表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/355

百三十二話 大王の盾

密林を駆け抜け、イアンは駐屯基地の入口に辿り着いた。


「壁が壊れている。さっき倒した化物程の大きさの奴が来たのか」


そこから基地の様子を見ると、壁の一角が壊されているのが目に入った。

木で作られてはいるが、頑丈に作ったはずである。

それが無残にも破壊され、化物の通り道になっていた。


「ああああああああ!! 」


基地の中から男性の叫び声が聞こえてきた。

声の勢いから、決死の覚悟で攻撃をしようとしているのではないかと、イアンは感じた。


「今のは……ミーク? 」


それと同時に、その声はイアンが聞き覚えのある声であった。


「ぐあああああ!! 」


イアンが基地の中に入ると、ミークが吹き飛ばされ、地面をゴロゴロと転がっていた。


「ミークさん! 」


周りの騎士達がミークの名を叫ぶ。


「ミーク! 」


イアンが地面に横たわったミークに駆け寄る。


「おい、ミーク! しっかりしろ! 」


「くっ……イ…イアンさま……」


ミークがイアンに気づき返事をする。

返事はするが、イアンに顔を向けることはなかった。

全身を強く打ち付け、体が動かなくなっているのである。


「す…すみません……ですが、これで……おれ達の……勝ち…」


「何故こんな無茶を……セアレウスはどうした? 」


「セ……セアレウスさまは……連れ去られたラノアニクス…ちゃんを…」


「追いに行ったか……おまえ、強がって先に行かせたな? 」


イアンはミークを責めるように言った。

セアレウスがミーク一人を置いて先に行くとは考えられなかった。

そこで、ミークが一人で大丈夫だとでも言い張り、無理やり追いに行かせたのだとイアンは考えた。


「…へへっ……」


ミークは笑ってイアンに答えた後、瞼を閉じた。


「……馬鹿なやつだ。急ぎたい気持ちは分かるが、無理をすることはなかっただろう……だが」


イアンは立ち上がり、腰のホルダーから戦斧を取り出した。


「おまえの頑張りは無駄にはしない。ゆっくり休んでくれ…」


ミークに背を向け、イアンは前方に佇む巨体に目を向けた。


「ほう、先程の青い髪の小娘に似ているナ。今度の相手は貴様カ? 」


巨体は、飛んできた虫を見るように、イアンを見下ろしていた。




 その巨体は、鈍色をした鎧に身を包んでいた。

左手に彼の身長程の大きな盾を持ち、もう一方の手には鉄製の棍棒が握られている。

グレート将軍と同じ背丈ではあるが、こちらの巨体は鈍重そうな印象を受ける。

頭部の兜の隙間から、Y字の角が突き出していた。

サイのような頭の形をしている。


「初対面であるカ。ならば、名乗ろウ。我は、スチルモス将軍」


「……イアンだ」


「その男の仲間だということは、別の陣地から来た者カ……いや、逃げてこちらに来たのカ」


「救援に来た。お前の仲間の…剣を二本使う奴はもう倒したぞ」


「グレート将軍ヲ? ほウ……矮小な人間共に敗北するとは、長く眠り過ぎて腕を鈍らせたカ…」


スチルモス将軍は、頭を振る。

先に倒れたグレート将軍に呆れている様子であった。


「イアンさん」


騎士がイアンに駆け寄る。


「あの敵は見た目通り硬く、生半可な攻撃は通用しません。私達の攻撃では、あいつにダメージを与えることすらできませんでした…」


「なに? では、あそこの部分のへこみはなんだ? 」


イアンがスチルモス将軍の腹辺りに指を差す。

そこの部分の鎧が若干へこんでいた。


「あっ! 本当ですね。恐らく、ラノアニクス…さんとセアレウスさんによるものでしょう」


「ほう……」


「さて、そろそろ貴様を叩き潰すとしよウ…」


スチルモス将軍が、僅かに地面を揺らしながらイアンを目指して歩き始める。


「来たか……騎士達は少し離れていてくれ。あと、こいつを安全な場所に運んで欲しい」


「分かりました」


騎士はそう言うと、ミークを抱えて宿営所へ向かった。

イアンは騎士がミークを運ぶ姿を少し見た後、スチルモス将軍目掛けて駆け出した。

一直線に走って跳躍。

スチルモス将軍の顔に戦斧を振り下ろした。


ガッ!


