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百三十話 大王の剣

朝、太陽が昇りネアッタン島を明るく照らす。

空に浮かぶ雲の数は少なく、良い天気と言える空模様であった。

しかし、それとは裏腹に王国の基地に建つ宿営所の中、特に会議室は重々しい空気に包まれていた。

いよいよ、明日がバルガゴートの動く日であり、ダイムブラムを始め冒険者であるイアン達もその対策に頭を悩ませていた。


「基地の防衛設備の補強は、今どんな感じ? 」


「基地の強化はもうじき完了とのことです」


「うん。当日の配置はみんなに伝えた? 」


「はい。騎士の配置も確認済みです」


「うん。具合悪い人いる? 」


「いえ、今のところ、騎士の中に体調不良の者はいません」


「うん。うーん…もうなんか、やりきった感じがあるなぁ…」


騎士達の報告を受けるダイムブラム。

状況を確認した彼は、騎士達に指示することは無いと判断した。


「分かった。あとは残りの仕事を頑張るよう言ってきて」


「「「はっ! 」」」


ダイムブラムに報告した騎士達が会議室を後にする。

騎士達が会議室を出た後、イアンが口を開く。


「基地を強化はいいのだが、ここで戦うつもりなのか? 」


「他に広い所が無いからなぁ。できれば、ここは最後の砦にしたかったよ」


ダイムブラムがイアンに答える。


「なら、仕方ないな……そういえば、ジークネイトの姿が見えないが? 」


「ジークは今、帝国の駐屯地に偵察に行ってるよ。昼には帰ってくるんじゃないかな? 」


「…? ジーク? 」


セアレウスが首を傾げた。

今のダイムブラムの発言に、疑問を持ったのはイアンも同様であった。


「ジークネイトに行かせたのか……部下のように扱うな…」


「だって、部下だし……あ、言ってなかっったね。ジーク…ジークネイトは昨日からオレの部下だよ」


ダイムブラムは軽く言ったが、ジークネイトは軍の所属を変えたことになる。

つまり、もう彼女はヴォリン帝国の人間ではなく、フォーン王国の人間になったのだ。


「え!? それって亡命……けっこう重要なことでは!? 」


「セアレウスの言うとおりだ。いいのか? 」


セアレウスが驚き、イアンがダイムブラムに訊ねる。


「うん、彼女本人が決めたことだし、色々溜まってたみたいだよ、あいつ」


「溜まっている……他の兵士に疑われたことか? 」


「それもあるだろうけど、今のヴォリン帝国の体制に不満だったらしいよ。ま、帰ったらそれなりの罰を受けるかもしれないし、オレは亡命して正解だと思う」


「そうか……色々あるのだな」


イアンはジークネイトの心情を推し量ることができず、そう呟いた。


「私のことを案じてくれているのは嬉しいが、心配は無用だ」


その時、栗色の長い髪を揺らしながら、王都騎士の服を着た女性が会議室に入ってきた。


「よう! 早かったな、ジーク」


「はい。ダイムブラム隊長、ただいま偵察の任から戻りました」


その女性はジークネイトであった。


「うーん…そう畏まんなくても……まあ、いいか。で、どうだった? 」


「もぬけの殻でした。どうやら島を脱出したみたいです」


「やっぱりか。国に戻って、小隊長とやらをフォーン王国(オレ達)が殺したって報告されたらまずいな」


ダイムブラムは、手紙を書き出した。


「何を書いているのだ? 」


イアンがダイムブラムに訊ねる。


「信用できる貴族の方に、何とかしてくださいってお願い。あと、ジークネイトが亡命したことも書いておこう」


「何とかなるのか? 」


「頭のいい方だから何とかしてくれるよ……よし、できた。これをハトで送ってくれ」


「はっ! 」


手紙を包みに入れ、ダイムブラムは兵士に包みを渡した。


「これで国家間のいざこざは気にしなくていいぜ。いやー、フルーファス様と知り合いで良かった」


ダイムブラムが額の汗を拭う仕草をした。


「で、これからなんだけど、帝国の駐屯基地があった場所に基地を作ろうと思う。行くのは、オレとジークと……イアン君と騎士数人で」


「わたし達はここで待機ですか? 」


セアレウスがダイムブラムに訊ねた。


「セアレウスちゃんとイアン君は遠く離れていても会話ができるから、ここに残ってほしい。そんで、ラノアニクスちゃんとミーク君には戦力的に考えてここで待機。オレ達は作った基地に居座るつもりだから、よろしく」


