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百二十一話 到着 ネアッタン島

ノールドの港から船に乗って三日。

太陽が真上を通過する中、未だにイアン達は海の上にいた。

バイリア大陸からネアッタン島まではかなりの距離があり、到着するにはあと数日かかる。

ここまで、イアン達が順調に航海をしているかというと、そうでもなかった。


「ギョエエ!! 」


魚の姿をした魔物が海面から飛び上がる。

その魔物はただ飛び跳ねたのではなく、船の上にいる人間に食らいつこうとしていた。


「はっ! 」


人間が、手にした戦斧を横薙ぎに振るう。


「ギョワ――!! 」


魔物は戦斧に切り裂かれ、海に沈んだ。


「……ふぅ」


戦斧を手にした人物――イアンは戦斧を持つ腕を下げ、一息ついた。

彼らは今、魔物に襲われていた。

海に生息する魔物は、小型の船を標的にする。

その理由は、小型の船の大半は甲板が低く、海面から飛び上がれば、そこにいる人間を襲えるからだ。

イアン達が乗っているのは漁船であり、小型の船に分類されている。


「おりゃあ! 」


ピシィ! ピシィ!


「ギョエ―!? 」


「ギョア―!? 」


ミークが二本の鞭を巧みに操り、飛びかかる魔物を叩き落としていく。


「やあ! 」


「ギャウ! 」


セアレウスがアックスエッジで、ラノアニクスが爪で魔物を引き裂いていた。

戦える者は皆、襲いかかる魔物を蹴散らしており――


「みんな、がんばれ~」


「流石冒険者殿。次々と魔物共が海に沈んでいくわい! 」


戦う力の無いベティと漁師の男は彼らを応援していた。

この漁師の男は船を運転し、イアン達をネアッタン島まで連れて行くことをベティに依頼されていた。

ネアッタン島は無人であり、未開拓の島である。

そこに停泊する連絡船は無く、こうして誰かに頼まなければ辿り着くことができないのだ。


「もう少し、でかい船ならな……」


こんな苦労はしなかっただろう――という言葉を飲み込み、イアンは襲いかかる魔物に備えて戦斧を構える。

このように航海の途中、魔物に襲われることが度々あった。

幸い襲いかかる魔物は小物ばかりで、別段苦戦することはなかった。

そんな日々が数日続き、イアン達はようやくネアッタン島に辿りついた。

イアン達は船から降りて砂浜に立つ。

目の前は木々が生い茂っており、この島の大半が密林であることが分かった。


「じゃ、また一ヶ月後な」


「はーい! よろしくねー! 」


ベティが、島の砂浜かれ離れてい漁船に向かって手を振っている。

そんな彼女の元に、イアンが近づいていく。


「おい……今、聞き捨てならないことを耳にしたのだが…」


「え? 何が? 」


目の前に立つイアンに、首を傾げるベティ。


「帰りが一ヶ月後だと? そんな話し聞いていないぞ」


「あれ? 言ってなかったっけ? 」


「はい。てっきり一週間くらいかと思って、荷物もその分しか持ってきてません」


二人の会話を耳にしたセアレウスが、砂浜に積まれた数個の麻袋に視線を向ける。

その荷物はイアン達が準備したものであり、その中には一週間分の食料があった。


「ベティさんも荷物が少ないので、今日まで疑問に思いませんでした…」


「だって、重いもん! 」


「はぁ……自前に言ってくれれば、何とかなったかもしれんのに…どうします? イアンさま」


ガックリと肩を落とすミーク。


「どうするか…か。この一週間分の食料で一ヶ月持たせるしかあるまい。それか、この島で食えるものを探そう」


「うんうん! なんとかなるって! 」


「……」


他人事に思っているのか、明るいベティ。

彼女の様子にイアンが呆れていると、近くにラノアニクスがいないおとに気づいた。

周りを見回せば、少し離れた砂浜にラノアニクスが立っていた。

彼女は砂浜に立ち、目の前の密林に目を向けていた。


「どうした、ラノアニクス? 」


ラノアニクスの元に向かうイアン。

イアンが声を掛けても、ラノアニクスが密林から目を離すことはなかった。


「……もしや、ここがおまえの故郷なのか? 」


「…………違う」


イアンが声を掛けてからしばらくした後、ようやくラノアニクスが答えた。


「ふむ、そうか……なぁ、おまえは、あの船に乗せられる前はどうしていたのだ? 」


ふと、自分と出会う以前のラノアニクスが何をしていたか気になった。


