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精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
七章 多様の使い手
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百五十二話 残されたのは形見の盾と三つの鍵

数百年前、魔王が率いていた軍の中に、オークと呼ばれる魔物がいた。

オークはゴブリンを巨大化させたような醜い魔物で、人を遥かに上回る腕力と俊敏さを持つ。

当時、人間の戦士を多く殺害した魔物はオークであったとされる。

しかし、勇者には敵わず、彼が魔王を倒す頃には全滅したとされ、現在どの地域にもオークは見られない。

そのため、今では伝説の魔物として語り継がれている。

ちなみに、その醜い姿とある習性によって、魔族やダークエルフよりも忌み嫌われている存在である。



そのオークを模した魔物とアントワーヌは対峙していた。

蛮族の長の肉体を使って作られた魔物で、名前を付けるのであれば、蛮族オークだろう。

蛮族オークは三体おり、それぞれ槍、槌、弓を手にしている。


(化物になってしまったが、持ってる武器はあまり変わっていないな)


蛮族オーク達が持つ武器は、他の蛮族の持つ武器より大きいだけで、特に変わったところは見られない。

それぞれの武器の外観はというと、槍は木の棒の先端に尖った石を括りつけたもの、槌は木の棒の先に石を括りつけたもので、弓は木の枝で作られたものであった。


「……」


アントワーヌはバイザーを下ろし、剣を両手で持って構える。

じっと剣を構えたまま、蛮族オーク達の出方を伺う。


「フゴゴ! 」


「ブゴオッ! 」


「ゴッヘヘ! 」


三体の蛮族オークはアントワーヌを見つめていた。

鼻息は荒く、口からよだれが垂れている。


「やはり、気持ち悪い……」


その蛮族オーク達の様子を見て、アントワーヌの表情が嫌悪に染まる。

すると、彼女の声に反応したのか蛮族オークの一人が弓を構えた。


「来るか! 」


アントワーヌは、矢の攻撃に備える。

蛮族オークは構えた弓に矢を番え、アントワーヌに目掛けて矢を放った。


「……! 」


アントワーヌは横に飛んで矢を躱した。


バキッ!


矢はアントワーヌの後方の丸太を僅かに粉砕しつつ、突き刺さった。


「なんという威力だ…」


「フゴッ! フゴオオオオオ!! 」


アントワーヌが矢の威力に驚いている間に、槍を手にした蛮族オークが彼女に迫る。

蛮族オークは、アントワーヌの腹に目掛けて槍を突き出した。

アントワーヌは横へ軽く足を踏み込むことによって体をずらし、槍を躱すことができたが――


「フゴッ! フゴッ! 」


間髪入れず、再度槍を突き出していく。

連続で突き出される槍に対し、アントワーヌは躱す一方であった。


「早い……が、避けれんことはない」


「ブゴオッ! 」


当たらないことに痺れを切らしたのか蛮族オークは、槍を横薙ぎに払う。


「しめた! 」


アントワーヌは屈んで槍を躱し、蛮族オークに接近し、腹を斬りつけようとしたが――


「……!? 刃が通らないだと!? 」


アントワーヌの剣は、蛮族オークの分厚い腹の中に沈むだけで、肉を切り裂くことはできなかった。


「フゴオッ! 」


蛮族オークは片手を振り上げ、目の前にいるアントワーヌを叩こうと振り下ろす。

アントワーヌは蛮族オークの手を躱した後、背後に回り込む。


「腹がダメなら背中――」


「フゴゴッ! 」


槍を手にした蛮族オークの背中を突き刺そうとした時、アントワーヌに別の蛮族オークが迫っていた。

その蛮族オークの手には槌が持たれており、アントワーヌ目掛けて振り下ろされる。


「ちっ」


アントワーヌは突き刺すのを諦め、横に飛んで蛮族オークの槌を躱す。


ゴッ!