「俺はイアンさま達とは違ってあんまし強くないけど、頑張りますぜ」


「守る、任せろ」


ミークとラノアニクスは頷いて、ダイムブラムに答えた。


「よし、早速出発しよう。みんなで、フォーン王国に帰るぞ! 」


「「「「「おおっ! 」」」」」


こうして、ダイムブラムは騎士を率いて出発した。

帝国の駐屯基地跡に着き、基地を築くために各々が行動する。

ダイムブラムが指揮を執り、ジークネイトはその補佐を行う。

イアンは、木を切り倒し、木材の調達を主に行った。

着々と基地は出来上がっていき、日が暮れる前に基地は完成した。

小規模ではあるが、高く分厚い柵で覆われており、なかなかの防御力を持つことができた。

その間、待機しているセアレウス達は戦いに備えて、各々がやるべきことをしていた。

そして、夜が明け――


「日が昇りました。大王様、よろしいですか? 」


遺跡が広がる山の上で、宰相と呼ばれた巨体がバルガゴートに訊ねた。

巨大な岩に腰掛け腕を組むバルガゴートは頷き――


「行け。そして、今の世界の戦士がどの程度か確かめてこい」


「御意! 」


「はっ! 」


二体の巨体がバルガゴートの前で跪く。


「頼んだぞ…スチルモス将軍、グレート将軍」


バルガゴートのその言葉を合図に二体の巨体は山を下っていく。


「して、マリカリウス宰相よ。おまえは何をする? 」


「ここ一帯を探索している時に、我々が作ったものとは違う…遺跡でしたか? それがありまして」


マリカリウス宰相はゆっくりと上体を起こした。


「そこの奥に大王様が探していたとされる物の痕跡がありました。恐らく、それは騎士達の元にあるのかと思われますゆえ、探ってまいります」


「ほう、あれはこの島にあったか! 分かった、見つけ次第わしに届けろ」


「仰せのままに…」


マリカリウス宰相は、地面を這いながら山を下り始める。


「待て、マリカリウス宰相」


バルガゴートはマリカリウス宰相を呼び止めた。

マリカリウス宰相は、上体を起こして振り返る。


「あれを持ってくる際、できれば蜥蜴の尻尾を生やした小娘を連れてこい」


「小娘……一体何をするつもりで? 」


「あれの力を増幅できるかもしれん。断言はできんがな…」


「左様ですか…見かければ攫ってきましょう」


マリカリウス宰相はそう言うと、山を下っていった。


「……もし、あの小娘が本物ならば、わしはとてつもなく天に恵まれていることになるか…」


バルガゴートは、眼下に広がる密林を眺める。

彼の座る場所からは、昨晩イアン達が築いた基地が見え――


ドォン!!


早速、戦闘が始まっていた。





 「退避! 全員化物から離れろ!! 」


ダイムブラムの怒号により、騎士達が蜘蛛の子を散らすように走り去る。

この退避行動はダイムブラム率いる部隊特有の号令であり、常人では対処できない場合を想定して作られた。

この時初めて使用された号令ではあるが、騎士達はしっかり行動した。


「ちっ! バラバラに逃げやがって…」


二対の巨大な剣を持つ巨体が、走り回る騎士達を見て顔をしかめた。


「そのまま待機! イアン君とジークネイトも含めて、オレの言うまで回避行動以外何もするな! 」


ガキィン!


ダイムブラムがイアンや騎士達に指示をしながら、巨体に剣を振り下ろした。

巨体は一本の剣で、ダイムブラムの剣を受け止めた。


「ようよう、お前がここの将軍かい? 」


「そう…だがっ! 」


ダイムブラムが競り合うのをやめ、後ろに跳躍する。

その瞬間、巨体のもう片方の剣がダイムブラムのいた場所を通過していった。


「おおっ! なかなかやるねぇ」


攻撃を外したにも関わらず、巨体は楽しげに笑った。


「ダイムブラム、オレも援護したほうがいいのでは? 」


跳躍し、後ろに下がってきたダイムブラムにイアンが訊ねた。


「いや…まだ動かないでくれ。ジークもだ」


「……はい」


ジークネイトは構えていたクロスボウを下ろす。

ダイムブラムは頑なに一人で戦おうとしていた。


「ダイムブラム将軍殿ぉ、一人で戦わず、みんなで戦ったほうがいいんじゃないですかぁ~」


巨体が挑発するように、ダイムブラムに言った。


「うるせぇ、こっちの考えもあんだよ! あと、オレ将軍じゃねぇし! 隊長だし! 」


ダイムブラムが巨体に指をさしながら言い放った。


「隊長か。そりゃ悪かったね」


「なんだこいつ…調子狂うなぁ……」


ダイムブラムは頭を掻いた。

この巨体は突然、上空から基地の中に侵入してきた。

幸い、近くに誰もいなかったため、現在負傷者はいない。


「おたく、バルガゴートの部下ってやつか? 」


「おおっ! うちの大王様の名前を知っているのか! 嬉しいねぇ」


ダイムブラムの問いに、巨体が嬉しそうに答えた。

巨体から生える尻尾がゆらゆらと揺れ動く。


「じゃあ、俺の名前も覚えて欲しいねぇ。俺の名前はグレート。グレート将軍と呼んでくれ」


グレート将軍は、二本の剣を構えた。

彼の頭部は虎のようで、頭の上に耳があり、口から生える長い牙が特徴的であった。

身長は、二メートル半ほどあり、彼が持つ二本の剣も同じくらい長かった。

革製の鎧を身に付け、虎のような顔立ちから身軽そうな印象を受ける。


「グレート将軍か……確かあいつは、三人の忠臣がいるって言ってたか。こんなやつがあと三人もいんのかよ」


「へぇ、あと二人いることも知っているんだ。ちなみに、一人は別の方に向かったよ」


「こりゃ、基地を増やして正解だったか。こんなの二体も相手にしてらんないからな…」


「もう一つ言うと、最後の一人は何をしているか分かんないねぇ……本当だよ」


「ちくしょう! それは聞きたくなかった。気になってしょうがねぇ」


ダイムブラムは吐き捨てるように言い放った。

三体目がどこにいるか、いつ襲って来るかが気になり、戦いに集中しにくくなったのだ。


「ギャハハハ! 今の相手は俺だよ? ちゃんとしないと――」


グレート将軍は片方の剣の切っ先をダイムブラムに向けた。


「死んじゃうぜ? 」


そして、陽気だった今までの彼とは違う表情を見せる。


「へっ! 言われなくてもやるっての! お前を倒して、バルガゴートを倒すまでな! 」


ダイムブラムは、剣を振り上げながらグレート将軍に向かっていく。


「そうこなくちゃ! よっしゃ、久しぶりの……殺し合いだああああああ! ガルアアアアアアアアア!! 」


グレート将軍もダイムブラムに向かっていき――


キィン!


再び、彼らの剣がぶつかり合う。。

両者共に、この戦いが久しぶりの真剣勝負であった。




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