イアンの振り下ろした戦斧は、巨大な盾に阻まれてしまう。


「フフフ、何の捻りもない攻撃が、通用すると思ったカ? 」


スチルモス将軍は盾を横に振るい、イアンを弾き飛ばす。


「くっ……」


イアンは受身を取り、体勢を立て直しつつ顔を上げると――


「ウオオッ!! 」


スチルモス将軍が棍棒を高々と振り上げていた。

そのまま振り下ろすと思い、イアンは横へ跳躍する。


「ヌゥン!! 」


「…!? ぐっ…! 」


しかし、スチルモス将軍は棍棒を横へ薙ぎ払った。

イアンは咄嗟に戦斧を盾にしたが、そのまま殴り飛ばされてしまう。


「いい反応をすル…」


「ちぃ……」


イアンは戦斧で地面を削り、吹き飛ばされた勢いを殺して地面に着地した。


「盾と硬い鎧が厄介だ。オレの攻撃でも通用しない気がする……」


そう言いながら、イアンは戦斧を左手に持ち替えた。


「なら、雷撃ならばどうか」


イアンは、再びスチルモス将軍へ一直線に向かっていく。


「またカ、学習の無いやつダ」


スチルモス将軍は、イアンの攻撃に備えて盾を構える。

しかし、イアンの足が止まることはなかった。


「ふん! 」


イアンは右手を伸ばし、スチルモス将軍の盾に触れる。


「…? なんダ? 今、攻撃をしたのカ? 」


あまりにも弱い衝撃に、スチルモス将軍が首を傾げた瞬間――


「リュリュスパーク!! 」


パリッ!


イアンの右手から雷撃が放たれた。

雷撃は盾の表面を走り――


「グウッ!? 」


スチルモス将軍の左手に伝わった。

一瞬の雷撃ではあったが、スチルモス将軍の左手にダメージを与えることができた。


ドッ! ガシャアン!!


スチルモス将軍の左手は痺れ、盾を手放してしまう。


「ここだ! 」


イアンは素早くスチルモス将軍の懐へ入り、戦斧を右手に持ち替え、思いっきり振りかぶる。


ゴッ!!