振り下ろされた槌は地面を粉砕し、辺りに砂塵が舞い上がる。


「威力は凄まじいが、お前の攻撃は当たらん」


槌によって、砕かれた地面を見ながら、アントワーヌが言った。

蛮族オーク一体一体の攻撃は容易(たやす)く避けることができ、彼女は余裕の表情を見せる。

しかし――


「フゴオオオオオッ! 」


弓を手にした蛮族オークがここぞとばかりに弓を引き、アントワーヌ目掛けて矢を放った。


「これは避けれない! ぐっ……! 」


空中で躱すことのできないアントワーヌは、剣で矢を受けた。

槌を躱した後の隙を狙った追撃は、完璧にアントワーヌを捉えていた。

連携攻撃されては、アントワーヌの俊敏さを(もっ)てしても、回避は困難であった。

貫かれることは防いだが勢いに押され、矢と共に飛んでいく。


「ぐはっ! 」


飛ばされたアントワーヌは、丸太の壁に激突し、ズルズルと崩れ落ちた。

背中を強く打ち付け、アントワーヌはすぐに立つことができない。


「お、おのれ……俺は…まだ……」


視界がぼやける中、彼女は立ち上がるために、体に力を入れる。

アントワーヌはまだ、剣を手放してはいなかった。



 集落の門前にて、二人の少女が大勢の蛮族を相手に戦っていた。

一人は剣の腕が秀でており、もう一人の少女は並外れた膂力を持っている。


「はぁ…はぁ…ようやく一人目……」


「グゥゥゥ……こっちもだ…」


ユニスとラノアニクスは、息を切らしていた。

彼女達の実力でも、蛮族達を倒すのは困難であった。


「こいつら、やけに強い……というか、しぶとい! 」


ユニスが目の前の蛮族を袈裟懸(けさが)けに斬り裂く。


「ギャアアアア……ウオオッ! 」


蛮族は傷口から血を噴き出すが、何事もなかったようにユニスへ向かっていく。


「くそっ! ラノアニクス、手伝ってくれ! 」


ユニスは蛮族の首に剣を当てる。


「ギャオ! 任せろ! 」


蛮族の頭に目掛けて、ラノアニクスは飛び蹴りを叩き込んだ。

蹴り飛ばされた勢いで、ユニスの剣が首を切断し、蛮族の頭がもげて飛んでいく。


「……! 」


首を失った蛮族はその場に崩れ落ちた。


「はぁ…二人ならば、すぐに倒せるが……」


ユニスが前方に視線を移す。

そこにはまだ大勢の蛮族達が(うごめ)いていた。


「まだ、これだけの量がいる。ここを突破するにしても、だいぶ時間が掛かるな…」


「イアン達、様子が見えない。大丈夫か? 」


「分からん……が、中にあいつらがいる以上、進むしかあるまい。踏ん張るぞ! 」


「ギャオウ! 」


ユニスとラノアニクスは蛮族の群れに向かっていった。



アントワーヌは集落の中を駆け回っていた。

彼女が走り回っているのは、弓を手にした蛮族オークから放たれる矢から逃れるためである。

しかし、先程のダメージと体力の消耗から走る速度が落ちていく。


「フゴォ…」


そんな彼女に狙いを定めるのは容易である。

弓を構える蛮族オークの番えた矢は、ぴったりアントワーヌに向けられていた。

それを横目に見たアントワーヌは、前方へ思いっきり飛び込んだ。


ヒュッ!


間一髪で矢を避けることができたが、今のアントワーヌは地面に伏せた状態である。


「フゴオオオオッ!! 」


地面に伏せる彼女目掛けて、槌を手にする蛮族が跳躍する。

アントワーヌの真上に到達すると、落下しながら槌を振り下ろした。


ドゴッ!


槌が大きく地面を粉砕する。


「ぐああっ! 」


槌の直撃を逃れたアントワーヌだが、衝撃で吹き飛ばされる。


「くっ……なに!? 」


彼女が吹き飛ばされた先には、槍を手にした蛮族オークがいた。

蛮族オークは、仰向けに倒れるアントワーヌを見下ろし――


「フゴォ! 」


彼女に目掛けて、槍を突き出した。


「……! 」


アントワーヌは横へ転がり、蛮族オークの槍を躱す。


「このまま、やられてばかりでは……」


膝を付き、立ち上がろうとしたアントワーヌ。


「フゴオオッ! 」


その彼女に、蛮族オークの突き出された槍が迫る。


ガッ!


