美少女老婆
エルフって種族は長命らしい。
いや、らしいって言うのは自分がそこまで長生きできない人間だからなんだけど。
でもって、その血が入った種族……ハーフエルフも同じく長命なんだよな。
「ちょ、ちょっと何よ! 人がスープの入ったスプーン持って待ってるんだから、大人しく口開けなさいよ!」
……そう、俺の目の前で食器とスプーンを持ってリア充爆発せよと周囲に叫ばれそうな光景を俺にさせようとしている金髪ツインテールの美少女ハーフエルフ、年齢的には300歳を超えた婆さんだ。
これが外見相応の純粋な17~8歳ならともかく、目の前の相手は精神的には300歳を超えた超がつくほどのお婆さんなのだ。
なまじ外見だけツンデレ美少女のテンプレ的な金髪ツインテール、そして透き通った青色の綺麗な目だけに質が悪い。
ちゃっかり出るとこも出ているし、外見だけで言うなら文句なしの美少女なのは確か、なんだ。
だけど――――。
「お、お前な……自分の年齢考えろ……。いくら見た目が美少女でも、お前は……」
「何よ! べ、別に見た目が若かったら問題ないでしょ!? ほら、あーん!」
……どう反応すればいいんだろうか?
確かに、見た目だけを見るなら彼女は美少女その物で、そんな美少女に食べさせてもらう光景は一見しただけなら最高レベルの物なのは確かだ。
だけど、いかんせん中身が中身だけに、どうも素直に喜べない。
いやまあ、こいつが奪ってるのは俺の今日の昼飯だから大人しく食べるしかないんだけど……。
「何よ……そんなにあたしに何かされるのが嫌な訳?」
「だから、実年齢とあまりに合わないその中身があんまりにも複雑すぎて……」
ずいっとテーブルに身体を乗せてこっちを睨んでくるツンデレ美少女(ただし中身は老婆)。
正直、こいつの事が嫌いというわけじゃない。
けれど、余りに年の差も凄かったし、最初からそう言う対象として見てなかっただけ。
俺の祖父の祖父の辺りから生きてるわけだし、敬遠してもおかしくない。
そう思ってる俺は別に不自然にはならない、はずだ。
「偏見よそんなの。そんなこと言ったって、どうせ皆外見と行動と口調しか見ないじゃない」
「む……」
彼女の言う事は確かにもっともな意見だ。
実際、年齢なんて本人が正直に言ったりしなければいくらでも誤魔化せるし、口調や行動、表情と反応で年齢を推測したりするわけだしな。
しかし、年齢の事を知ってしまうとどうにも複雑な気分になる。
人間では想像もできないくらいの長生きをしている種族なのは分かっているし、それが自然だとも分かってはいるのだが、それでも口調と年齢が一致していないのでかなり不自然に見えるのだ。
「何でよ! こういう口調でも、外見がこれなら違和感ないでしょ!?」
「確かにそうだけどさ~……」
考えてほしい。
白髪のお婆さんがツンデレ口調で喋りかけてくるのを。
どう見てもただのカオスコメディーだ。
誰得要素の塊でしかない。
目の前のこいつは外見が美少女だから一見違和感が無いが、これも結局中身は婆さんなのだ。
そう考えたら、どうしても違和感しか浮かんでこないのである。
「おかしいじゃない! 私と同じような外見の17~8歳の女の子がこれをやったらあんただって素直に喜ぶくせに! どうして私だとそんな複雑な表情するのよ!」
年齢の先入観がどうしても物差しを狂わせてしまい、ちゃんとした判断が出来なくなるのだ。
どうやったらこれを素直に美少女扱いできるのだろうか……。
難しい話だ。
外見だけ美少女なら文句なし、ですかね?
それとも、相手との年齢もやっぱり意識しますか?
まあ、ファンタジー世界だから考えられそうなことですけどね。