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精霊斧士 ~流浪の冒険者~  作者: シャイニング武田
七章 多様の使い手
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百四十七話 第二拠点防衛戦

幾つものこぶし大の石が蛮族の群れに向かって飛んでいく。


「ウッ―!? 」


「ギャ―!? 」


投げた石のいくつかが蛮族に命中し、当たり所の悪かった者がその場に倒れる。

騎士達は、足元にある石が無くなるまで石を投げ、その間蛮族は身動きが取れずにいた。


(そろそろ石が尽きるか……)


騎士達の足元の石を確認するユニス。

どの騎士も石が無くなりそうであった。


「よし、小生は突撃する! 」


ユニスは手綱を引き、蛮族の群れに向かって突撃した。


「では、オレ達も行くとしよう」


「ギャオ! 」


イアンとラノアニクスもユニスに続いて、蛮族に向かっていく。

投石によって、蛮族の数は四十人ほどの数まで減っていた。


「第二拠点 防衛隊長のユニスだ! 死にたい奴はかかってこい! 」


ユニスはそう声を上げながら、蛮族の群れの中に入り――


「はあ! 」


馬上から、蛮族へ剣を振り下ろしていく。


「グア―! 」


「ギィ―!? 」


ユニスの剣に切り裂かれた蛮族が、次々と地面に倒れていく。


「ウオオオオオ!! 」


そんな中、一人の蛮族がユニスに向かって、槍を突き出した。

馬に乗るユニスの側面から、馬上の彼女を狙った攻撃である。


「ふっ! 」


ギンッ!


「グッ!? 」


しかし、ユニスはその蛮族の接近に気づき、剣で槍を弾いいた後――


「ヒヒーン! 」


馬を方向転換させ、後ろ足で蛮族を蹴り上げさせた。


「――!? 」


馬に蹴られた蛮族は悲鳴を上げることなく、吹き飛んでいく。


「剣の腕だけではなく、馬術もすごいものだな」


馬に蹴られた蛮族を眺めながら、イアンが呟いた。


「ウオッ! 」


彼にも、蛮族の槍が突き出される。


「ふっ! 」


イアンは、突き出された槍を躱し、戦斧を振り下ろした。


「グアッ! 」


蛮族は、イアンの戦斧により腹を切り裂かれ、その場に崩れ落ちる。


「オウッ! 」


「オオーッ! 」


数人の蛮族がイアン目掛けて、槍を突き出した。


「くっ…これは避けるしかないな」


分が悪いと判断したイアンが後方へ跳躍する。


「ギャウ! 任せろ! 」


後方に跳躍するイアンと入れ替わるようにラノアニクスが前進。

彼女は、突き出された槍を飛び越え――


「ラノアキック! 」


一人の蛮族の顔を蹴りつけた。


「ブッ―!? 」


蹴られた蛮族は勢いよく飛んでいく。


「グゥ! ラプトルラッシュ! 」


ラノアニクスは素早く着地し、左右の腕を連続で振り始めた。


「ギッ―!? 」


「ガァ―!? 」


連続で繰り出されたラノアニクスの爪は、残りの蛮族達をズタズタに切り裂いていく。


「グッ…」


しかし、槍の柄でラノアニクスの猛攻を凌ぐ者がいた。


「ギャオウ! ラノアテール! 」


その者に対して、ラノアニクスは体を回転させ、その勢いのまま尻尾を叩きつけた。


バキッ!


