十四話 謎の巨漢
中年冒険者が放った言葉に、ガゼルが反応する。
「依頼を受けるかどうかは、あなたが決めることではありません」
「ガキが…死にてえのか? 」
中年冒険者が、ガゼルを凄む。
ガゼルは、おもむろに胸のポケットから、何かを取り出すと、それを見せつけた。
取り出したのは、[D]の文字が刻まれた鉄のプレートだった。
「Dランクか…。ガキにしては、やるな…てめぇ」
「それほどでも」
ガゼルが、プレートをしまう。
「ランクがちょっとばかし、高かろうが、ガキはガキだ。ガキと依頼なんかやってられっか! あんたからも何か言ってくれ! 」
中年冒険者は、今まで部屋の隅で、黙って腕を組んでいた巨漢に声を掛けた。
その人物は、上半身を鎧で包み、頭はヘルムで覆われて、中の表情を読み取ることはできない。
背負った剣は、その巨漢の身の丈ほどあった。
その姿は、歴戦の冒険者のようだった。
中年冒険者の声を受け、こちらに歩み寄ると―
「ランクとか、オラは冒険者とやらじゃねぇからわかんね。強いんなら子供でもいいんでねぇか? 」
「「「えっ!?」」」
巨漢の喋り方に、中年冒険者、ガゼル、タトウが驚いた。
「冒険者じゃないのに、何故ここにいる? 」
口を開けて固まっている彼らに代わって、イアンが訊ねる。
「オラは、ガジアルで騎士になるため、村から出たべ。安定した給料の騎士になって、家族に仕送りするためだぁ。ちょうど、この町来たとき、カジアルに向かう団体があるって聞いて、ここに来たべ」
「なるほど」
「なるほど…じゃねぇよ! おめぇらも冒険者じゃねぇとかいわねぇだろうな! 」
頷いたイアンを怒鳴りつける中年冒険者。
「安心しろ、冒険者だ。ランクは、E-だが」
「ロロットは、E+だ! ドヤッ! 」
イアンに続いて、ロロットも答えた。
「雑魚じゃねぇか! はぁ…タトウさんよぉ。あんた、こんな面子でいいのかよ」
「冒険者じゃない人もいれば、今時珍しい最低ランクの人もいますが、Cランク冒険者であるあなたもいるので、なんとかなるでしょう」
タトウがにっこり答えるので、中年冒険者は、肩を落とした。
「そーいえば、なんで山を通るの? 」
ロロットが唐突に、タトウに問いかけた。
「それはですねぇ…あの山には、ある宝石があると言われてましてねぇ。それが本当か確かめたく思いまして」
「ふーん」
ロロットは、興味なさげであった。
「嘘か本当か、わかんねぇ情報を信じるとは。あんた、変わった商人だなぁ」
「よく言われますよ」
中年冒険者に言葉を返した後、タトウはコホンと咳払いをする。
「では、改めて聞きます。あなたたちは、私の依頼を受けますか」
「受けます。カジアルに用があるので」
「受けるぜ。この町最強の冒険者である俺が! 」
「受けるべ。冒険者じゃねぇけどええよな? 」
ガゼル、中年冒険者、巨漢が頷く。
イアンは、考えていた。
この依頼は、危険なものである。
しかし、こういう機会がなければ、ああいった場所には近づかないだろう。
もしかしたら、精霊様の言っていた黄金の斧とやらの手がかりがあるかもしれない。
そうイアンは考えをまとめた。
ロロットに目を向けると、ふんすと鼻を鳴らし、頷いた。
「依頼を受けよう。足でまといにならぬよう、気をつける」
「アニキがやるなら、あたしもやる! 」
イアンとロロットは依頼を受けることにした。
「わかりました。では、明日の朝に北門を出たところを集合とします。全員集まり次第、出発でお願いします」
タトウの言葉で、依頼説明会は、ようやく終わりを迎えた。