振り回されたイアンの戦斧はスチルモス将軍の腹の辺りに命中し、へこんでいた部分を更にへこませる。


「グゥゥ……オノレ! 」


スチルモス将軍は、右手に持つ棍棒を振り回し、イアンを殴り飛ばそうとする。


「もう一撃くらい入れたかったが…」


イアンは後方へ跳躍し、スチルモス将軍の棍棒から逃れる。


「貴様…能力を使って我の左手に何かをしたナ……いや…これが、大王様の言っていた魔法なのカ…」


スチルモス将軍の左腕は動くが、指は動くことはなかった。


「とりあえず、盾はもう持てんだろう。あとは、棍棒と鎧か…」


イアンは距離を取り、スチルモス将軍を見据える。

棍棒を振り回しており、鎧のへこみに気づいているらしく、自分の腹に警戒をしている様子であった。


「流石に気づかれているか……む! 」


「ウオオオオッ! 」


イアンが考えていると、スチルモス将軍が突進してきた。


「盾がないから、もう守らないのか。厄介だ」


イアンは横へ思いっきり飛んで、スチルモス将軍の突進を躱す。


「ヌウ!? 逃がさン! 」


躱されたことに気づいたスチルモス将軍はすぐに方向転換し、イアン目掛けて棍棒を振り下ろす。

イアンに躱されても、棍棒を振るうのをやめず、スチルモス将軍はひたすら棍棒を振り回し続けた。


「凄まじく攻撃的になったな。これでは奴に通用する攻撃を考えている暇など…」


イアンは攻撃を避けるべく、スチルモス将軍の棍棒から目を離さない。


「……いや、そうか! あるではないか、こいつに通用する武器が! 」


そのせいか、イアンはスチルモス将軍を倒す術を思いついた。


「さっきからゴチャゴチャと、何を考えていル! 」


「お前を倒す策だ」


イアンはスチルモス将軍へそう返すと、戦斧をホルダーに戻した。

スチルモス将軍はイアンのその行動に眉をひそめたが――


「知るものカ! 直ぐに叩き潰してやル! 」


イアンの思惑ごと叩き潰すつもりで、棍棒を振るい続ける。

棍棒を振るい続けるスチルモス将軍に対し、イアンは真上に跳躍した。

その時、スチルモス将軍の棍棒は地面に振り下ろした状態であったため――


「ウラアアアアア!! 」


イアンは吹き飛ばそうと、棍棒を振り上げた。


「単純だ。こうもうまく乗ってくれるとはな」


「……!? 」


イアンは迫り来る棍棒を踏み、右手を腰のホルダーへ伸ばす。

棍棒が振り上がるのと同時に跳躍し――


「そらっ! 」


右手に持った鎖斧を棍棒目掛けて放った。

鎖斧は棍棒に巻きつき、それを確認したイアンは――


「サラファイア!! 」


両の足下から炎を噴射させて、上空に飛び上がった。


「グッ!? なにィ!? 」


鎖斧が巻き付いた棍棒が上空に引っ張られ、スチルモス将軍の手から棍棒が離れていった。


「重くて良い武器だな。これならお前を倒せるだろう」


上空で棍棒を掴んだイアンがそのまま急降下し始める。


「ほざくナ! 自分の武器に殺られるほど、愚かではなイ!! 」


スチルモス将軍は棍棒を受け止めるべく、両手を広げようとしたが――


「ヌウッ!? しまった、まだ左腕が動かン」


左腕に痺れが残っており、焦るスチルモス将軍。


「サラファイア!! 」


追い打ちを掛けるように、イアンはサラファイアで落下速度を上げた。


「ヌオオオ――ブッ…ガアアアアアアアアア!! 」


棍棒はスチルモス将軍の頭に落下した。

落下にサラファイアの勢いを加えたため、破壊力は凄まじく、スチルモス将軍の首下まで棍棒がめり込んだ。


ドオオオン!!


スチルモス将軍が仰向けに倒れる。


「ふぅ……何とか倒すことができたな……」


イアンはスチルモス将軍の体から離れた後、地面に腰を下ろした。

棍棒を躱し続けていた時の疲労が、イアンの体にどっしりとのしかかってきたのである。


「イ、イアンさん、結局一人で倒されましたね…」


騎士に一人がイアンの元に駆け寄る。


「ああ…すまん。どこかで手助けを頼もうかと考えていたが……いや、おまえ達の力を借りるほどでもなかった」


イアンは息を荒げながら、騎士に笑って答えた。


「は、ははは…」


目に見えて無理をしているイアンに、苦笑いを浮かべる騎士。


「うおーーい! イアンくーーん!! 」


そこへ、ベティが大声を出しながらイアンに駆け寄ってきた。


「なんだベティ。無事だったのか…はぁ…」


イアンが残念そうにため息をついた。


「なんか言い方おかしくない!? 」


「そんなことはない。で、どうした? どこか怪我……はなさそうだな。問題ないように見えるが…」


「問題ありありだよ! さっきまで、でっかい虫みたいな奴に襲われて、気絶してたんだもん」


「虫みたいな奴? 」


「恐らく、ラノアニクスさんを攫っていった化物と同じ奴でしょう」


首を傾げるイアンに、騎士が答えた。


「それで! 私の蜜結晶がそいつに持ってかれたっぽいの! うわあああああん!! 」


腕で顔を覆い、嘘泣きを披露するベティ。


「……」


「……」


そんなベティに、イアンと騎士は微妙な顔をする。


「…いや、待てよ。持っていったとすると、何故持って行く必要があるのだ? 」


「え? 分かんない。綺麗だから持っていったんじゃないの? 」


「そうか? 虫のような化物はおまえの所に行き、ラノアニクスを攫った。奴ら、オレ達の知らないことを知っているんじゃないか? 」


「深読みしすぎじゃない? それはそうとセアレウスちゃんまでいないけど」


「なっ…しまった! そいつを今、セアレウスが追っていたのだ! 」


イアンは慌てて立ち上がり、基地の外へ目指そうとするが――


「……セアレウスがどっちに行ったか知らないか? 」


向かった方向が分からず、騎士に訊ねた。


「北の方に向かってました」


「分かった。今から、あいつの元に向かう。ダイムブラムが来たら、そう伝えておいてくれ」


「分かりました」


イアンは今度こそ、基地の外を向かった。

一人で、最後の忠臣を追うセアレウスの元を目指して。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