「グギャ―!? 」


ラノアニクスの尻尾は、槍の柄をへし折りながら、蛮族を弾き飛ばした。


「相変わらず激しい戦いをする。しかし、攻撃一つ一つに技名があるのか……セアレウスが何か言ったのだろうな…」


イアンはラノアニクスの戦いを横目に見ながら、そう呟いた。

実際、ラノアニクスが技の名前を言ったのは、セアレウスが関係している。

ある日、セアレウスとラノアニクスは――


『ラノちゃん、技に名前をつけましょう』


『ギャウ? 名前、何故つける? 』


『格好良いからですよ! 例えば……ラノアキックと言いながら、蹴ってみてください』


『グゥ、そうか? ……ラノアキック! 』


『おお! いいですね、いい感じです! どうです、格好良いでしょう? 』


『ギャオウ! カッコイイ! 』


『その調子で色々な技を出してください。わたしが格好いい名前をつけてあげます』


『ギャーイ! 』


というようなやり取りをしていた。


「流石はユニス隊長……あの二人も本当に強かったのだな。よし、石を投げ終わった者は突撃せよ! 」


三人の戦いを見ていたヘークも号令を出した後、蛮族の群れに向かっていく。


「「「うおおおおおおっ! 」」」


石を投げ終わった騎士達も次々と蛮族に向かって突撃する。

騎士の数よりも多かった蛮族の数はみるみるうちに減少していき――


「ようし! 敵の数は残り僅かだ! 皆の者、より一層奮起せよ! 」


騎士の数が蛮族の数を上回った。


「「「うおおおおおおおおっ! 」」」


敵の数とユニスの声で、騎士達の戦意が高揚する。

その時――


「グア―!? 」


「ギッ―!? 」


「アッ―!? 」


蛮族の首に矢が突き刺ささった。

この場にいる騎士は、歩兵しかおらず弓を扱う者はいなかった。


「矢だと!? まさか…! 」


ユニスが矢が放たれた方向に目を向けると――


「フッ…」


馬上で弓を構えるアントワーヌがそこにいた。

彼女の体には傷一つ見当たらず、確認するまでもなく無事であった。


「アン! よくぞ……いや、やはり来てくれたか! 」


ユニスが目から溢れだそうとする涙を必死に堪える。


「ユニス、まだ戦は終わっていない。ここからは俺も参戦する、一気に決めるぞ! 」


「ああ! 」


アントワーヌの登場により、騎士達の戦意は更に高揚する。

その後、数分も立たないうちに蛮族達を殲滅した。


「やった……蛮族共を倒した……」


「さて、ユニス防衛隊長、騎士達が凱歌(がいか)を上げるのを待っているぞ」


アントワーヌが馬上からユニスに声を掛けた。


「……いや、この戦いに勝てたのは、アン……おまえが蛮族の半数を引きつけてくれたからだ。凱歌はおまえが上げるべきだ」


「いやいや、俺は蛮族共を引きつけただけ…ユニス達より戦っていない。なにより、防衛隊長のおまえが音頭を取らなければ、締りがないぞ? 」


「……分かった。皆の者! この戦、我々第二拠点の勝利だ! 」


「「「おおおおおおおおおおおおおおおっ!!! 」」」


ユニスによって凱歌が上げられ、平野に騎士達の雄叫びが響き渡った。



「ところで、減った蛮族はどうやって倒してきたんだ? 」


引き上げる途中、ユニスがアントワーヌに聞いた。


「いや、倒してはいない 」


「は? では、蛮族達はまだ生きているのか? 」


ユニスは、アントワーヌの言っていることが理解できず、再び問いかける。


「ああ。蛮族の数を減らしてくると言っただけで、倒すとは言っていないぞ」


「お、おい! ならば、まだ戦は終わってないじゃないか! 」


ユニスが声を上げて、アントワーヌに詰め寄る。

しかし、彼女は涼しい顔のまま――


「いや、もう終わっている頃だろう。あそこには、たくさんの騎士がいるからなぁ」


と言った。





 ――本拠点。


そこの北側にそびえる塀の手前には、多くの死体が転がっていた。

死体の多くは、鎧を身につけておらず、肌の色は褐色である。


