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プロローグ
心の中のアラームの音が耳に突き刺さる。
針は早朝の5時を指している。少年にとって慣れっこだった、こんな時間に起きるのは。
ベッドから下りて、その部屋のカーテンを少しだけ開けて外を覗いてみる。粒のような星は明かりを取り戻していく空に染まりそうで、海は水平線から顔を出した太陽の光を浴びて、紅が青に染まった、紫の道を作り出していた。
しかし、少年には道などない。あの日常には戻れない。あの住み慣れた世界には戻れない。
まさかこんなことになるなんて。
そう思っていたとき、後ろの方から、(早く起きすぎなんだよ…)と息にも交じるような微かな声が聞こえた。
少年は静かにそちらの方を見た。
少年の隣のベッドにもう一人いた。
まるで少しの光さえも遮りたいかのごとく、その人物は頭を布で隠す。
その布からは黒い大きな耳と尻尾がはみ出していた。
少年の視線はまた外に向けられた。光は少しずつではあるが、徐々に力を増してくる。少年の寝ぼけ眼はその明るさについていけない。
「もう一回寝るかぁ…」
少年はつぶやいた。