「……分からない。気づいたらあの船にいた」


「…? 故郷で暮らしていた時のことを聞いていたのだぞ? 」


「覚えていない。故郷…があんな感じだったことしか、ラノは知らない」


ラノアニクスが密林に指を差す。

イアンは密林に目を向けた後、ラノアニクスの顔を見た。

密林を見る彼女は無表情であり、イアンが彼女の無表情を見たのは初めてだった。






 その後、砂浜の一角に布を張り、簡易的は小屋のようなものを作った。


「これは……これに似た物をミッヒル島で見たことがあるぞ」


「ん? テントを見たことがあるの? イアンくん」


「テント? これはテントと言うのか」


「うん、そうだよ。こうやって、外に泊まる場所を作る道具なの。テントを住居にする民族も多くて、イアンくんが見たのも恐らくテントの一種なんでしょうね」


(ふむ……こういう時は真面目になるのだな…)


ベティの説明を聞きながら、イアンはそう思っていた。


「さてと、テントも張り終わったし、探索を始めたいんだけど…テントに人を残しておきたいんだよね…」


「ふむ、二組に別れるか」


「うん…私と探索する人とテントに残る人の二組かな。組み合わせはイアンくんに任せるね」


「分かった。少し待て」


イアンはどういう組み合わせにするか考える。

しばらく考えた後、イアンは結果を伝えるために口を開いた。


「では、オレとラノアニクスがベティに同行しよう。セアレウスとミークは残っていてくれ」


「はい」


「分かりました! 」


セアレウスとミークが返事をする。

イアンは二人が了承したのを確認すると、隣にいるラノアニクスに顔を向けた。


「冒険者ではないおまえは、依頼に参加する必要がないのだが……すまんな、手伝ってくれないか? 」


「……分かった、イアンについていく」


ラノアニクスは頷いた。


「助かる。セアレウス、こっちに来い」


「はい、兄さん」


イアンに呼ばれ、セアレウスが彼の元に向かう。


「何かあれば連絡し合おう。通信のやり方は知っているな? 」


「通信……? 」


セアレウスは首を傾げた。


「むぅ、知らないか……まぁ、そうか。通信というのはな……」


イアンが通信について、セアレウスに説明する。


「……というものだ。妖精の要素を持っているおまえならできる……はず」


「はぁ、そんな方法があったとは…早速、試してみます! 」


セアレウスはそう言うと目を瞑り、体に力を入れているのかプルプルと震えていた。


(兄さああああああああん!! )


「……!? 」


しばらくすると、イアンの頭の中でセアレウスの叫び声が響いた。

そのせいで、イアンの頭はズキズキと痛み出す。


(……心の中で叫ばなくても聞こえるぞ)


痛む頭を押さえながら、イアンはセアレウスに声を送る。


(あ…すみません…)


セアレウスは目を瞑ったまま頭を下げた。


(とはいえ、出来ることは確認できたな。あとは、目を瞑らなくても出来るようなるといいのだが…)


(はい……がんばります…)


(よし、通信をやめるぞ)


イアンはセアレウスとの通信をやめる。


「…はっ!? 」


その瞬間、セアレウスの目がパッと開かれた。


「今のが……通信…」


「そうだ。何かあれば、さっきの…心の中で叫ばずに、オレを呼べばいい」


「分かりました」


「イアンくん、終わった? 」


セアレウスに通信を教え終わった後、ベティが声を掛けてきた。


「ああ。では行くとするか」


「じゃあ、出発~」


「ギャオ」


イアンとベティ、ラノアニクスの三人が密林の中に足を踏み入れていく。


「さて、どうしますか? ラノアニクスさま」


三人を見送った後、ミークがセアレウスに訊ねた。


「そうですね……三人が帰ってきた時のために食料を調達しときたいですね。テントから遠くい行かないよう、こちらも探索しますか」


「分かりました! 」


こうして、イアン達のネアッタン島の冒険が始まった。

彼らは、この島に自分達以外の人間がいるとは知らないが――


(あ…そういえば、あのジジイもこの島に来てるんだっけ? )


ベティだけは、この島にビルトランという学者が来ていることを知っていた。

しかし、他の団体――ヴォリン帝国の部隊がいることは知らなかった。





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