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精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
七章 多様の使い手
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百五十話 第四拠点のガントレイト

第三拠点より、北東にある小山。

そこの谷の入口付近には、大量の蛮族の死体があった。


「この部隊の隊長は貴様か? 」


その付近で、ユニスが一人の騎士に詰め寄った。

その騎士のの身なりは、他の騎士と違って少し仰々しいものであった。


「そ、そうだが、君達は第二拠点から派兵された牽制部隊だね? い、いやあ、生きてて良かった」


どうやらその騎士が、ユニスたちごと蛮族を殲滅しようとした舞台の隊長のようであった。

隊長の顔は引きつっている。


「何が良かっただ! そんな言葉より言うことがあるだろ! 」


「ひぃぃ! ごめんなさい! 」


ユニスに胸ぐらを掴まれ、目から僅かに涙を零す隊長。

そんな隊長の様子を部下の騎士達は気の毒そうに見つめていた。


「よせ、ユニス。恐らく、こいつらは命令に従っただけだ」


アントワーヌがユニスを止めに入る。


「……分かっている。それで、どういう任務の内容で、小生達ごと矢で射抜くことになったんだ? 」


ユニスは隊長から手を離し、質問を問いかけた。


「うっ……牽制部隊が窮地に陥ろうとも、蛮族の殲滅を優先すべし……」


「はっ! どうやら俺達は、捨て駒のような扱いを受けていたらしい」


「くっ……おのれ…流石に、この仕打ちはやり過ぎだろ! 」


アントワーヌは乾いた笑みを浮かべ、ユニスは怒りに震えていた。


「言ってはなんだが、今はそんなことよりも考えなければならないことがあると思うが…」


イアンがアントワーヌとユニスに近づく。


「おう、蛮族の動きについてだな。何か様子がおかしいもんな」


アントワーヌがイアンにそう返した。


「ユミ族による集落の焼き討ち…さらに、ツチ族による生き残った者への追い打ち……奴ら、別の蛮族と協力し策を講じてきた。何か裏がありそうだ」


ユニスは顎に手を当てながら言った。


「えっ!? ユミ族……しかも、火計ですと!? 」


隊長がユニスの言葉に驚愕する。


「ん? ああ、そうだ。ところで、おまえはどこの拠点の者だ? 」


「第三拠点の者です」


ユニスの問いに隊長が答えた。


「そうか……蛮族が策を講じる、他の蛮族と協力するというのは第四拠点の方も知らないと思うか? 」


「あー…はい。恐らくは、誰も知らないことでしょうな。ならば、至急各拠点に――」


「伝令! 伝令ーっ! 」


隊長が言葉を言いかけた時、こちらに馬を走らせる者が現れた。

口にする言葉から、伝令兵である。


「あれは、第三拠点の伝令兵……」


隊長が伝令兵の姿を見て、そう呟いた。


「エリス隊長、至急第三拠点にお戻りください! 」


「何かあったのか!? 」


隊長が伝令兵に詰め寄る。

彼の名前はエリスというようだ。


「第四拠点の西…そちらで蛮族の大規模な動きを観測したようです! 」


「なに!? 分かった、すぐに引き上げる。皆の者、引き上げだ! 」


エリスは自分の部下を引き連れて、第三拠点へ向かった。


「あと……貴公が牽制部隊の隊長で間違いないか? 」


「ああ、そうだが、小生達にも命令があるのか? 」


ユニスが伝令兵に聞き返す。


「ええ、生き残っているのであれば、第四拠点に向かうよう、騎士長が…」


「くそっ、嫌な言い回しだな。分かった、我々は第四拠点に向かう」


「はっ! ご苦労様です」


伝令兵は、エリス達と同じ方向へ走って行った。


「聞いたな、皆。今から、第四拠点に向かうぞ」


「はぁ……あいつめ、また俺達をこき使うつもりだぞ」


アントワーヌはため息をつく。


「だろうな。恐らく、今日の牽制より辛い任務を任されるだろう」


「グゥゥゥ……ラノ、不安」


イアンとラノアニクスも悪い予感を感じていた。

ユニス達は、不安を抱えながら第四拠点を目指して歩き始めた。





 ――夕暮れ。

ユニス達は、ようやく第四拠点に辿り着いた。

第四拠点は、第二拠点を少し大きくしたようなもので、突出した違いは特に無い。

拠点の門をくぐると、一人の男性がユニス達の前に現れた。

その男性の身長はニメートル程で、筋肉質な体型をしている。


「おおっ! ユニス様、よくぞ参られた! 」


「……お久しぶりです、ガントレイト隊長」


迎えてくれた男性に礼儀正しく挨拶を行うユニス。

しかし、彼女は何故か一歩後ろに退いてから挨拶をした。


「む? ユニス、知っているのか?」


イアンがユニスに訊ねる。


「ああ、昔、父上の部下にいたのだ」


「相変わらず暑苦しい奴だな」


「アントワーヌ、おまえも知っているのか? 」


アントワーヌも知っているようだった。


「ああ、父上……今の父上の元上司でな。度々、会ったことがある」


アントワーヌは、額のバイザーを顔に下ろしながらイアンの問いに答えた。


「何をしている? それでは相手に顔が見えんぞ」


「……これでいい」


イアンの問いかけに対し、アントワーヌがそう答えた。


「おおっ? その黒い髪の女子(おなご)は、ひょっとしてアントワーヌちゃんではないか? 」


「…………違います」


「おおっ! やっぱり、そうか! 二人共、見ない間に大きくなったな~」


ガントレイトはそう言うと、二人を同時に抱きしめた。


「う、うぐああああああ!! ……イ、イアン……助け……」