アントワーヌは咄嗟に剣を盾にしたが、力負けしてしまい、後ろに吹き飛んでしまう。

なんとか地面に着地し、体勢を立て直したアントワーヌだが、手にした剣を見て驚愕した。


「なっ……今ので剣が! 」


アントワーヌの剣の刃は槍の勢いに耐え切れず、折れ曲がっていた。


「くそっ! これでは戦うことができない! おのれぇ!! 」


アントワーヌは力強く、折れ曲がった剣を地面に投げつけた。

剣は何回か跳ねた後、虚しく地面に転がった。

役に立たなくなった剣を憎々しげに見つめた後、三体の蛮族オークに視線を向ける。

三体の蛮族オークはアントワーヌが武器を失ったことで勝利を確信し、武器を下ろして彼女の元へ歩いていく。


「……俺を八つ裂きにするつもりか。奴らに殺されるくらいなら、自分で命を絶ったほうがマシだ」


アントワーヌはまだ自分に武器が残されていないか、自分の服を探し回る。


「む? これは何だ? 」


すると、服の中に小さい何かがあることに気づいた。

その一つを手にすると――


「これは、イアンに貰った鍵……こんなところに入れてたか…」


それはイアンに貰った鍵の一つ、緑色の鍵であった。


「ははは……あいつめ、鍵では流石に自決できんぞ。こんな意味の分からん鍵なんぞ寄越しおって…」


アントワーヌは手にした鍵を見つめる。


「……あいつは、俺の盾にこいつを挿したがっていたな……良かろう。俺が死ねば、オルヤールの家も死ぬ。代々受け継がれてきたという、この盾の所有者は俺で最後だ…」


アントワーヌは、左腕を前に突き出し、盾の側面側にある(ふた)を開ける。

そこには三つの穴が横に並んでいた。


「こんな物でも贈り物だ。初めて俺に贈り物をした男として、このアントワーヌが最期におまえの望みを叶えてやろう…」


(オルヤールの家を復興できなかったこと……あいつがこの場にいなことが心残りだ…)


アントワーヌは緑色の鍵を天に向けて掲げた後――


「ありがたく思えよ、イアン! 」


盾の三つの穴の一つに挿した。


「……!? 入った……だと!? 」


緑色の鍵は、穴に奥まで差し込めた。

ただ穴に入っただけではなく、ぴったり穴にはまった感触をアントワーヌは感じた。


「…まさか…これは……」


アントワーヌは、恐る恐る刺さった緑色の鍵に手を伸ばす。


「……いや、ここまでやったのだ。どうとでもなれ! 」


アントワーヌは緑色の鍵に手をかけ、鍵を回した。


[アウト・ザ・ソード! ]


「はあ!? 」


鍵を回した瞬間、盾から声が飛び出し、アントワーヌは驚いた。

その声は聞き取ることはできるが、明らかに人間の出せるような声ではなかった。


ガシャ! シュコン!


すると、手の方の盾の一部が開き、そこから何かの柄のような物が飛び出した。

柄の色は緑色で、何かの武器の柄であることが分かる。


「武器? 盾の中に入っていたのか? なんなのだ一体…」


アントワーヌは疑問を口にしながら、柄を掴んで引き抜いた。


「……!? 」


アントワーヌは引き抜いた物に驚愕した。

彼女が引き抜いたのは、剣であった。

その剣の刀身の長さはアントワーヌの腕の長さほどあり、両側に刃が付いている。


ガシャ!


彼女が剣を抜いた後、開いた部分が勝手に閉まる。


「剣……しかも、これほどの長さの剣を、どうこの盾にしまっていたのだ!? 」


引き抜いた剣は盾よりも長く、どう見ても入り切るものではなかった。


「フゴ!? ブゴオオオオオオッ!! 」


彼女が武器を手にしたことに蛮族オークが気づいた。

槌を手にした蛮族オークがアントワーヌに迫り、彼女目掛けて槌を振り下ろす。


「……! 」


注意を向けていなかったアントワーヌだが、蛮族オークの接近に反応し、その腹を斬りつけにかかる。


「ちっ、しまった。こいつの腹に剣は効かないのだった」


そのことを忘れていたアントワーヌだったが――


ズバッ!


