。

その少女は気弱な性格なのか、体を震わせながら縮こまっていた。


「隣……の更に隣ではないのか? 」


アントワーヌが、気弱な少女の隣に座る少女に目を向けた。

その少女は気弱な少女と瓜二つの容姿を持っているが、体を震わせることなく堂々としていた。


「あー…そっちではない…と思う。マルゼスの隣にいるやつが、カレッド領の領主であろうルロル・オルヤールだ。その隣にいるのが妹のプレト・オルヤール。見て分かると思うが、彼女達は双子の姉妹なのだ」


カレッド領は、ノブサレ領の南に位置する領地である。

この領地には、古い建物が多く残されており、首都にある領主の住まいは、建国前に建てられたとされる砦を使用している。

古くから伝わるものは建造物だけではない。

古武術と呼ばれる伝統的な戦闘方法も多く残されている。


「オルヤール……俺と同じ姓か」


「確かに……おまえの父上は、カレッド出身ではないのか? 」


「分からん……だが、盾について何か知っているかもしれんな」


アントワーヌはそう呟くと、ルロルの方に目を向けた。

相変わらず、体を震わせており――


「……! 」


視線に気づいたルロルは顔を上げると、アントワーヌと目が合い、すぐに顔を伏せてしまう。

次に、アントワーヌは、ルロル隣に座るプレトに目を向けた。


「……! 」


視線に気づいたプレトは、アントワーヌを睨みつけた。


「ふっ、顔は似ているが、まったく違うようだな」


「そうだな。姉のルロルは気が小さく、妹のプレトは勝気な性格だ。慣れたらすぐに分かるようになる」


「ふむ……カレッドといえば、古武術だったか。あいつらも使えるのか? 」


「ああ。姉が剣、妹が槍の古武術を使う。ちなみに、意外だと思うだろうが姉のルロルの方が強い」


「なに!? 」


アントワーヌは、ユニスの想像していた通りに驚いた。


「まぁ、驚くだろうな。二人の模擬戦を見たことがあるが、ルロルの完勝だった」


「そんな馬鹿な…」


アントワーヌはあの縮こまっているルロルが強いとは思えなかった。


「プレトも充分強いのだがな。二人に関してはこんなもんだろう。次は――」


ユニスが視線を移そうとした時――


「今度は俺なのだろう? 」


アントワーヌの隣に座る少年が声を出した。

もちろん、ギウディンには聞こえない声の大きさである。


「ほう、聞いていたか。なら、話は早い。俺の名はアントワーヌ・ルーリスティ。ユニスの元で騎士をやっている」


「……」


少年は口を固く閉ざしていた。

一見どっしりと構えているように見えるが、視線が前を向いたりアントワーヌに向けられたりと落ち着かない様子である。


「……? 自己紹介をして欲しいのだが…」


「あ、生憎と…お、お前に話してやる義理はない。キ、キリオスにでも教えてもらえ」


少年は(ども)りながら、アントワーヌに言った。


「はぁ? なんだこいつ」


そんな少年に、アントワーヌは不快感を覚えた。


「この人はレアザ領の領主、ファランス・ナザスだ」


レアザ領は王都の南、グリエ領の南西に位置する。

城下町のように発展した町を首都に持つ。

騎士としての名家が多く、部隊を指揮する者の能力が高いため、大規模な戦闘に強い。


「以上だ」


「「…え? 」」


ユニスがファランスの説明を終える。

あまりにも短い説明に、アントワーヌとファランスが間の抜けた声を出す。


「おいおい…もっと何かあるだろう。さっきみたいな感じで」


アントワーヌは、ユニスの説明に満足できず、詳しく説明するように要求する。


「えぇ…………十六歳。確か…剣が得意だった。あとここ数年……三年前くらいか。その時から、目を合わせて話してくれなくなった。以上? 」


「俺に聞かれても……今の説明でいいのか? 」


アントワーヌがファランスに訊ねる。


「せ、説明が雑すぎる! あ、あと、人と話すときぐらい目を合わられる。た、ただ、女の子にはあまり慣れていなだけで…」