「……」


死体の前で、ワオエアーはそれらを眺めていた。


「騎士長、本拠点の被害状況が確認出来ました」


一人の騎士がワオエアーの横に立つ。


「…言え」


「北門の損傷は軽微、負傷者二名…二名共に蛮族の投げた槍が突き刺さったようで、完治するのに数週間かかるようです」


「そうか……分かった、下がれ」


「はっ! 」


騎士はワオエアーの元から去っていく。

この日、本拠点は四十数名の蛮族の襲撃を受けた。

騎士達はすぐに応戦し、蛮族たちを殲滅。

本拠地の兵力ならば、数十名の蛮族を殲滅することは容易いことであった。

しかし、予想だにしなかった襲撃により、騎士達は浮き足立っていたのか負傷者が出てしまった。

ワオエアーは、そのことを気にしているのか浮かない表情であった。


「……ふん! 」


彼は鼻を鳴らすと、蛮族の死体刺さった一本の矢を引き抜く。

その矢は他の数本の矢と違って、安っぽい作りをしていた。


「ガキだと思って、甘く見ていたか……やってくれる」


バキッ!


ワオエアーは手に持った矢を握りつぶした。


「あのガキ共の中にキレ者……いや、愚か者がいるようだな。今日生き残れたところで、次はどうなるかわからんぞ? 」


彼は視界の奥に映る第二拠点を見据えながら、そう呟いた。





 ――数時間前。


アントワーヌは、蛮族がいるソルフーンス山脈を目指し、馬を走らせていた。


「ほう、本当に百人程いたのだな」


彼女の視界に、蛮族達の姿が映った。

アントワーヌは矢筒に入れていた弓と矢を取り出す。


「さて、何人がこちらに来てくれるかな? 」


構えた弓に矢をつがえ、蛮族の一人に向かって矢を放った。


「ウッ―!? 」


矢は蛮族の首に刺さる。


「オウッ!? 」


急に仲間が倒れ、蛮族達は慌てふためきだした。


「はっははははは! 殺ったのは俺だぞ? 悔しかったらここまで来い! 」


「オオーッ!? オーっ! オーッ! 」


アントワーヌの存在に気づいた蛮族の一人が、彼女に向かって指を差す。

それによって、周りの蛮族達も気づき――


「「「ウオオオオオオッ!! 」」」


アントワーヌに向かって駆け出した。


「そうら! こっちだ、こっちだ! 」


アントワーヌは、蛮族達が追いつけそうで追いつけない絶妙な速度で馬を走らせる。

蛮族達はそれに気づかず、アントワーヌを追っていく。


「そら! そら! 」


馬上で、アントワーヌが追いかけてくる蛮族に矢を放つ。


「グッ…! ウオオオ! 」


矢は、ほとんど当たらず、当たったとしても致命傷になる所には当たらなかった。

これもアントワーヌの思惑であり、蛮族達が自分を追い続けるための行いであった。


「平野に出たか。ついてきたのは……五十くらい。よしよし、思ったよりも多いぞ」


後ろに走る蛮族を眺める、アントワーヌの頬が吊り上がる。

そして、アントワーヌは目的の場所に着き、馬の足を止める。


「ウオッ!? ウオオオオオオ!! 」


いつまで経っても追いつけず、諦めかけていた蛮族達だが、アントワーヌが止まったことで、再び勢いがつく。


「はっ、単細胞め。目の前にあるものが見えんのか! 」


アントワーヌは、自分に向かってくる蛮族達に対してそう吐き捨て――


「じゃあ、後は頼んだ! 」


ギリギリまで蛮族達を引きつけた後、馬を全速力で走らせた。

アントワーヌが振り返ると、本拠地の塀の前で立ち尽くす蛮族達の姿が遠くに見えた。

しばらくすると、蛮族達は本拠地の門を壊しにかかった。


「はっはははは! はっはははは! 」


その様子を見たアントワーヌは、走る馬の上でいつまでも笑い転げていた。

アントワーヌは、第二拠点に攻めて来るであろう蛮族の半数を本拠点に押し付けていた。

これが、彼女の思いついた策―― 否、悪巧みであった。




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