彼女の剣は軽々と蛮族オークの肉を斬り裂きながら背中へ抜けた。


「フゴッ!? ブグウウウウ…」


斬り裂かれた傷口から大量の血が噴き出し、槌を手にした蛮族オークは膝を付く。


「な、なんという切れ味だ…」


「ブゴオオオオオッ! 」


剣の切れ味に驚く彼女に、槍を手にした蛮族オークが向かっていく。


「槍が来るか! おっと、他にも鍵があったな」


アントワーヌは服から、赤色の鍵を取り出し、他の穴に入れようとするが――


「むぅ…鍵穴が合わん。ここにしか合わないものなのか? 」


他の二つの穴には入らなかった。


「仕方がない。この緑を抜いて……おおっ!? 」


彼女が緑の鍵を抜いた瞬間、持っていた剣が緑色の光となって消えていった。


「鍵を抜くと、剣は消えるのか……とりあえず、次は赤を」


アントワーヌは赤色の鍵を挿して、回した。


[アウト・ザ・スピア! ]


ガシャ! シュコン!


謎の声と共に盾の一部が開き、そこから赤色の柄が飛び出す。


「ふん! 」


アントワーヌが柄を引き抜くと、それは先に刃の付いた短槍であった。

しかし、短槍の柄が伸び、従来の槍のような形状に変化した。


「赤は槍……鍵の色で、出てくる武器が変わるのか…」


アントワーヌは槍を両手に持ち、向かってくる蛮族オークに備える。


「フゴオッ! 」


「はっ! 」


彼女は蛮族オークが突き出した槍を上に払った後――


ドスッ! ドスッ! ドスッ!


蛮族オークの両肩と頭を槍で突いた。

槍の刃も強力で、蛮族オークの肉体を軽々と貫いていた。


「ははっ! こいつも強力だ! さて、最後は…」


アントワーヌは赤色の鍵を抜き、取り出した青色の鍵を差し込んだ。


[アウト・ザ・ボウ! ]


ガシャ! シュコン!


手にした槍が消え、盾から青色の柄が飛び出す。

それを引き抜くと、柄の両端が伸び、青色の細い糸が伸びた両端にピンと張られた。


「青は弓か。どれ、この弓と勝負してみるか? 」


アントワーヌは弓を手にした蛮族オークにそう呼びかけつつ、矢筒から一本の矢を取り出す。


「フゴゴッ! 」


蛮族オークは弓に番えた矢をアントワーヌ目掛けて放った。


「はあ! 」


アントワーヌも蛮族オークに遅れて矢を放った。


バキッ!


彼女の放った矢は青い光を(まと)いながら飛んでいき、蛮族オークの放った矢を粉砕した後――


「……!? 」


蛮族オークの頭を貫通した。

顔に穴を開けられた蛮族オークは、立つこともままならず、その場に倒れこむ。


「は、はははは! どれも最高の武器じゃあないか! そして、この盾はただの盾ではなく、これらの武器を格納する武器庫だったのだな! 」


アントワーヌはそう言うと、矢筒から矢を取り出し、まだ息のあった槌を手にする蛮族オークに放つ。


「……ゴッ!? 」


頭を打ち抜かれ、蛮族オークは悲鳴を上げるこなく、崩れ落ちた。

三体の蛮族オークは、アントワーヌの盾から現れた武器によって倒された。


「ふぅ…鍵で複数の武器を呼び出せる盾型の武器庫…か。俺の先祖はとんでもない奴かもしれんな。いや、それよりも……」


アントワーヌは手にした二つの鍵を握り締める。


「これで確信した。この鍵を持って、俺の前に現れたイアン……間違いない、あいつは俺を強くする存在だ! あいつを手に入れれば、俺は更なる高みを目指すことができる! 」


握り締めた手に更に力を入れ、アントワーヌはそう声を上げた。


「だが、それは一旦後回しだ。今はこの場をどうにかすることに力を注ぐ。イアン、おまえがくれたこの力…存分に使わせて貰うとしよう」


アントワーヌは手にした二つの鍵を服の中にしまい、青の弓に矢を番えた。



4月8日 サブタイトル変更

2016―4月19日 誤字修正

このまま、やっられてばかりでは → このまま、やられてばかりでは


2016―6月7日 文章修正

刀身の長さが彼女の腕の長さほどある両刃の剣であった → その剣の刀身の長さはアントワーヌの腕の長さほどあり、両側に刃が付いている。

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