「は? 目を合わせられるの後がまったく聞き取れんかったぞ。なんだって? 」


アントワーヌは、ファランスの言葉の後半が聞き取れなかった。


「うっ……な、何でもない! 」


ファランスはそう言うと、アントワーヌに対してそっぽを向いた。

アントワーヌとユニスには見えないが、彼の顔は赤く染まっていた。


「…? 分からんやつだ。ユニス、こいつの説明はもういい。最後にギウディンについて教えてくれ」


アントワーヌはそう言うと、奥に座るギウディンに視線を移す。


「ああ。彼の名はギウディン・メニキス。ラファント領の領主だ」


ユニスも彼に視線を移した。

ラファント領は王都の南、カレッド領の南東に位置する。

発展した町を首都に持つ、騎士の名家が多い等、東隣にあるレアザ領と似たような領地である。

大きく異なるのは、ラファント領に国で一番大きい港があることだ。

その港のおかげで、レアザ領よりも領地の町村は全体的に発展している。

ちなみに、カレッド領との境目には大きな湾がある。

その湾が王都近辺まで伸びているため、カレッド領とラファント領を行き来する時には、湾にかけられた石橋を渡らなければならない。


「あのように皆をまとめたがる性格で、ちゃんと能力はある。領主に成り立ての我らの中で、一番統率力があるだろう」


「ふぅん…で、奴自身は強いのか? 」


「強い」


アントワーヌの問いに、ユニスははっきりと答えた。


「剣術においては、この場にいる者の中で一番だろう」


「おまえも勝てないのか? 」


「……まだ勝てんな。それに父親をなくした今、彼は家の当主……宝剣もギウディンが持っているはずだ…」


「宝剣? なんだそれは? 」


アントワーヌは耳慣れない言葉を耳にし、ユニスに訊ねる。


「こ、これはまた意外な……武器マニアのおまえが知らないとは……」


ユニスは、アントワーヌの反応に驚愕した。


「いいから、宝剣とやらについて教えろ」


「宝剣というのは、ギウディンの家に代々伝わる強力な剣で、とてつもない力を持っているらしい」


「代々…とてつもない力……俺の盾に近いものを感じるな」


「あ……言われてみればそうだな」


「今、気づいたのかおまえは…」


アントワーヌが呆れた声を出す。


「ま、まぁ、個別の用事があった時にでも、宝剣について訊ねてみることにしよう」


「頼むぞ…」


その時――


「…するといい。今後、我らがやるべきことは以上だ…と俺は考える。何か異議のある者はいるか? 」


ちょうど、ギウディンが話終わったところであった。

アントワーヌとユニスは、話を聞いていたふりをするために姿勢を正し、ギウディンの顔を見る。


「…………誰もいないみたいだな。では、解散としよう」


異議を唱える者はおらず、ギウディンの言葉で食事会は終わりを迎えた。

次々と他の領主達が部屋を後にする中、ユニスは――


「あ!……」


何かを思い出したかのように声を上げた。


「どうした? 俺達が最後になってしまったぞ」


部屋の扉に手をかけたアントワーヌが、後方のユニスへ顔を向ける。


「まだ全員…トイットマンのことは言ってなかった……」


「……あいつはいいや」


「そうか……」


アントワーヌとユニスも部屋を出て、王城を後にした。




領主まとめ


  ラファント領――ギウディン・メニキス(15歳)

    レアザ領――ファランス・ナザス(16歳)

   カレッド領――ルロル・オルヤール(8歳)

    グリエ領――パメラ・ジービル(7歳)

   ノブサル領――サミール・ダラー(17歳)

    ロニー領――ジェファー・ポニー(18歳)

 エンリヒリス領――トイットマン・ヒオース(41歳)

オリアイマッド領――ユニス・キリオス(9歳)


2016/5/29 後書き修正

     ルロルの名前を訂正。

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