「ぐおおおおおお!? 違うと……言ったのに……」


ユニスとアントワーヌは、ガントレイトに抱きしめられ、必死にもがいていた。


「……お、おお…」


「グゥ…苦しそう…」


イアンとラノアニクスは、二人がガントレイト(おっさん)に抱きしめられるのを見ているだけしか出来なかった。


「むぅぅぅん!! 」


「かはっ! 」


「ぐ…あっ! 」


二人はようやくガントレイトの腕から開放され、その場に崩れ始める。


「おっと…二人共、大丈夫か? 」


脱力した二人の背中を支えるイアン。


「これがなければ……い、いい人…」


「セ、セクハラだろ……これ…」


二人はそう言うと、力なく顔を伏せた。


「む? 今ので力尽きてしまったか。二人も、まだまだのようですな」


ガントレイトはそう言うと、ユニスとアントワーヌを軽々と抱えた。


「ついてきなさい。騎士長からの伝令を預かっている」


ガントレイトは二人を肩に担ぐと、兵舎の方に歩いて行った。


「……すごい男だ…」


「ギャウ…」


イアンとラノアニクスは額に汗を滲ませながら、ガントレイトの後についていった。



 ガントレイトについていき、イアン達が辿り着いた。

そこは、第二拠点にもあった執務室であり、部屋も同じ広さであった。


「相変わらずですね、ガントレイト隊長」


復活したユニスが言う。

心なしか、ガントレイトとの距離が遠い。


「がはははは! いやあ、久しぶりに会ったものだからつい」


「ついで、気絶するほど抱きしめられてたまるか…ったく…」


まったく悪気の様子のガントレイトに、アントワーヌが憎々しげに呟いた。


「あんたが第四拠点の隊長だとは聞いてなかったな。それで、集落の襲撃に第四拠点の部隊がいなかったのは何故だ? 」


「あ、そうだ。あなたならば、我々の力になってくれたはず。何故ですか? 」


アントワーヌに続いて、ユニスもガントレイトに訊ねる。


「むぅ、そのことか…話は聞いている。まず、君達の窮地に駆けつけなかったことを謝る。すまなかった」


ガントレイトは、ユニス達に頭を下げた。


「それで、あの場に部隊を出さなかったのは、騎士長の指示が気に入らなかったからだ」


「小生達ごと蛮族を討て……という部分ですか? 」


ユニスがガントレイトに訊ねる。


「うむ。書く事自体おかしいだろ、あんな指示」


「だが、いいのか? バレたら、命令違反で何かしらの罰を受けるぞ」


「いや、心配無用だ、アントワーヌちゃん。その代わりの働きはしている」


「働き? 」


ユニスが首を傾げる。


「ここから西へ偵察部隊を出しまして、蛮族共が一つの集落に集まっているのを発見したんです」


「集まっている? どの蛮族がですか? 」


「全部です」


ユニスの問いに、ガントレイトが答えた。


「全部……ヤリ、ツチ、ユミの蛮族がですか!? 」


ユニスが目を見開きながら言った。


「はい。わしもそれを聞いた時は驚きました」


「ほう、第三拠点の伝令兵が言っていたのは、そのことか」


アントワーヌが腕を組みながら言った。


「ここ最近の戦闘で数が減ったから、徒党を組もうと考えたのか? 」


「奴らがそんな考えをするとは思えん。今日の焼き討ちといい、蛮族共に入れ知恵をした奴がいるだろう」


ユニスの呟きに、アントワーヌが答えた。


「わしもアントワーヌちゃんと同じ考えだ。慎重に動くべきだと思うのだがな…」


ガントレイトはそう言うと、無造作に机に置かれていた手紙をユニスに渡した。


「これは、騎士長からの……なっ、なんだと!? 」


「どうした? 何が書いてある? 」


「……明日の正午…第三、四拠点より蛮族共に総攻撃を仕掛ける…」


「なに!? ……い、いや、何か策を講じられる前に蛮族を討つ……先手必勝か! 」


「そ、そういう考えも方もあるか。しかし、既に策を用意している可能性がある。ここは慎重に行くべきでは……」


「ふむ、ユニス様もそうお考えですか。わしも同じです」


ガントレイトは、ユニスの言葉に頷いた。


「だが、全ての蛮族共が集まっているのだ。これは、奴らを一網打尽にする絶好の機会。気に入らないが、俺が騎士長だったら、同じように総攻撃を仕掛けるな」


「くっ、総攻撃は明日……これはもう覆らないか…」


「ええ…流石にこの指示には逆らえず、今も騎士達に準備をさせています」


ユニスの呟き、ガントレイトが答えた。


「それで、オレ達は何をさせられるんだ? 」


イアンがガントレイトに訊ねた。


「うむ……うぅむ、先程から気になっていたが…おぬし、綺麗だな。隣にいる緑の子も可愛らしい…」


「……」


「ギャウ? 」


イアンの表情は暗くなり、ラノアニクスは首を傾げた。


「ユニス様にアントワーヌちゃん、そしておぬしら……この部隊はなんとも――」


「そういうのいいから、早く言え。後でこの二人を紹介してやるから」


話しが進まないので、アントワーヌがガントレイトの話を切る。


「いや、紹介しなくていい……」


イアンが顔を俯かせながら、呟いた。


「おおっ! すまん、すまん。まず、ユニス様達は別働隊だ」


「別働隊……また牽制か何かでしょうか? 」


ユニスがガントレイトに訊ねる。

ガントレイトは首を横に振った後――


「我々、本隊が蛮族達と交戦している間に、集落に攻め入る。ユニス様達は襲撃部隊です…」


と、拳を強く握り締めながら答えた。




アントワーヌとユニスがいると、イアンとラノアニクスが空気になってしまう…

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